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すべては「好き嫌い」から始まる
楠木建×米倉誠一郎が語る「これからの仕事論・生き方論」
更新日 : 2016年12月21日
(水)
【前編】キャリアの「正解」など誰にも分からない
昨今は人々の価値観が多様化し、生き方・働き方が自由に選択できるようになった反面、キャリアについて思い悩むビジネスパーソンが増えています。経営学者の楠木建氏は近著『好きなようにしてください』で、ビジネスパーソンからの様々なキャリア相談に対し、独自のキャリア論を展開しつつ、「好きなようにしてください」と一刀両断しています。このトークでは、そんな楠木氏と日本元気塾塾長・米倉誠一郎氏が、混沌の時代を生き抜くためのイノベーティブな仕事論・生き方論を深掘りしていきます。
スピーカー:楠木建(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授)
モデレーター:米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
気づきポイント
●優れた経営者ほど、「良し悪し」ではなく、「好き嫌い」で仕事をしている。
●趣味はもちろん、仕事やビジネスも「好き」から始まっているものが最もパワフル。
●自分を騙して嫌いな仕事を続けていると、何が「好き」なのかさえ判断できなくなる。
●優れた経営者ほど、「良し悪し」ではなく、「好き嫌い」で仕事をしている。
●趣味はもちろん、仕事やビジネスも「好き」から始まっているものが最もパワフル。
●自分を騙して嫌いな仕事を続けていると、何が「好き」なのかさえ判断できなくなる。
「良し悪し」と「好き嫌い」
米倉誠一郎: 今回、皆さんにお伝えしたいことは4つあります。1つ目は「可能性は誰もが持っている」。それを使わないのはもったいない。知識や経験をフル活用しながら、もっともっと愉快に楽しく生きていきましょう。
2つ目は「創発的破壊」。2011年に起きた「アラブの春」では、絶対に倒れないと言われていた独裁政権が倒れました。その原動力となったのは、twitterやFacebookから発せられた小さな声でした。この時、僕は「創発」という概念と出会いました。個々の小さな営みが、総和として巨大なパワーを持つようになり、社会を変える。これからの時代、必要なのは一人のカリスマではなく、たくさんのプロフェッショナルです。
3つ目は「2枚目の名刺を持つ」。日本の人口が減少の一途をたどる中、今後も日本人が世界で存在感を発揮し続けるためには、一人二役、三役を担うことが大切になります。人口減少には「創発」を通じて個の力を引き出し、イノベーションを起こすことで立ち向かいましょう。
4つ目は「人間、あっという間に歳をとる」。皆さんもやりたいことがあれば、ぜひ若いうちから始めてください。私達が一歩を踏み出さなければ、今の状況は一向に変わらず、次世代により良い未来を受け渡すこともできません。今こそ、一歩を踏み出す勇気を持ちましょう。
さて、今回は僕の尊敬する後輩・楠木建君をゲストに迎え、「これからの仕事論・生き方論」を考えていきます。まずは、一歩を踏み出したい人々の真剣なキャリア相談に対し、「好きなようにしてください」と言い放つ楠木君の考えを聞きたいと思います(笑)。
楠木建: 僕は「競争戦略」という分野で仕事をしています。2016年2月には、『好きなようにしてください~たった一つの「仕事」の原則』という、競争戦略とはとくにかかわりがない本を出しました。これはNewsPicksで連載した「楠木教授のキャリア相談」が元となっています。
毎回、ユーザーからキャリアに関する様々な相談が寄せられましたが、当然、人によってキャリアに対する考え方はまったく異なり、誰もが納得するような答えはありません。「大企業とベンチャー、就職するならどちらがいいでしょう?」と相談されても、意見やヒントは与えられますが、正解は本人以外分からない。結局、「好きなようにしてください」と言うしかない。
そこで、この連載は相談にお答えするという形式に仮託して、僕なりの仕事論を一方的に主張する場として活用していました。もちろん、回答には僕なりのバイアスがかかりまくっています。まずは僕がどういう人間なのか、簡単にご紹介します。
まず、「全力投球」が嫌い。僕は、世の中のことは9割方、思い通りにならないと考えています。この世界には育った環境や価値観、得意なことが異なる人間が70億人もおり、それぞれ利害をぶつけ合いながら仕事や生活をしています。思い通りにならないのは当たり前ですよね。
たとえ全力投球しても、思い通りにならない、上手くいかない。でも、全力投球している以上、それは本当に「できない」ということになる。僕はそれを認めるのが嫌なので、何事も8割ほどの力でやります。上手くいかなくても、「全力出してないから」と言えるから(会場笑)。特徴というよりも欠点ですね。
「チームワーク」が嫌いです。誰かと一緒に働くことが苦痛でなりません。百歩譲って、率いられるのはまだいい。リーダーシップがないため、率いることができません。「挑戦」「努力」も嫌いです。困難からすぐに逃げる。子どもの頃から自覚しており、何度か克服を試みたこともありますが、この歳までできませんでした。ということは、今後も変わらないと思います。
仕事と趣味はどう違う?
