記事・レポート
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
更新日 : 2024年11月26日
(火)
【3章】VR空間での「距離感」と「スキンシップ」
開催日:2024年5月28日 (火) 19:00~20:30 イベント詳細
スピーカー:佐藤将大 (学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長)
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
モデレーター:塩瀬隆之 (京都大学総合博物館 准教授)
スピーカー:佐藤将大 (学校法人角川ドワンゴ学園 普通科推進室 室長)
バーチャル美少女ねむ(VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト)
モデレーター:塩瀬隆之 (京都大学総合博物館 准教授)
誤解したままの世界で生きていたことに気づく
佐藤:メタバースと産業や教育の視点で、少しお話をさせていただきたいと思います。私の実体験なのですが、現実世界で私は身長180センチ位で、男性の中でも大きい方です。これまで毎日通学通勤で満員電車に乗っていて多少の不快感はあっても、頭ひとつ飛び出ているのでちょっと嫌だな程度の気持ちで済んでいたんです。でも、メタバース空間ではアバターの身長を自由に変えられるので、小さいアバターを使っていたことがあります。そこで大きい人に囲まれたときに、周りの人間が「怖い」、と感じたんです。現実の世界で小柄な方は、毎日電車でこれを体験しているのだと気づいて、自分の中で価値観が変わるような、はっとする感覚があったんですよね。このように、目線、視点をこれまでと変えられるというのは、メタバースやウェアラブルの良さで、今後は商品開発などにも使われていくのではないかと思います。例えば、猫目線で家をリフォームしたいと言ったら、VRの中にその設計図を入れて、猫目線で実際歩いてみるというようなことが体感しやすくなりますよね。相手の目線に立つというのは、教育でも非常に重要な視点だと思うので、視点交換ができる部分は今後注目かなと思っています。
塩瀬:確かに。猫のサイズから見た魅力的な高さ、ドアの形なんかを見ることができるかもしれない。猫にヒアリングしても答えてくれないですもんね(笑)。
ねむさんは、メタバースでの体験の中で発見して、現実世界に戻ったときに、これは意外と面白かった、といった視点が変わった経験はありますか?毎日メタバースにいると、どっちがどっちかわからなくなるかもしれませんけど。
ねむ:例えば、現実世界ではジェネレーションギャップがめちゃくちゃあると思うんです。年上と年下に対するが扱いの違いが当たり前のようあって、私たちの骨の髄まで染み込んでいるんですよね。でも、メタバースでは話している相手、仲良くなった相手が自分より年上や年下かはわからないです。わからないまま仲良くなって、そのうち話の節々から、(あれ?もしかして一回り年上かな)とか(年上かと思っていたけど今度成人式って言った?)みたいなことがあるんですよ。今まで私達は、こんなにいろいろ誤解したままの世界で生きていたんだなって気付かされたことは発見でしたね。
塩瀬:よくテレビのニュースで、60歳で高校入学しましたとか、80歳で大学卒業しましたとか取り上げられることがありますが、それがニュースになるということは、社会が年齢をすごく気にしているということの裏返しですよね。生涯ずっと学び続けられることが当たり前という社会であれば、何歳で大学に入ろうがわざわざニュースにならないはずですもんね。
ねむ:「学び」の観点でいうと、今、メタバースの中でも「学びたい」という人はすごく多いと思います。ソーシャルVRの中で、ダンスを教えてもらう、みんなで英語の論文を読む、など色々なイベントがありますが、アバターだとスッと入っていきやすいんですよね。要するに、その場にいる人の年代や性別が関係ない、気にならないわけです。単純にテーマに興味がある人たちだけで集まってスッと仲良くなれてしまう。これは、「学び」にとって革命なんじゃないかと思います。
塩瀬:それはとても重要ですよね。学びにおいて、「恥ずかしい」という思いが邪魔になることはすごくたくさんあると思うんです。英会話はその典型だと思いますし、「恥ずかしい」という意識の部分を取り除くだけで、始めることができる学びは、とてもたくさんあるような気がします。メタバースではジェンダーやジェネレーションのギャップをぱっと飛び越えられて、どこにでも飛び込めそうですよね。
