記事・レポート
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏 来日記念セミナー
更新日 : 2009年11月27日
(金)
第6章 お金を稼ぐ目的は何ですか?
米倉誠一郎: (金融危機という)この現状で、グローバル資本主義というものに、みんなが疑いの目を向けるようになっています。僕は改革派ですが、それでもグローバル資本主義は大事だと思っています。ユヌスさんはどんなふうにお考えですか?
ムハマド・ユヌス: 問題はありますし、今非常に惨憺たる状態にはありますが、私も資本主義を信じております。その理由は1つで、私は個人の能力を信じているからです。すべての人間は無限の潜在的な力を持っていて、その力を発揮できるような環境づくりをすればいいと思うのです。少なくとも理論上、資本主義というのはそれができますし、それを実現しようとしてきたはずです。
我々が目にしている資本主義というのは、まだ道半ばです。これは大きなチャンスです。今は、人間についてあまりにも狭すぎる見方をしています。人間は金を生み出す機械ではありません。人間は世界を変えることができるのです。一人ひとりが内在的に希求する力を発揮できれば、資本主義は制度としてずっとよくなり、バランスのとれたシステムになるはずです。未完成の部分をソーシャル・ビジネスによって埋めることができる。その仕組みをつくり上げることによって、いろいろな問題を是正することができると思います。
若い人々はみんな、それをしたがっていると思います。今苛立ちを覚えているのは、「単にお金をもうけるだけではつまらない」と思っているからなのです。「お金を稼ぐ」のには目的がなければいけません。その目的は「世界を変える、よりよくしていく」ということです。チャレンジをして、我々は我々がつくった世界を自慢できる世界にしなければなりません。
米倉誠一郎: 感激します。しかし、この経済状況の中で、もう一度政府に何とかしてもらおうという風潮が出てきて、僕は、これはとても危険だなと思っているのです。ユヌスさんは「政府あるいは従来のビジネスの代わりに、ソーシャル・ビジネスが資本主義のスキームの中で新しいものをつくれる」とおっしゃっているように思うのですが、どうですか?
ムハマド・ユヌス: 政府はやりたいことをやればいいんです。でも、我々は自分たちのことについて諦めてはいけません。私たちは、無力な社会の一員ではないのです。能力があって、想像力もあって、エネルギーもあるんです。政府がうまく解決できなかった問題を、我々はうまく解決できるはずです。政府はその構造や定義から、いろいろな協議をしなければ前に進めず、官僚主義もあってゆっくりしか動けませんが、個人なら瞬きする間にどんどん先に進んでいけるのです。
地球のすべての個人は起業家で、人間であることの一部に起業家精神というものがあると思います。4年前に始めた物乞いのためのプログラムは、非常にポピュラーなプログラムになりました。現在約115,000人がプログラムを受けていて、現在までに約15,000人が物乞いをやめて商人になり、残りはパートタイムの物乞い、つまり商品を売ることと物乞いを両方やっています。
最初、「そういう人たちが物乞いをやめるという意思決定を促進できるなら、融資ではなくて、あげればいいじゃないですか」と言われました。しかし、メンタリティが変わらなければ一生物乞いですから、融資として彼らに対して課題を与えているわけです。金利はつけていません。「この融資は償還期限がないから債務不履行になることはない。金利がないから額が増えることもない。いつでもいいから返してくれ。返してくれたときに、また融資をしよう」というものです。多くは、第二、第三の融資を受けて、事業を拡大しています。
道でデモをして、政府に要求を高めていくばかりでは、政府に依存することになります。自分で自分の責任を持つようになれば尊厳が生まれ、自分のために戦うようになる。そこが基本なのです。「能力がある」ということに気づき、環境をうまく調整して、自分のやり方でやることが大事なのです。
米倉誠一郎: 今日のキーワードの1つは、「資本主義を狭くとらえすぎていないか」ということ。グラミン銀行というのは、「人間の可能性」ですね。
ムハマド・ユヌス: 問題はありますし、今非常に惨憺たる状態にはありますが、私も資本主義を信じております。その理由は1つで、私は個人の能力を信じているからです。すべての人間は無限の潜在的な力を持っていて、その力を発揮できるような環境づくりをすればいいと思うのです。少なくとも理論上、資本主義というのはそれができますし、それを実現しようとしてきたはずです。
我々が目にしている資本主義というのは、まだ道半ばです。これは大きなチャンスです。今は、人間についてあまりにも狭すぎる見方をしています。人間は金を生み出す機械ではありません。人間は世界を変えることができるのです。一人ひとりが内在的に希求する力を発揮できれば、資本主義は制度としてずっとよくなり、バランスのとれたシステムになるはずです。未完成の部分をソーシャル・ビジネスによって埋めることができる。その仕組みをつくり上げることによって、いろいろな問題を是正することができると思います。
若い人々はみんな、それをしたがっていると思います。今苛立ちを覚えているのは、「単にお金をもうけるだけではつまらない」と思っているからなのです。「お金を稼ぐ」のには目的がなければいけません。その目的は「世界を変える、よりよくしていく」ということです。チャレンジをして、我々は我々がつくった世界を自慢できる世界にしなければなりません。
米倉誠一郎: 感激します。しかし、この経済状況の中で、もう一度政府に何とかしてもらおうという風潮が出てきて、僕は、これはとても危険だなと思っているのです。ユヌスさんは「政府あるいは従来のビジネスの代わりに、ソーシャル・ビジネスが資本主義のスキームの中で新しいものをつくれる」とおっしゃっているように思うのですが、どうですか?
