記事・レポート
観る概念が変容するこれからの芸術
宮本亞門(演出家)×片岡真実(森美術館館長)
Creative for the future - クリエイティブで切り拓く未来への架け橋 vol.2
更新日 : 2021年02月16日
(火)
後編 アートが多様な「生きる」を可能にする
VRやオンライン環境が「見せ方」を拡張する

片岡:リアリティという意味では、時間的拘束も重要ではないでしょうか。VRを使った作品には、その体験時間にもアーティストの意図が込められているので、それをきちんと受け取るためには、その時間も必要になります。ただ、美術関係者はそういった仕組みが若干苦手です。展覧会であれば自分でスピードを変えられますし、行きたい時に行けるので。コロナの影響で色々な展示が予約制になったことが高いハードルになっているという方も沢山いらっしゃいます。
宮本:なるほど、美術館には、そういうハードルもあるのですね。

アートが多様な「生きる」を可能にする
宮本:このコロナ禍は、展示の仕方もそうですが、人々の気持ちの変化もあり、アートが出すテーマも変わってくるでしょうね。僕が興味を持っているのは「死」です。人類創世からのテーマですが、現代人にとってこれほど死者数を毎日テレビやネットで見聞きすることはなかったのではないでしょうか。また、コロナ禍では隔離され、最後のお別れも言えず、大切な家族と会えません。今まで、死を意識せずに忘れても日常が過ごせると思っていた現代人に、否応なしに「死」を目の前に提示されたことで、ある人は不安を、あるアーティストたちは自分の命を通してアートをする理由を一層感じたのではないでしょうか? 私たちは「死」があるから、今を知り「生」を感じられるのです。コロナ禍でのメメントモリに興味が湧きます。
片岡:私も生きるということをどう実感できるのか、自分はどう生きられるのかをこれから暫く問うことになるだろうと思っています。コロナ前に企画をした展覧会なのですが、2021年4月から「アナザーエナジー」というタイトルで世界各地の女性16人、71歳から105歳の方々の展覧会をします。皆さん、ビックリするほどパワフルで、現代アートを若者から奪取するみたいな、それくらいの勢いがあります。

宮本: それは楽しみですね。ファクトフルネス風に言うと、私たち人類は良き進化の途中です。女性達も含め、今、マイノリティの色んなことが浮き彫りになって、口先だけの多様性ではなく、本当に違う人間と向き合えるのか、という現実が試されていますね。先日、上演した舞台で『チョコレートドーナツ』という作品があります。それはドラッグクィーンが、ダウン症の子を愛するお話でマイノリティーが主役です。実際、プロデューサーの反対を押し切り、子役ではなくて、本当にダウン症のある子供たちに演じてもらいたくオーディションをしました。そうしたら、彼らの可能性と魅力たるや無限でした。過去の価値観で知らぬ間に測ってしまっていること、私たちにはまだまだあるんです。無理かも、出来ないかも、と思っていたことこそ価値がある時代が来ると思います。
片岡:あらゆる意味での「生きる」、つまり様々なジェンダーも、身体的な特徴も、ただあるがまま誰もが生きていい世の中であってほしい。障害のある方たちのアートもかなり注目されているのですが、私は健常者と呼ばれている人達と一緒に見せたいと思っています。宮本さんがダウン症の子達を採用するのと同じように、1人のアーティストとして同等に見せたい。ところで、ここ30年ぐらいのアートが面白いのは、欧米と日本、あとは少しのアジアしか見ていなかった現代アートが、あらゆる地域から出てくるようになって、いかに世界は知らないことで溢れているのかということに毎回気付かされることです。
その中でもちろん全く思ってもみなかった、あるいは本当に相容れないかもしれないような価値観と出会うこともあって、ただそれを批判する、否定するというだけではなく、いかにそれを包摂していくのかが問われています。特にコロナ禍で更に先が見えない時代になった時に、色々な人の色々な考え方に触れることによって、この先の未来になにかヒントになるようなことがあるのではないでしょうか。そういう出会いを今後続けていくことによって、多様なものが本当に共存できる世界を見たいと思っています。
宮本:今日、片岡さんと話をさせてもらって、互いに、人に触れたい、人に伝えたいという強い想いを感じました。これからも固定観念に捉われず、あらゆる可能性を楽しみ、発見していきたいと思います。演出家・宮本亞門を問い直し、見る側、見せる側。受ける側、受け取る側という線を壊した先に、見えてくるものが楽しみです。それには皆がお互い違う意見を聞く、感じる力を持つことが必要です。怖がらず、信じて、お互いにプラスになるものクリエートされていく世界、楽しみですね。また、これからも美術館や劇場の新たな役割を模索しつつ、新たな時代と共に、人の心に響くアート本来の魅力を信じていきましょう。(了)

