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イノベーターとしての人間・松下幸之助

~喧々諤々、「神様」ではない真の姿を追う~
『松下幸之助~きみならできる、必ずできる』

更新日 : 2018年12月19日 (水)

後編:『松下幸之助~きみならできる、必ずできる』

経営者としての葛藤
竹中:イノベーションを定義した経済学者シュンペーターの名言に「資本主義はその成功の故に失敗する」というのがあります。企業は大きくなって立派になれば必ず官僚主義になり、皆が成功体験に捉われて、成功したが故に資本主義そのものが滅びると。まさにそんな悩みを抱えながら幸之助さんは日々を送っていたのでしょうね。

米倉:従業員のモチベーションを巧みにコントロールしていた幸之助も、必ずしも常に人心を掌握できていたわけではありません。有名な熱海会談では、ナショナルショップのオーナー達が反乱を起こしました。原因は2つ。ひとつは、俺たち全国のショップがナショナルブランドを現場で育ててやったのに、長者番付1位になって随分遠いところに行ってしまったじゃないか、という情の問題です。もうひとつは各店舗とやり取りをする営業販売部が、横柄な態度で機械的に大量に在庫を流すという組織的な問題でした。この出来事を通して、幸之助は取扱代理店と自分との間に「情」の問題があると悟り、以後徹底的に頭を下げました。また当時会長だったのに、営業取締役本部長に自ら返り咲いて組織改革にも乗り出しました。

松本:会社というのは健全な対立をすべきだと思います。それこそワンマンの社長がいれば、対立は絶対必要です。段々と神格化されていくと、誰も物を言わなくなるんです。幸之助さんの周囲も、恐らく対立してはいけないと思う時期があったのではないでしょうか。「権腐十年」という言葉がありますが、正にその通りだと思います。私も「正しいことを正しく」ということを、常に信念に置いています。なぜなら、組織の中にいると、上もいて横もいて、いろいろ議論してこれが正しいと思っても正しいことがなかなかできない。法律はもちろん守りますが、会社の中のいろんなルールは一切守らなくて良いと思っています。それよりも何が正しいかを議論し、自分たちが正しいと思うことを正しくやることが重要であると、常に従業員に申してきました。


自分や仲間に余裕をもって接する
竹中:評論家の山崎正和さんが言っていました。「皆さん、経営の神様は聞いたことがあっても、政治の神様、ジャーナリズムの神様って聞いたことがないでしょう?これは経営者というものに対する我々日本人の敬意を表しているんです。やはり世の中を豊かにしてくれる人は素晴らしい人なのです」と。

松本:関西だけかもしれませんが、家康や信長よりも秀吉が支持されていますよね。幸之助はなんとなく秀吉と近い雰囲気がありますよね。赤貧からあれだけ成功したということに対する憧れとリスペクト、皆を豊かにしてくれたことに対する感謝が「神様」という言葉に集約されています。

竹中:私たちは過程ではなく結果ばかり見て美化しがちになります。しかしながら、彼は初期の頃から非常に様々な苦労をし、たくさんのことをそこから学んだことで、大きな結果を残したのだなと改めて感じます。幸之助の言葉で「心に縁側を持て」というのがあります。私の大好きな言葉です。縁側というのは家の外か内かわからない位置にあるんですよね。つまり余剰という意味を持つ英語の「リダンダンシー」です。彼にはリダンダンシーがあったからこそ、様々な局面を乗り越えられたのでしょう。

米倉:「任せて任せず」という名言もありますね。貧乏で学歴もなく、身体も弱い彼のところには、普通の会社だと勤まらないような人たちばかりが来て、従業員として大手を振ってやっていたんです。幸之助は彼らに対してもシンパシーを持って「君ならできる、必ずできる」と言った。社長にこう言われて燃え上がらなかった若者はいなかったでしょう。この名言が松下電器、パナソニックを大きく動かす力になったに違いありません。


<関連書籍>

松下幸之助 きみならできる、必ずできる

米倉誠一郎
ミネルヴァ書房

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