記事・レポート

日本元気塾セミナー
イノベーションを起こしつづける“ピーチ流”に迫る

LCCピーチの躍進は、「空飛ぶ電車」という新発想から!

更新日 : 2016年11月30日 (水)

【前編】

2012年、日本の航空業界は大きな転換点を迎えました。LCCの台頭です。価格の魅力から消費者への広まりはすさまじく、業界地図を一気に塗り替えてしまう可能性すら感じさせるものでした。しかし現在、多くのLCCが苦戦を強いられています。消費者の取捨選択基準が定まり、LCC大手が一部ラインからの撤退を決断するなど淘汰がはじまっています。

そのような中、3年連続の増収増益を達成し、ますます勢いを強めている会社があります。それが、「Peach」でお馴染みのPeach Aviation 株式会社です。単なる価格競争に巻き込まれるのではなく、現場の隅々までピーチ流ビジョンを浸透させ、ホスピタリティを稼ぐ知恵に変えています。
今回、CEOの井上慎一氏にご登壇いただくことができました。現場やお客様からの声をサービスの質向上につなげていく“ピーチ流”の仕組みづくりを、米倉塾長の視点で紐解きます。

講座開催日:2016年6月24日 (金) 19:00〜20:30
スピーカー:井上慎一(Peach Aviation株式会社)、米倉誠一郎(日本元気塾塾長)


なぜピーチは急激な躍進をとげることができたのか?


◎ヨーロッパのサル真似はしない!
◎鍵は、「おもてなし」と「楽しくコストダウン」
◎社名「ピーチ」は『空を飛ぶ電車』の発想から生まれた
◎機内アナウンスを方言で!ホスピタリティをとことん追求する
◎社員全員で知恵を絞るから全サービスに理念が行き渡る

 
天安門事件への全日空の対応で実感した
「空の懸け橋」という航空会社の使命

米倉誠一郎: まず、ピーチを立ち上げる前の井上さんのキャリアについてお伺いします。なぜ、三菱重工から全日空に転職したのでしょうか?

井上慎一: 前職で北京駐在時、天安門事件が起きまして、全日空の「奇跡のハンドリング」と呼ばれる対応を目の当たりにしたのです。空港閉鎖になるような大変な状況時に、「空港でパスポートをコピーしたら、チケット代は後払いですぐに搭乗できる」「偉い人もそうでない人も順番に乗せる」という対応がとられていたのです。

米倉誠一郎: 天安門事件は本当に大変だったようですね。内戦一歩手前で。全日空の対応は、顧客が逃げる時に、「チケットはいらない」という対応(注釈1)だったですね。

井上慎一: はい。その印象も強く、中途採用募集があり面接に出向いて内定をいただき、「空の懸け橋」に参画したいという思い入社しました。
ちなみに、面接時に「あの時のチケット代はどうなりましたか」と聞くと、全部回収できたそうです(笑)。

米倉誠一郎: そうした危機的状況における対応はずっと縁として残りますよね。先日、トルコに行ったのですが、トルコの方は明治時代に難破した船を日本人が助けてくれた事を皆知っていて、私にもフレンドリーな対応をしてくれるんです。イランで革命が起こった時には、パーレビ国王の指令でトルコ航空だけが日本人を乗せて便を出してくれたりもしていますね。

(注釈1)当時、状況を考慮して、予め誓約書を交わし、後日払いでチケットを発行しました。


写真左:米倉誠一郎(日本元気塾塾長)写真右:井上慎一(Peach Aviation株式会社)

 
ピーチの開業前夜。
「人のせいにするな!」LCC後進国・日本市場に切り込む覚悟を固める

米倉誠一郎: 全日空に入られ、中国語ができるので統括部に配属され、人事、総務を経てLCC を任されたのですね。どのような経緯で決まり、立ち上げをしていったのでしょうか。

井上慎一: 社長に突然北京から呼び戻され、LCCというビジネスモデルを使ってインバウンドを取り込む航空会社を作れといわれました。
立ち上げには、現在も弊社のアドバイザーをお願いしているヨーロッパ最大の航空会社ライアン航空の存在が大きかったですね。

米倉誠一郎: ライアン航空というと、ロンドン—パリ間が1ポンド(約360円)という驚きの価格を実現していますね。

井上慎一: LCCレジェンドと呼ばれるライアン航空の創業者で元会長のパトリック・マーフィー氏と出会うことができたのです。日本にいてもLCCのことは誰も知らない。それならば知っている人に聞こう、と。当時シンガポールで開催された初のLCCのカンファレンスに行きました。
会場で手当たりしだいに直撃しても誰も相手にしてくれなかった時、マーフィー氏に体当たりしたところスイスジュネーブのオフィスで会ってくれることになりました。半日の約束だったのを、懸命に話していたらいつのまにか夜になっていました。

