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宇宙は何でできているのか ~宇宙の果ての向こう~

暗黒物質や暗黒エネルギーなど最新宇宙論を、村山斉が解説

教養文化
更新日 : 2012年01月13日 (金)

第3章 暗黒物質の正体に迫る

村山斉: 銀河が何百個と集まって「銀河団」をつくっています。銀河団の写真をよく見ると、線のように見える天体が映っているのがわかります。実はこれもほかの銀河と同じようにきれいな形をした銀河なのですが、銀河団のさらに向こうにある銀河なんです。なぜ線のように見えるのかというと、銀河団には暗黒物質が集まったところがあって、その重力のせいで、向こうの銀河から出た光が曲がっているからです。

こうしてゆがんで見える銀河を一つひとつ丹念に調べると、暗黒物質の地図をつくれます。暗黒物質は目には見えないのですが、「ここにこれだけある」という分布図がつくれるんです。暗黒物質の分布図をつくった結果、銀河も銀河団も、そのほとんどは目に見えない暗黒物質でできているということがわかってきました。宇宙の物質の8割以上は、私たちの体やあらゆる物をつくっている原子ではなく、得体のしれない、目に見えない、不思議な物質なのです。

この不思議な物質の性質が、少しわかった写真があります。それは、地球から約40億光年離れたところで、2つの銀河団が毎秒4,500kmのスピードで正面衝突した写真です。銀河団はほとんど暗黒物質でできていると言いましたが、当然、普通の原子でてきている物質もあります。ガスはその1つで、銀河団同士がぶつかるとガスは反応して高温になって光ります。その写真に計算で割り出した暗黒物質がある場所を重ねてみると、不思議なことに、ガスと暗黒物質の位置がずれてしまうのです。

なぜこんなことになるのかというと、ガス同士はぶつかると反応して熱くなって摩擦ができて遅れをとるのですが、暗黒物質は何事もなかったかのように、そのままスーッと行ってしまうからです。暗黒物質は、遅れをとったガスを重力で一所懸命引っ張りながら動いている、だからガスと暗黒物質の位置がずるのです。

つまり、暗黒物質は自分自身とも衝突しないし、普通のガスとも反応しない、ニュートリノ以上にお化けのような粒子だということがわかってきました。

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『宇宙は何でできているのか』

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『宇宙は本当にひとつなのか』

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宇宙は何でできているのか 

~宇宙の果ての向こう~

宇宙は何でできているのか 
村山斉 (東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)

村山斉(東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)ベストセラー『宇宙は何でできているのか -素粒子物理学で解く宇宙の謎-』の著者である村山斉氏に、最新の観測・研究からわかった宇宙のはじまり についてお話いただきます。 セミナー終了後は、観望会を予定しております。


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