佐藤:そうですね。現実世界ではどうしても取り除けない、取り除きづらい障壁(例えば場所の都合や、身体の制限など)を、必要に応じて見えないようにして提供できるということも、メタバースの良さかなと思います。
塩瀬:確かに。猫のサイズから見た魅力的な高さ、ドアの形なんかを見ることができるかもしれない。猫にヒアリングしても答えてくれないですもんね(笑)。
ねむさんは、メタバースでの体験の中で発見して、現実世界に戻ったときに、これは意外と面白かった、といった視点が変わった経験はありますか?毎日メタバースにいると、どっちがどっちかわからなくなるかもしれませんけど。
ねむ:例えば、現実世界ではジェネレーションギャップがめちゃくちゃあると思うんです。年上と年下に対するが扱いの違いが当たり前のようあって、私たちの骨の髄まで染み込んでいるんですよね。でも、メタバースでは話している相手、仲良くなった相手が自分より年上や年下かはわからないです。わからないまま仲良くなって、そのうち話の節々から、(あれ?もしかして一回り年上かな)とか(年上かと思っていたけど今度成人式って言った?)みたいなことがあるんですよ。今まで私達は、こんなにいろいろ誤解したままの世界で生きていたんだなって気付かされたことは発見でしたね。
塩瀬:よくテレビのニュースで、60歳で高校入学しましたとか、80歳で大学卒業しましたとか取り上げられることがありますが、それがニュースになるということは、社会が年齢をすごく気にしているということの裏返しですよね。生涯ずっと学び続けられることが当たり前という社会であれば、何歳で大学に入ろうがわざわざニュースにならないはずですもんね。
ねむ:「学び」の観点でいうと、今、メタバースの中でも「学びたい」という人はすごく多いと思います。ソーシャルVRの中で、ダンスを教えてもらう、みんなで英語の論文を読む、など色々なイベントがありますが、アバターだとスッと入っていきやすいんですよね。要するに、その場にいる人の年代や性別が関係ない、気にならないわけです。単純にテーマに興味がある人たちだけで集まってスッと仲良くなれてしまう。これは、「学び」にとって革命なんじゃないかと思います。
塩瀬:それはとても重要ですよね。学びにおいて、「恥ずかしい」という思いが邪魔になることはすごくたくさんあると思うんです。英会話はその典型だと思いますし、「恥ずかしい」という意識の部分を取り除くだけで、始めることができる学びは、とてもたくさんあるような気がします。メタバースではジェンダーやジェネレーションのギャップをぱっと飛び越えられて、どこにでも飛び込めそうですよね。
佐藤:そうですね。現実世界ではどうしても取り除けない、取り除きづらい障壁(例えば場所の都合や、身体の制限など)を、必要に応じて見えないようにして提供できるということも、メタバースの良さかなと思います。
VR空間での「距離感」と「スキンシップ」
塩瀬:ねむさんは夢を見るとき、どっちで見るんですか?現実世界か、メタバースの世界の夢を見ることもあるのか。
ねむ:それはもう完全にメタバースの世界で、アバターの姿でコミュニケーションしている夢です。
塩瀬:ええ〜!そうなんですね。夢の中で、自分も周りの人もみんなアバターということですね?
ねむ:はい、それしか見ないですね、最近は。現実世界の私はリモートワークが多くて、あまり人と関わっていないというのもあるかもしれませんが、日常的にメタバースで人と会う方が断然多いので、コミュニケーションをしている相手の実在感はメタバースのほうが感じやすいんですよね。今日は会場の大きい画面でアバターの姿を映していただいているのでみなさんから見て私の存在感はあると思うのですが、あくまで違う場所にいて繋がっているという感覚だと思います。でも、VRで同じ空間に入っていると、本当に相手がそこにいて、目の前に存在していている、という感覚が伝わるんです。その感覚がないと、夢に出てくるところまでいかないと思いますね。
塩瀬:なるほど。ちなみに夢でメタバースにいるときに金縛りに遭ったりすることはないですか?金縛りで動けない、とか(笑)。
ねむ:金縛りは、私はないですね(笑)。でも、布団を被るとアバターの設定がおかしくなって身体がぐちゃぐちゃになっちゃったりすることはあると思います。
塩瀬:ん?アバターの状態で、布団をかぶって寝るということですか?