なぜ日本がLCCの導入が一番遅れたかを話した時、私が「着陸料が高い」、「施設使用料が高い」「規制が多い」と並べ立てたら、話をさえぎられて「君は何をしたんだ」とピシッと言われました。「国土交通大臣のところにいって窮状を訴えたのか?」、「各空港を回り、このぐらいの料金にしてくれ とネゴシエーションしたのか?」「何もしないのに、人のせいにするな。そういう人には新しい事業はできない!」。米倉先生にも同様のアドバイスをいただいたことがありますが、マーフィー氏にも言われ、それ以来、自分の行動パターンが変わりました。

「格安航空会社」ではなく「ローコストキャリア」
ホスピタリティとコストをいかにコントロールしていくのか

米倉誠一郎: 井上さんは「LCCは日本語の翻訳が悪い」とおっしゃっていますね。
「格安航空券」というと、あるものをたたき売っている印象があります。ロー・コスト・キャリアというのは、価格が安いのではなくて、コストを抑えていること。だから低コストキャリアなのですね。

井上慎一: マーフィー氏はコストを下げることを力説していました。そして「運賃を下げると、潜在需要が必ず感知されるので、それを目指すのだ」という考えです。また、格安だけでなく、高く売れる時はフルサービスで高く売っていく。メリハリをつけていくことが大事だともアドバイスをうけています。
もう一つ、ホスピタリティについてもマーフィー氏の教えがありました。「いたずらにホスピタリティをあげても、無駄に期待値があがるだけ。もちろん、顧客の期待値を下回ってもだめだが、相対的に満足するようにコントロールすれば長期的に満足度は上がる。それがホスピタリティなので、忘れてはだめだ。」

米倉誠一郎: 日本人は元来、コストマネジメントが得意です。トヨタ、三菱などもコストコントロールすることで競争力を上げてきました。決して質を下げてコストを抑えるのではなく、日本人のホスピタリティをもってやれているからこそ、成長できているのだと思います。

独立系だからこそ生まれた覚悟
そして集まる知恵

米倉誠一郎: 全日空の子会社だから成功したのでは?という見方もありますがいかがでしょうか?

井上慎一: 香港でLCCの失敗例を調べていた時に分かったことがあるのですが、親会社の連結子会社は、ことごとくこけていました。しかし、独立系であるライアン航空やサウスウエスト航空などは利益を出している。私も、全日空には連結子会社にしないようお願いしました。

米倉誠一郎: 今、最大株主といっても、何%ですか?

井上慎一: 38%です。

米倉誠一郎: 最大株主といっても、経営は独立しているんですね。さらに、香港の資本を入れていますよね。

井上慎一: インバウンドを取り込めという、故・山元社長のご指示があったためです。
私も、香港・北京・台湾と駐在しましたが、結局日本人は彼らの動きが分からないのです。
華僑の動きが分かるのは華僑だろうということで、香港のプレイべートブランド・ファーストイースタンに参加いただきました。華僑の動きなどは、彼らから聞いて初めて分かることがあるので大変助かっています。

米倉誠一郎: 彼らもハッピーですよね。4年で累損が一掃され、利益還元しているし素晴らしいですね。
この前、マクドナルドがだめになって分かったことは、アメリカマクドナルドは、日本マクドナルドの株50%持っていたこと。だからマクドナルド創業時の1970年代から2010年まで、どれぐらい利益を上げていたんだろうと思いますね。
ピーチのように世界からいい資本入れバックアップしてもらえば、利益還元で彼らもハッピーだし、こちらも華僑、中国の知恵いろんなものもらえるし、本当の意味でのグローバルが実現できていますよね。

該当講座


イノベーションを起こしつづける“ピーチ流”に迫る
〜躍進するLCC!トップから現場まで、ビジョンが浸透する秘訣を聞く〜
イノベーションを起こしつづける“ピーチ流”に迫る 〜躍進するLCC!トップから現場まで、ビジョンが浸透する秘訣を聞く〜

Peach Aviation代表取締役CEOの井上氏と日本元気塾塾長の米倉氏の対談です。
トップから現場の隅々までビジョンを浸透させる井上CEOのマネジメント・スタイルや、現場やお客様からの声を吸い上げ、サービスへと還元する“ピーチ流”の仕組みづくりについて伺います。


日本元気塾セミナー
イノベーションを起こしつづける“ピーチ流”に迫る  インデックス