記事・レポート

0円の仕事~NO LIFEWORK, NO LIFE.~

箭内道彦が語る「タダでもやりたい仕事」

更新日 : 2015年09月02日 (水)

第7章 なりたい職業より、やりたいこと


 
風とロックで、みんなが笑ってる

箭内道彦: 様々ご説明してきましたが、「結局は自分の好きなことをやっているだけ」と言われれば、そうなのかもしれません。

『月刊 風とロック』が創刊100号を迎えた時、その主題歌が誕生しましたが、宮藤官九郎さんが書いてくれた歌詞に「風とロックで みんな笑ってる」というフレーズが登場します。僕にとっては『月刊 風とロック』を作ること、福島と関わること、それ自体がライフワークではない。大切な人達が笑ってくれること。「楽しかった」と喜んでくれること。それが僕のライフワークではないかと、いまは感じています。

同時に、多くの人達に迷惑をかけながら、ライフワークをしているとも思っています。迷惑をかけた分、返せるものは返したい。皆さんからいただいた「思いの借金」を返済したい。0円で提供していただいた思いは、0円で返すのが礼儀です。その方法も、これから一生懸命考えていきます。

さらに、多くの人達から受け取った思いを今後、自分の活動にどう役立てていくのか。その方法を考え、アイデアを実現していくことも、1つの返済方法だと思います。非常に難しい作業ですが、誰もが経験できる苦しみではありません。その意味でも、僕は本当に幸せ者です。

やりたいことの根っこ

箭内道彦: 最後に、僕の好きな言葉をご紹介して、ライフワークのお話を終えたいと思います。

「なりたい職業より、やりたいこと」。これは、僕が色々な場でお伝えしている言葉です。僕は東京藝術大学に入るため、3年浪人しました。当時は東京藝大に入ることが人生の目標になっていたため、入学後は何をすればいいのか分からなくなりました。博報堂に入社した時も、最初は誰かを元気にしたいという気持ちがありましたが、毎日忙しく働く中で、それを忘れてしまいました。本当は、誰かを喜ばせたり、困っている人の助けになったりしたかったのだ。ある時、そう気がつきました。

誰かを楽しませたい。誰かの助けになりたい。世の中を良い方向に変えたい。やりたいことの根っこさえしっかりしていれば、職業は何でもいいと思います。いまは見つからなくても、働きながら根っこになるものを探せばいい。それが見つかれば、ライフワークの選択肢は、多様に広がっていくと思います。

もう1つは「giving win」です。win winに似ていますが、少し違います。損得勘定で判断すれば、無償で誰かに何かを提供することは、損になるはずです。しかし、見方を変えれば、実は非常に大きな対価を得ることができる。それがgiving winです。

「ハイリスク・ノーリターン」も大好きな言葉です。いまの時代、多くの人がノーリスク・ハイリターン、あるいはローリスク・ハイリターンを探しています。僕は、たとえ大きなリスクを抱え、苦しい時間を過ごしたとしても、5年後、10年後、あるいは天国へ旅立つ直前かもしれませんが、いつか必ず、経済価値には置き換えられない大きなものが返ってくるような気がしています。もしそうならなかったとしても、僕は幸せを感じているはずです。

とはいえ、ライフワークを成立させるために最も大切なことは「健康」です。健康なまま長生きし、自分の好きな研究を極めるも良し。何らかのアクションを通じて、人を笑顔にするも良し。どうか皆さん、お体を大切にしてください。そして、それぞれのライフワークを通じて、大切な人達と今日も明日も笑顔で暮らしてください。(了)


気づきポイント

●0円だからこそ、たくさんの人達の共感が生まれ、気持ちをひとつにすることができる。
●大切な人達を笑顔にしたい、喜ばせたい、元気にしたい。それが箭内流ライフワーク。
●やりたいことの根っこさえしっかりしていれば、ライフワークの選択肢は多様に広がっていく。

該当講座


六本木アートカレッジ 0円の仕事~NO LIFEWORK, NO LIFE.~
六本木アートカレッジ 0円の仕事~NO LIFEWORK, NO LIFE.~

「0円でやる仕事」、それが「ライフワーク」。なりたい職業より、やりたいこと。箭内流のライフワークの考え方、見つけ方についてお話しします。