ねむ:はい。私はやらないのですが、「VR睡眠」といって実際に寝るときも身体にセンサーをつけたまま、VR空間で眠るということをやっている人も増えています。
塩瀬:なるほど。
ねむ:その理由は、起きたときに他の人にいて欲しいから、というのがあると思います。現実世界では、見ず知らずの人と一緒に泊まるなんて危険でできないですよね。でもメタバースの世界ではいわゆる身体的な危険は無いので、みんなで修学旅行のようにして、一緒に寝たい人はどうぞ、みたいな感じですね。メタバースが進んでくるとそういうことも当たり前になってくるかもしれません。ただ、流行っているんですが、私はどうしても実際に寝ることはできないです(笑)。
塩瀬:佐藤さんの映像では、メタバースの修学旅行で生徒さんたちが枕投げをしていましたよね。みんなあそこで寝泊まりしていたんですか?
佐藤:僕らの旅は、二日に分かれていたのですが、一日あたり数時間の企画だったので実際には寝ていません(笑)。
ねむ:距離感やスキンシップに関する面白いアンケート結果があるのでご紹介しますね。メタバースで生活をしたことが無い人にとってはあまりイメージが湧かないと思うのですが、メタバースユーザー向けのアンケートでは、「メタバース空間で相手との距離感は、現実世界でのそれと比べてどうなっているか?」を聞いてみました。すると、7割近くの人が、現実より相手との距離感が近くなっていると回答しています(グラフ左)。これはなぜだと思いますか?
ねむ:それはもう完全にメタバースの世界で、アバターの姿でコミュニケーションしている夢です。
塩瀬:ええ〜!そうなんですね。夢の中で、自分も周りの人もみんなアバターということですね?
ねむ:はい、それしか見ないですね、最近は。現実世界の私はリモートワークが多くて、あまり人と関わっていないというのもあるかもしれませんが、日常的にメタバースで人と会う方が断然多いので、コミュニケーションをしている相手の実在感はメタバースのほうが感じやすいんですよね。今日は会場の大きい画面でアバターの姿を映していただいているのでみなさんから見て私の存在感はあると思うのですが、あくまで違う場所にいて繋がっているという感覚だと思います。でも、VRで同じ空間に入っていると、本当に相手がそこにいて、目の前に存在していている、という感覚が伝わるんです。その感覚がないと、夢に出てくるところまでいかないと思いますね。
塩瀬:なるほど。ちなみに夢でメタバースにいるときに金縛りに遭ったりすることはないですか?金縛りで動けない、とか(笑)。
ねむ:金縛りは、私はないですね(笑)。でも、布団を被るとアバターの設定がおかしくなって身体がぐちゃぐちゃになっちゃったりすることはあると思います。
塩瀬:ん?アバターの状態で、布団をかぶって寝るということですか?
ねむ:はい。私はやらないのですが、「VR睡眠」といって実際に寝るときも身体にセンサーをつけたまま、VR空間で眠るということをやっている人も増えています。
塩瀬:なるほど。
ねむ:その理由は、起きたときに他の人にいて欲しいから、というのがあると思います。現実世界では、見ず知らずの人と一緒に泊まるなんて危険でできないですよね。でもメタバースの世界ではいわゆる身体的な危険は無いので、みんなで修学旅行のようにして、一緒に寝たい人はどうぞ、みたいな感じですね。メタバースが進んでくるとそういうことも当たり前になってくるかもしれません。ただ、流行っているんですが、私はどうしても実際に寝ることはできないです(笑)。
塩瀬:佐藤さんの映像では、メタバースの修学旅行で生徒さんたちが枕投げをしていましたよね。みんなあそこで寝泊まりしていたんですか?
佐藤:僕らの旅は、二日に分かれていたのですが、一日あたり数時間の企画だったので実際には寝ていません(笑)。
ねむ:距離感やスキンシップに関する面白いアンケート結果があるのでご紹介しますね。メタバースで生活をしたことが無い人にとってはあまりイメージが湧かないと思うのですが、メタバースユーザー向けのアンケートでは、「メタバース空間で相手との距離感は、現実世界でのそれと比べてどうなっているか?」を聞いてみました。すると、7割近くの人が、現実より相手との距離感が近くなっていると回答しています(グラフ左)。これはなぜだと思いますか?