ムハマド・ユヌス: 政府はやりたいことをやればいいんです。でも、我々は自分たちのことについて諦めてはいけません。私たちは、無力な社会の一員ではないのです。能力があって、想像力もあって、エネルギーもあるんです。政府がうまく解決できなかった問題を、我々はうまく解決できるはずです。政府はその構造や定義から、いろいろな協議をしなければ前に進めず、官僚主義もあってゆっくりしか動けませんが、個人なら瞬きする間にどんどん先に進んでいけるのです。
地球のすべての個人は起業家で、人間であることの一部に起業家精神というものがあると思います。4年前に始めた物乞いのためのプログラムは、非常にポピュラーなプログラムになりました。現在約115,000人がプログラムを受けていて、現在までに約15,000人が物乞いをやめて商人になり、残りはパートタイムの物乞い、つまり商品を売ることと物乞いを両方やっています。
最初、「そういう人たちが物乞いをやめるという意思決定を促進できるなら、融資ではなくて、あげればいいじゃないですか」と言われました。しかし、メンタリティが変わらなければ一生物乞いですから、融資として彼らに対して課題を与えているわけです。金利はつけていません。「この融資は償還期限がないから債務不履行になることはない。金利がないから額が増えることもない。いつでもいいから返してくれ。返してくれたときに、また融資をしよう」というものです。多くは、第二、第三の融資を受けて、事業を拡大しています。
道でデモをして、政府に要求を高めていくばかりでは、政府に依存することになります。自分で自分の責任を持つようになれば尊厳が生まれ、自分のために戦うようになる。そこが基本なのです。「能力がある」ということに気づき、環境をうまく調整して、自分のやり方でやることが大事なのです。
米倉誠一郎: 今日のキーワードの1つは、「資本主義を狭くとらえすぎていないか」ということ。グラミン銀行というのは、「人間の可能性」ですね。
関連書籍
貧困のない世界を創る—ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義
ユヌス,ムハマド, 猪熊 弘子【訳】早川書房
ムハマド・ユヌス自伝—貧困なき世界をめざす銀行家
ユヌス,ムハマド, ジョリ,アラン, 猪熊 弘子【訳】早川書房
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~ インデックス
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第1章 27ドルで借金苦という異状。グラミン銀行の誕生背景
2009年10月07日 (水)
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第3章 なぜ100年に1度の危機に陥ったのか。ビジネスの概念を問い直せ
2009年10月26日 (月)
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第4章 ソーシャル・ビジネスで「技術と問題」をつなげば、社会問題は解決できる
2009年11月06日 (金)
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第5章 ソーシャル・ビジネスもビジネス。持続可能でなければならない
2009年11月17日 (火)
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第6章 お金を稼ぐ目的は何ですか?
2009年11月27日 (金)
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第7章 ソーシャル・ビジネスとチャリティの違い
2009年12月08日 (火)
該当講座
ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
ムハマド・ユヌス(グラミン銀行総裁)
貧困層に無担保で少額の融資を行う「マイクロクレジット」という手法によって、貧しい人々の経済的自立を支援するグラミン銀行を設立し、その活動によってノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。彼が新たに提唱する「ソーシャル・ビジネス」の構想と実践についてお話いただきます。
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