六本木ヒルズライブラリー

【ライブラリーイベント】開催レポート
慶應SFC起業家に学ぶ 起業のエッセンス ~企業内起業編~

更新日 : 2018年03月09日 (金)


これまでに5回開催したSFC起業家に学ぶシリーズ。単に起業家の方の成功談やビジネスモデルの解説ではなく、どういきるか?何をゴールに頑張っているのか?など、一般的な起業家のセッションとは趣を変えて「人」にフォーカスした内容で開催しています。

この日は、森永製菓株式会社新領域創造事業部に所属しながら株式会社SEE THE SUNを企業内起業した金丸美樹さんにお越しいただき、老舗大企業でコーポレートベンチャーを実践されたご本人だからこそ語れる生生しいお話を伺いました。





金丸 美樹(カナマル ミキ)
(コーポレートベンチャー [株式会社SEE THE SUN] CEO)


SFC卒業後、新卒で森永製菓に入社し、商品企画やマーケティング、広告部を経験したのち結婚、出産。産休を経て、復帰後すぐに新規事業に関わり、さらに新領域創造事業部に異動して食品業界初のアクセラレーターを経験。その経験をもとにコーポレートベンチャーを2017年4月に立ち上げました。新卒入社当初からずっと同じ会社に居ながらにして、まるでステップアップをしながら次々と新たな領域に転職されたようなキャリアの持ち主です。

▼ひとりきりの新規事業開発

30数年前に会社を救ったとまで言われている商品「ウィーダーインゼリー」以来、ほとんどイノベーションが起こらないと言われていた森永製菓。絶大な知名度はあっても、少子化の影響もあり、新しい事をどんどんやらなくてはという危機感の中、設立された新規事業の部署に産休明けの復帰後に着任した金丸さん。新規事業部と言っても実質社内のスタッフは金丸さん一人で、まるで個人事業主のようだったそうです。
 
上司は金丸さんの性格を良くわかっていて、「とにかく自由に動いてみろ。山に登れば見える景色も変わる。お前の嗅覚でどんどん動いて、景色がみえたらそれをフィードバックしながら戦略を立て直せばいい。」と言ってもらえましたが、当初は、「乳飲み子がいるのに新規事業なんてできない!」と泣き言を言っていたのだそう。しかし、いざ企画をして動いてみると楽しくなってきて、銀座に出向いて中国人にチョコをたべさせて意見をきいたり、上海にいって動向を探ったりしているうちにのめり込んでいったそうです。余談ですが、その時の上司が現在の社長なのだそう。
 
>大企業で働くことの落とし穴

一方で、大企業の新規事業にありがちな傾向で、新たなセクションを作り、人員配置をしたら達成したという風潮があり、その後は誰にも構われない、期待もされていないという状況になりがちなのだそうです。金丸さんも「このまま自分が消えても誰にも気がつかないのではないか?」というような気持ちになり、モチベーションが下がった時期もあったそうです。今になって、自分が起業して後輩をみていると、その時の自分と同じモードになっているなと手をとるようにわかるそうです。

 

 大きな企業に属して働いていると、誰かに仕事を与えられる事に慣れてしまい、自分で仕事を探せと言われることが苦手で、どうしてよいかわからなくなる時期があるのだそう。そういうときに自分の存在ってなんだろうと悶々としてしまい、消えたくなる時期があると振り返ります。

しかし、ここからの開き直りが金丸さんのパワーのたまもの。消えても居ても構わないのなら勝手にやろう!とにかく怒られるまで自由に自分の好きなようにやってみようと割り切ったことが最終的に良い結果につながりました。

>ターゲットは中国人観光客


当時は、ちょうど中国からの観光客が増えはじめた時期。金丸さんは一人きりのインバウンド担当として、中国人向けのお土産作りを開始しました。しかし、空港の売店などをまわってみたものの、既存の領域でやろうとすると様々な壁があり、結局、独自で直売するという結論に達しました。

その頃は、急増する中国人観光客を目当てにしたビジネスが加熱していて、ビジネスセミナーはどこも中国人一辺倒だったと言います。しかし、その直後、東日本大震災や中国で対日の政治問題が起こり、手のひらを返すように、急激に中国人ビジネスはリスキーだという風潮に一変したそうです。世の中の風潮の急変ぶりはそれはもう笑ってしまうほどだったと言います。