塩瀬:アバターとアバターの距離感が、リアルの人間同士の距離感より近く感じる、ということですよね。
ねむ:はい。現実世界で、特に男性同士は、あまり身体的に近いコミュニケーションはしないですよね。でも、それがかわいいキャラクターの姿になると、お互いに仲良く近い距離感でコミュニケーションしやすい、ということです。
塩瀬:確かに、警戒せずに近づける気がしますね。
ねむ:さらに、次は「アバター同士でスキンシップをしますか?」を聞いた結果になります。これも7割ぐらいの方が「よくする+たまにする」と答えていますが(グラフ右)、これはすごいデータだなと思います。特に日本人の場合、リアルでは男性同士でスキンシップはほぼしない。でも、先ほどお伝えした通りメタバースのユーザーが男性が多いなかであっても、かわいいキャラクターになると、距離が近づくだけでなく、スキンシップまでしやすい空間だと考えられると思います。
塩瀬:以前、僕と佐藤さんが打ち合わせのZoomに入ったとき、お互いパンダのアバターでしたよね。
佐藤:そうですね。パンダ同士なら、スキンシップしても面白い、というか、良さそうな気がしますね。
ねむ:距離感に関連した事例をもうひとつ。「バーチャル学会」というイベントがあって、私も毎年出演しています。そこでは、VR空間の中でポスターセッションをやっています。
▼2023年の「バーチャル学会」ねむさんのセッションの様子(1:00:09〜)
一般的なプレゼンテーションを聞くだけであればZoom会議でもできると思いますが、VR空間のセッションのよいところは、現実と同じようなコミュニケーションの段階を踏めるというところです。最初は、私がポスターの側にいて話したりしているのをみんな遠巻きに見ているんです。プレゼンを聞いていて面白いと思ったらだんだん近づいてくる。そこから最終的に興味を持った人だけがその場に残って、もっと話して、仲良くなって、次は一緒にこんなことやってみましょうか、と新しい世界に繋がっていく。Zoom会議だとこれは難しいと思うんですよね。現実では当たり前なのですが、相手との距離感が視覚的にもわかるというのは、コミュニケーションとして大事なんだなというのが改めてわかって、これもメタバースのいいところだろうと思います。
塩瀬:面白いですね。メタバース空間でも、遠巻きに見るところから、だんだん近づいてくるという、親密度と距離に相関があるんですね。
ねむ:はい。現実世界で、特に男性同士は、あまり身体的に近いコミュニケーションはしないですよね。でも、それがかわいいキャラクターの姿になると、お互いに仲良く近い距離感でコミュニケーションしやすい、ということです。
塩瀬:確かに、警戒せずに近づける気がしますね。
ねむ:さらに、次は「アバター同士でスキンシップをしますか?」を聞いた結果になります。これも7割ぐらいの方が「よくする+たまにする」と答えていますが(グラフ右)、これはすごいデータだなと思います。特に日本人の場合、リアルでは男性同士でスキンシップはほぼしない。でも、先ほどお伝えした通りメタバースのユーザーが男性が多いなかであっても、かわいいキャラクターになると、距離が近づくだけでなく、スキンシップまでしやすい空間だと考えられると思います。
塩瀬:以前、僕と佐藤さんが打ち合わせのZoomに入ったとき、お互いパンダのアバターでしたよね。
佐藤:そうですね。パンダ同士なら、スキンシップしても面白い、というか、良さそうな気がしますね。
ねむ:距離感に関連した事例をもうひとつ。「バーチャル学会」というイベントがあって、私も毎年出演しています。そこでは、VR空間の中でポスターセッションをやっています。
▼2023年の「バーチャル学会」ねむさんのセッションの様子(1:00:09〜)
一般的なプレゼンテーションを聞くだけであればZoom会議でもできると思いますが、VR空間のセッションのよいところは、現実と同じようなコミュニケーションの段階を踏めるというところです。最初は、私がポスターの側にいて話したりしているのをみんな遠巻きに見ているんです。プレゼンを聞いていて面白いと思ったらだんだん近づいてくる。そこから最終的に興味を持った人だけがその場に残って、もっと話して、仲良くなって、次は一緒にこんなことやってみましょうか、と新しい世界に繋がっていく。Zoom会議だとこれは難しいと思うんですよね。現実では当たり前なのですが、相手との距離感が視覚的にもわかるというのは、コミュニケーションとして大事なんだなというのが改めてわかって、これもメタバースのいいところだろうと思います。
塩瀬:面白いですね。メタバース空間でも、遠巻きに見るところから、だんだん近づいてくるという、親密度と距離に相関があるんですね。
関連書籍
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バーチャル美少女ねむ技術評論社
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