楠木建: 仕事とは何か? 大前提として、仕事と趣味は違います。趣味は、自分が楽しければOK、ベクトルはすべて自分に向いています。一方、仕事は自分以外の誰かのためにやるもの、ベクトルは外側に向いています。僕は27年前からバンドを続けています。コンセプトは、「自分達が一方的に気持ちよくなる」こと。なので、ライブにはほとんどお客さんが来ません。来てくれる人を「犠牲者の方々」と呼んでいます。趣味は他人に価値を提供しない。誰にも求められていないけれど、自分は楽しい。これが趣味の世界です。
「仕事は良し悪しだ」という意見があります。こう語る方は大抵、インセンティブ(誘因)について論じています。誘因とは、自分の外側にあり、自分をある方向に誘うもの。昇給、昇進、周囲からの称賛。基本的に、世の中において「良いこと」だと認識されていることを達成すれば、インセンティブが手に入ります。
「良いことが達成できなかったら、(降格・減給など)悪いことが起きる」と言われれば、良いことに向かっての努力が強制されます。そうなるとスキルが向上し、インセンティブが手に入る。周囲からも称賛され、ますます頑張るようになり、スキルがさらに向上する。これが良し悪しの世界における「良さへの循環」です。
ところが、僕は「仕事こそ、良し悪しではなく、好き嫌いで選ぶべきだ」と言いたい。これは「ありのままに」「頑張らなくてもいいんだよ」といった癒し系の話ではありません。僕は仕事とは非常に厳しいものだと思っています。
仕事とは、誰かの役に立つことで初めて仕事になる。なぜ、役に立てるのかと言えば、あることについて「余人をもって代え難い」レベルに達しているから。努力をすれば、誰もがそれなりのレベルにはなりますが、「この仕事はあの人でなければダメだ」と言われるほどのレベルになるのは容易ではない。そもそも、自分のなすべき仕事について「努力している」と感じた時点で、その仕事は向いていない。僕は「努力しなきゃ…」と思ったことで上手くいったことはひとつもありません。
僕が提案したいのは「努力の娯楽化」。大好きなことに取り組んでいると、傍から見れば努力しているようでも、本人はまったく辛くないし、苦しくない。趣味ではよくあります。なぜなら、本人にとっては娯楽だから。
のめり込む。「努力する」というより「凝る」。心底好きなことであれば、努力は娯楽になり、長続きします。「継続は力なり」の言葉通り、続けるうちに「余人をもって代え難い」レベルに達することもできる。すると、仕事としての成果が出るようになり、人に必要とされるようになる。人間はよくできているもので、誰かに必要とされた時がいちばん嬉しい。それが最高の報酬となり、ますます頑張るようになり、上手になる……というサイクルがループしていく。この循環論理をあっさり言うと、「好きこそものの上手なれ」。
どれほど外側から力を加えても、人間は動かないことがあります。大金を積んでも、熱狂的な阪神ファンは巨人ファンにはならないでしょう。好き嫌いは命令・指示できないものであり、買うこともできない。仕事やビジネスにおいても、「好き」から始まっているものが最もパワフルです。
僕が提案したいのは「努力の娯楽化」。大好きなことに取り組んでいると、傍から見れば努力しているようでも、本人はまったく辛くないし、苦しくない。趣味ではよくあります。なぜなら、本人にとっては娯楽だから。