とはいえ、すでに中国人観光客向けの販売店を進行してしまっていたので、半ばやけくそになりながらも、急遽日本人向けに少しだけ予定を変更して、東京駅の「おかしランド」にアンテナショップをオープンしたところ、これが予定外に大当たり。この成功によって、社内でも認められはじめ、それを境に社内での仕事も格段にやりやすくなったそうです。本当に世の中予定調和ではないという実体験だったそうです。


また、比較的古い体質の会社が直面しがちな問題として、前述の東京駅のアンテナショップ「おかしランド」の話がデベロッパーさんから来たとき、対応する部署が、広報室なのか営業部なのか、特殊部隊なのか新規事業なのか担当がはっきりしておらず、組織がまたがるような案件は、たらいまわしになりがちだと言います。特に最近はそういう案件がとても増えていると実感していて、どこが担当ということよりもまずはやってみることが大事だと金丸さんは断言します。


▼ 老舗企業に新たな風を!

新規事業の成功を機に、更なる新しい風を取り込もうと2014年に新領域創造事業部が立ち上げられ、金丸さんも異動しました。最初はアイデア会議などをして、それぞれに意見を言い合ったりしていたそうですが、良いアイデアが出たところで、実行する方法がわからないまま、いつになったら始まるんだろう?と悶々としていたそうです。

そんなとき、外部のある人に相談したところ、「未だアイデア出ししているの?それ終わってるね」くらいのことを言われたのだそう。「例えばLINEのスタンプは特に珍しいアイデアではないけれど、こんなに広がった。アイデア云々よりとにかく早く実行することが重要で、やるかやらないかの問題」と言われ、とても腑に落ちたと言います。

>コーポレートアクセラレータ

そこで、とにかくやってみようということで、起業家と大企業が得意分野を協業するアクセラレータプログラムをやることになりました。しかし、スタートアップのは生存率6%でピボットと言って状況に応じてどんどんプランをを変えていくのが常であるいっぽうで、大企業は計画どおりに遂行することが大前提。両者の想いがずれると上手く行きませんし、お互いに依存してしまっても上手く行かないそうです。あくまでも起業家が自立し、その自立をアクセラレーターが支援するということに徹する必要があると言います。


また、アクセラレータプログラムではうれしい副産物もあったそう。
30歳を過ぎた頃の社員は社内がだんだん見えてきて、上司の悪口などを言い始める時期ですが、そんな若手が批評者になるか学習者になるかで、彼らの人生も大きく変わってくると金丸さんは考えています。

若手たちの会社への負のエネルギーを外に向けたいと思い、若手に外部の起業家とのアイデアソンに参加してもらいました。それまで自分は社内で仕事ができると思っていたけれど、社外の起業家と意見を交わすことで、それまでの自分はなんて狭く浅かったのかと気付く若手も多く、それを機にMBAを取りに行ったり、新規事業の応援者も増え、新規領域に関わると楽しいというムードを創り上げていったのだそうです。

>手探りのチャレンジで得たこと

食品業界初のアクセラレータプログラムを手掛けた後に自らがコーポレートベンチャー株式会社SEE THE SUNを立ち上げた金丸さんですが、森永製菓に入社した頃は、張り切ってマーケティングをやりたいと名乗りを上げたものの、職人気質な研究員の人と意見が合わず、チームでものを作る難しさが身にしみたそう。

その頃は、とにかくよく怒られ、会議のボイコットや資料を投げられたりもして、とてもつらい時期もあったといいます。しかし、どうやったら人に動いてもらえるのかを考えることが自分の役割なんだとその頃学び、つらかったが今では良い経験と思う事ができて感謝しているそうです。




現在は、お子様の保育園のために地方に在住して新幹線通勤をされている金丸さん。考え過ぎる前にとにかくやってみようという行動力の持ち主で、底抜けに明るくて、前向き。本当にパワフルに現在までの失敗と勉強と成長の過程を一気にお話しいただきました。

そして、最後の締めくくりのスライド「人間にあるのは限界ではなく可能性。樹海を進むことを楽しもう。」は、金丸さんのキャラクターをとても良く表している言葉だと思いました。そして、金丸さんの新たな挑戦、コーポレートベンチャーSEE THE SUNを応援したくなりました。



ファシリテーター:廣川 克也(ヒロカワ カツヤ)
(SFCインキュベーションマネージャー)