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【ライブラリーイベント】開催レポート
NewsPicksプロピッカーが語る最先端 第2回「宇宙ビジネスの最前線」

更新日 : 2018年05月31日 (木)


ビジネスパーソンが学んでおくべき“最先端”を、業界のトップランナーであるNewsPicks公式コメンテーター「プロピッカー」が解説する連続シリーズ。第2回は「宇宙ビジネスの最前線」と題し、NASAジェット推進研究所の小野雅裕さんにお話を伺いました。





  小野 雅裕(おの まさひろ)

  NASAジェット推進研究所 研究者



小野さんは、NASAが2020年に火星へ送り込む計画のローバー(惑星探査機)の自動運転プログラムを開発するエンジニアで、NASAに所属する数少ない日本人のお一人です。また、講談社の大ヒットコミック『宇宙兄弟』の宇宙関連の技術監修もされています。


▼宇宙のスケール感を理解する

まず、もしも地球がビー玉大だとしたら、という例えを使って宇宙のスケール感を参加者にイメージしてもらいました。もしも地球がビー玉大だとしたら、地球に一番近い天体である月まではおよそ45cmほど。その次に近い星、金星まで距離はおそ10~50mで、大きさは地球とほぼ同じくらい。さらに火星までは100m、彗星までは110m、太陽までは175mで、ここまでが太陽系。そして、太陽から一番近い恒星「プロキシマケンタウリ」でも、ビー玉大の地球からは約49,000kmも離れていて、とてつもなく広い宇宙の規模感を皆で共有しました。

そして、宇宙と言っても実は定義から言えば高度100km以上は宇宙となるため、ホリエモンが出資する宇宙ロケットプロジェクトは、サブオービタルと呼ばれる高度100kmの弾道飛行で、一番近場の宇宙といったところ。一言で「宇宙」とか「宇宙ビジネス」と言ってもものすごく広い領域のものをひとくくりにしてしまっていると言います。


>現在進行している宇宙ビジネス
宇宙ビジネスと言うと、先ほど触れたホリエモンのロケットプロジェクトや最近話題になったスペースXの商業用打ち上げロケットが真っ先に思い浮かびますが、これらは、私たちが住む地球上での輸送業に過ぎません。とてつもなく広い宇宙では、地球に存在する産業と同じだけ、もしくはそれ以上の産業が今後登場し得ると言います。

輸送業のほかにも、バージン・ギャランティックなどが手掛けている宇宙の観光業やispaceが取り組む月での資源の採掘、東京大学と多摩美術大学が共同で行う衛星芸術プロジェクトなど、まだまだ始まったばかりですが、すでに色々な宇宙の産業が生まれつつあるようです。しかし、まだビジネスとして成り立っている事業がないのが現状のようです。



▼次に来る宇宙ビジネスのムーブメントは?


では、次に来る宇宙ビジネスは何か?ロケット打ち上げビジネスは、まだ成熟していないにもかかわらず、すでに熾烈な競争となっているそうです。しかし、ロケットの製造技術はすでに確立されていて、根幹技術は60年前とほぼ変わらないため、あとは資金力勝負によるところが大きく、面白味がないようです。
 
航空機と同様に特別な打ち上げ設備が不要な宇宙船「スペースプレーン」は40年ほども前から人類が夢見てきましたが、いまだに実現には至っていません。これまで様々なプロジェクトが立ち上がっては中止されという繰り返しですが、いずれ実現するというのが小野さんの見解です。
 
究極は、紐を静止軌道まで張って、それを登っていく宇宙エレベーターで、これが実現すれば、宇宙までの輸送コストは現在の1000分の1か10000分の1くらいになるのだそう。しかし、宇宙エレベーターは、今の人類がもっているあらゆる技術と材料を使って作ったとしても自分の重さで崩壊してしまうそうで、いつか誰かがものすごいブレークスルーをしない限り、今のところは実現は難しいようです。

 
次に、現実的なところでの次世代の宇宙産業の候補をいくつか挙げていただきました。

【通信】
一番有望なのは通信で、例えば、ロケットを買って自分の衛星を打ち上げたとすると、その衛星からの映像を電波で受取ります。しかし、その衛星が東京の上空を通過するのが5~6分程度で、1日にしてもせいぜい1時間程度しか通信できません。そこで地球上のあらゆる場所にアンテナを立て、様々な衛星打ち上げ会社から料金を徴収して、途切れない通信網を提供するビジネスは必ず必要になってくるそうです。

【軌道上サービス】
軌道上で壊れたり、燃料が切れたりした衛星は、道路上の車と違って軌道上に放置されたままになるのだそう。その壊れた衛星を軌道上で修理したり、燃料を補給したりすれば、再利用が可能になるので、毎回新たな衛星を打ち上げるのではなく同じ衛星を使い回せ、大幅なコストカットが見込まれます。様々な観点でとても良い事業ではありますが、実は軌道はひとつではなく、高度が違ったり、楕円だったり山ほどの軌道があるのだそうです。さらに、ひとつの軌道から別の軌道に移動するのは、ものすごくエネルギーがかかるため、すべての軌道でのサービスは現実的ではないのだそう。しかし、全部の軌道と欲張らず、静止軌道に限ってしまえば、放置されている衛星も多く、ビジネスが成り立つのではないかと小野さんは考えています。

