オピニオン・記事

サイエンスシリーズ~宇宙の最前線

宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか?

更新日 : 2016年08月03日 (水)

第4章 宇宙は何によってつくられているのか?


 
WMAPがもたらした驚きの事実

小松英一郎: CMBの観測は、大気の影響を受けやすい地上よりも、宇宙空間で行うほうがたくさんの有効なデータが得られます。CMBを観測する電波望遠鏡を乗せた人工衛星は、1989年にNASAが打ち上げたCOBE(Cosmic Background Explorer)があります。COBEは、CMBのより正確な温度を調べただけでなく、原始宇宙からもたらされる光にごくわずかなムラ、いわゆる「ゆらぎ」があることを発見しました。

2001年には、より観測精度の高い後継機WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe/ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機)という人工衛星が打ち上げられました。当時、プリンストン大学にいた僕も、WMAPプロジェクトの一員として20名ほどの研究チームに参加し、観測データの解析に携わりました。

WMAPは、月をはるかに超え、月までの距離の約4倍の位置にある「第2ラグランジュ点」で観測を行いました。宇宙の360度、あらゆる方向から届くCMBを観測しましたが、それによって分かったことがたくさんあります。平面スクリーンで360度の世界を表現するのは難しいため、世界地図のモルワイデ図法の要領で北半球と南半球をパカッと開いた、CMBの全天分布図を使ってご説明します。

宇宙は、波長によって様々な姿を見せます。赤外線、遠赤外線、サブミリ波ときて、最後にマイクロ波で見ると、画面は真っ白。つまり、宇宙全体がCMBで埋め尽くされているわけです。

WMAPは約10万分の1度の精度で温度を観測できます。全天分布図を見ると、ちょうど赤道にあたる部分が赤くなっていますが、これは天の川銀河が出しているそれほど古くない時代の光です。それ以外の黄色や緑、青い部分が「宇宙の晴れ上がり」によって見えたビッグバンの残光、CMBのゆらぎです。赤に近づくほど温度が高く、青に近づくほど温度が低い。実は、物質は温度が低い場所にたくさん集まります。つまり、青が最も濃い場所で最初の星が生まれた、と考えられるわけです。
 
謎に満ちた宇宙の組成

小松英一郎: 宇宙が始まった直後に急膨張(インフレーション)が起こり、その際に生み出されたゆらぎがさざ波のように広がりました。しかも、ゆらぎはインフレーションの間中、いくつもつくり続けられていました。

その後、ビッグバンが起こって宇宙は超高温状態になり、陽子、ヘリウム原子核、電子が結びつかない完全電離状態となり、まるで1つの流体のように振る舞っていました。そこにもゆらぎの痕跡が刻まれています。これを「味噌汁」に例えると分かりやすいと思います。例えば、濃さが異なる味噌汁があり、それぞれに豆腐を投げ入れてみる。すると、異なる形のさざ波が立ちます。このさざ波が立つ様子と同じことが、宇宙の始まりの時に起こったのです。

豆腐に相当する何かが加えた一撃、それにより生じたさざ波の形を細かく解析することで、宇宙が何からできたのかも分かりました。ポイントごとの温度の違いを様々な波長を持つ波に分解し、それぞれの波長の振幅を調べ、そのデータを理論曲線と比較しました。

この解析によって、宇宙の組成は水素とヘリウムが5%、暗黒物質(ダークマター)が23%で、残りの72%は物質ではない正体不明の「暗黒エネルギー」(ダークエネルギー)であることが分かりました。ちなみに、暗黒物質についても、強い重力を及ぼすことは分かっていますが、見ることも触ることもできない正体不明の物質です。

つまり、宇宙の謎を解き明かそうと懸命に測定し、懸命に波を解析したものの、我々は宇宙の95%を理解できていないことが分かってしまった……。さらに、正体不明のエネルギーまで登場してしまった。まさに謎が謎を呼ぶ展開です。これだから宇宙の研究はやめられません(笑)。また、この観測データの解析により、宇宙の年齢が137億歳であることも分かりました。




該当講座


六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜
六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜

小松英一郎(マックスプランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員)
宇宙の“始まり”や“終わり”とはどのようなものなのでしょうか? そして宇宙を構成している成分は何か? 宇宙の進化とは? これらを研究するのが「宇宙論」です。過去20年間に宇宙論は爆発的な進展を遂げてきました。特に観察装置の進化により、これまで見えなかった宇宙が見えるようになってきたのです。本講演では、最新の宇宙で起こっている信じ難い現象を紹介するとともに、研究者がいかにして解き明かしてきたかをお話しいただきます。



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