片岡:私も生きるということをどう実感できるのか、自分はどう生きられるのかをこれから暫く問うことになるだろうと思っています。コロナ前に企画をした展覧会なのですが、2021年4月から「アナザーエナジー」というタイトルで世界各地の女性16人、71歳から105歳の方々の展覧会をします。皆さん、ビックリするほどパワフルで、現代アートを若者から奪取するみたいな、それくらいの勢いがあります。

宮本: それは楽しみですね。ファクトフルネス風に言うと、私たち人類は良き進化の途中です。女性達も含め、今、マイノリティの色んなことが浮き彫りになって、口先だけの多様性ではなく、本当に違う人間と向き合えるのか、という現実が試されていますね。先日、上演した舞台で『チョコレートドーナツ』という作品があります。それはドラッグクィーンが、ダウン症の子を愛するお話でマイノリティーが主役です。実際、プロデューサーの反対を押し切り、子役ではなくて、本当にダウン症のある子供たちに演じてもらいたくオーディションをしました。そうしたら、彼らの可能性と魅力たるや無限でした。過去の価値観で知らぬ間に測ってしまっていること、私たちにはまだまだあるんです。無理かも、出来ないかも、と思っていたことこそ価値がある時代が来ると思います。
片岡:あらゆる意味での「生きる」、つまり様々なジェンダーも、身体的な特徴も、ただあるがまま誰もが生きていい世の中であってほしい。障害のある方たちのアートもかなり注目されているのですが、私は健常者と呼ばれている人達と一緒に見せたいと思っています。宮本さんがダウン症の子達を採用するのと同じように、1人のアーティストとして同等に見せたい。ところで、ここ30年ぐらいのアートが面白いのは、欧米と日本、あとは少しのアジアしか見ていなかった現代アートが、あらゆる地域から出てくるようになって、いかに世界は知らないことで溢れているのかということに毎回気付かされることです。
その中でもちろん全く思ってもみなかった、あるいは本当に相容れないかもしれないような価値観と出会うこともあって、ただそれを批判する、否定するというだけではなく、いかにそれを包摂していくのかが問われています。特にコロナ禍で更に先が見えない時代になった時に、色々な人の色々な考え方に触れることによって、この先の未来になにかヒントになるようなことがあるのではないでしょうか。そういう出会いを今後続けていくことによって、多様なものが本当に共存できる世界を見たいと思っています。
宮本:今日、片岡さんと話をさせてもらって、互いに、人に触れたい、人に伝えたいという強い想いを感じました。これからも固定観念に捉われず、あらゆる可能性を楽しみ、発見していきたいと思います。演出家・宮本亞門を問い直し、見る側、見せる側。受ける側、受け取る側という線を壊した先に、見えてくるものが楽しみです。それには皆がお互い違う意見を聞く、感じる力を持つことが必要です。怖がらず、信じて、お互いにプラスになるものクリエートされていく世界、楽しみですね。また、これからも美術館や劇場の新たな役割を模索しつつ、新たな時代と共に、人の心に響くアート本来の魅力を信じていきましょう。(了)

観る概念が変容するこれからの芸術
宮本亞門(演出家)×片岡真実(森美術館館長) インデックス
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前編 「リアルに触れる」ことを今一度考える時代
2021年02月16日 (火)
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後編 アートが多様な「生きる」を可能にする
2021年02月16日 (火)
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