【デブリ回収】
宇宙ゴミであるデブリ問題は、地球から飛んでいくと、そこらじゅうに溢れるデブリにぶつかって死んでしまうというように少し誇張されて伝わっていると言います。現段階では、そこまでではなく、現状維持であれば大きな問題ではないという事ですが、このまま放置し続ければ今後、深刻な問題になってくるのは間違いないそうです。

日本では岡田光信さんが立ち上げたASTRO SCALEという世界で唯一の宇宙ゴミを回収するサービスがすでに始動していますが、ゴミ掃除サービスの前に、まずは宇宙法をきっちり整備して、デブリ化する前に打ち上げた会社が責任を持って回収すると定めるべきで、実際にそうなってくると小野さんはみています。

まだまだ人類文明が若すぎるので、輸送とほんのちょっとのインフラしかないけれど、ちょっとしたアイデアひとつ、ひらめきひとつで新しいビジネスが生まれるチャンスがあると言います。

小野さんが絶賛するのは、アクセルスペースという宇宙ベンチャーで、北極海の氷を宇宙からモニタリングして、氷が溶けたら通行可能な航路情報を船会社などに提供するサービスです。温暖化の影響で北極海の氷が解ければ航路として通行が可能になり、日本からもスエズ運河やアフリカ大陸の最南端を通らずにヨーロッパやアメリカ東海岸に北極海経由で行くことが可能です。そうなると、航路が半分から3分の1になり輸送コストが大幅に削減できるのです。

大したカメラも積んでいない衛星1基で北極海を撮影するというビジネスモデルについて、日本が進むべき道は、力技やマネーゲームでは中国やアメリカに勝てないので、こういうひらめきのサービスであるべきだと小野さんの言葉に力がこもります。

そのほかにも、岡島怜奈さんの人工流れ星会社などの宇宙エンターテイメントビジネス、バージン・ギャラクティックやジェフ・ベゾスのブルーオリジンがやっているサブオービタルでの宇宙観光ビジネスが例としてあげられました。宇宙観光は、ここ数年でほぼビジネスになるのではないかといい、高度400kmの地球低軌道での宇宙旅行も5-10年すればごく一部の金持ち対応でビジネスが成立するかも知れず、さらに小野さんが退職金で行ける程度のものになっているかも知れないとのことでした。





▼NASAでのプロジェクト

今、NASAが一番力をいれているプロジェクト、それはなんと!地球外生命探査なのだそうです。40億年前に水が豊富にあった火星が第一ターゲットで、火星に残っている河や湖のあとから40億年前の生き物の痕跡を探す調査が、小野さんがプログラムを手掛けているマーズ2020ローバーの最大のミッションです。

では、なぜ多額な公的資金をつぎ込んでまで小惑星探査や地球外生命探査を実施するのでしょうか?

それは、生命はどうしてうまれたか?我々がなぜここにいるのかという答えを導き出すためなのだそうです。地球は現在も生きているため、地球がどうやって生まれたか?どんな歴史をたどってきたかという過去のデータが残っていないそうです。しかし、地球と同じように水のあった火星を調査することで、地球の生命のルーツや地球の起源を知ることが出来るかもしれません。

地球外生命も小惑星探査も結局のところ、我々はどこからきて、どこへ行くのか?という疑問の答えを導き出すためのこと。これはとても哲学的なことで、これがわかったとしても一円にもならないかも知れませんが、自分のルーツを知りたいという基本的な欲求がそうさせるのだろうと締めくくりました。


▼The Pale Blue Dot

最後に、宇宙から地球をみるとどう見えるのか?というお話をしていただきました。月から見た地球は、地球から見る月の4倍程度大きさで、これを最初に見たのがアポロ8号の宇宙飛行士。1968年12月にアポロ8号が撮影した地球の出『アースライズ』は、NASAのwebサイトでも公開されていますが、月の銀色の地平線から青い地球が見えてる様は、神々しくてものすごい綺麗だったようです。
 
もし将来、人類が火星に住んだら、クリーム色の空の下で昼間の時間を過ごし、青い夕日を眺め、青い夕日が沈むと見える金色の一番星、金星を見つけ、二番目に明るい星、青い地球に想いを馳せるようになる日が来るかもしれないと小野さん。
 
そして、カール・セーガンの『Pale Blue Dot: A Vision of the Human Future in Space』の中から小野さんのお気に入りの一節の朗読でセミナーが終了しました。

 


NASAで数少ない日本人エンジニアとしてマーズ2020ローバーのプログラム開発を担当する小野さんは、意外にもとてもロマンチストな方で、小野さんの著書に登場する宇宙に思いを馳せる夢見る少年さながらで、小野さんの宇宙への熱い想いのつまった75分でした。