のめり込む。「努力する」というより「凝る」。心底好きなことであれば、努力は娯楽になり、長続きします。「継続は力なり」の言葉通り、続けるうちに「余人をもって代え難い」レベルに達することもできる。すると、仕事としての成果が出るようになり、人に必要とされるようになる。人間はよくできているもので、誰かに必要とされた時がいちばん嬉しい。それが最高の報酬となり、ますます頑張るようになり、上手になる……というサイクルがループしていく。この循環論理をあっさり言うと、「好きこそものの上手なれ」。
どれほど外側から力を加えても、人間は動かないことがあります。大金を積んでも、熱狂的な阪神ファンは巨人ファンにはならないでしょう。好き嫌いは命令・指示できないものであり、買うこともできない。仕事やビジネスにおいても、「好き」から始まっているものが最もパワフルです。
川の流れに身をまかせ
楠木建: 『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』『好きなようにしてください』。僕は「スキスキ三部作」といっています。先の2つの本は、「優れた仕事、優れた経営の本質を知りたいのなら、好き嫌いだけを聞くことが最良の方法だ」という発想で作った本です。
原田泳幸さん。とにかくストイック。厳しい状況、クライシスが大好き。結果はシビアに評価されますが、本人はそこに至るまでの苦しい道のりを嬉々として楽しんでおり、その段階で本人としてはすでに報われている。
UNITED ARROWSの創業者・重松理さん。「大好きなファッションの世界で、好きなことをしてきただけ」と語るように、常に自然体です。成功を収めた創業者ともなれば、退任挨拶は熱い想いを語ることが多いものですが、重松さんは代表を退く際、「後は好きなようにしてください」とだけ言い残し、帰っていったそうです。
世の中には様々なタイプの経営者がいますが、優れた経営者ほど良し悪しではなく、好き嫌いで仕事をされています。そして、彼らの仕事は、不思議と社会から求められていることと強く結びついています。
僕が考えるキャリアとは、川の流れのように、時の流れに身をまかせ。2つ合わせて、「川の流れに身をまかせ」。僕個人の意見ですが、これでいいと思っています。
世の中、思い通りにならないことばかり。いつ、何を好きになるかも分からない。だからといって、手を抜いたり、人任せにしたり、ではダメ。流れている間も、その時点でやるべきことには全力を尽くす。しかし、あくまでもキャリアについて考える時は、好き嫌いを軸に考えたほうが絶対にいい。だから皆さんも、好きなようにしてください。
関連書籍
「好き嫌い」と経営
楠木建東洋経済新報社
「好き嫌い」と才能
楠木建東洋経済新報社
好きなようにしてください
楠木建ダイヤモンド社
該当講座
すべては「好き嫌い」から始まる
〜 これからの仕事論・生き方論 〜
「好き嫌い」という視点から観察・分析してきた楠木教授と、「ふつうのビジネスパーソン」が“自ら一歩を踏み出す人間”へ変革することを目指す、日本元気塾塾長の米倉教授による、混沌とした時代を生きるための仕事論・生き方論をテーマにした対談セッションです。
日本元気塾セミナー
すべては「好き嫌い」から始まる
インデックス
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【前編】キャリアの「正解」など誰にも分からない
2016年12月21日 (水)
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【後編】自分の「好き嫌い」を抽象化してみる
2016年12月21日 (水)
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