記事・レポート

Hack the Body~障がいを「可能性」に変える

遠藤謙がつくる、人間を進化させる義足

更新日 : 2015年04月22日 (水)

第9章 障がいとはグラデーションのようなもの


 
できる/できないとは?

遠藤謙: 健常者と障がい者の境目は、何かが「できる/できない」だと考えられています。しかし、僕自身は、それは明確な境界線が引けないもの、いわばグラデーションのように、どちらにも行ったり来たりできるものだと考えています。

例えば、若い頃は五体満足でも、年齢を重ねていくうちに様々な機能が衰え、できないことが増えていく。また、健常者でも身体的特徴は一人ひとり違うため、それぞれに「できる」「できない」があります。さらに、「できない」は、自分の努力次第では「できる」に変えられるかもしれない。障がいの有無にかかわらず、人間は生まれながらして誰もがグラデーションの濃淡を持っており、それが社会の多様性にもつながっています。

そして、自分の努力次第で克服できない場合は、技術の力を借りることで、それが「できる」になるかもしれないのです。身体の一部を失うことは、大きな悲しみを伴う出来事だと思います。万が一そうなっても、僕は「あの技術があるから、それほど悲観する必要はない」と思ってもらいたい。技術の力で、後ろ向きになりそうな気持ちを、少しでも前向きに変えていきたいのです。

僕が目指すのは、技術の力を通じて、健常者と障がい者が持つグラデーションを濃くしたり、薄めたりしながら、様々な色合いをつけていくこと。そうしたことを繰り返すうちに、健常者と障がい者という境目は、自然となくなっていくはずです。

技術の障がいを克服する

遠藤謙: 最後に僕の原点、骨肉腫により片足を失った後輩の話に戻ります。彼は再発を防ぐ治療を続けたものの、2度にわたり肺への転移が見つかり、手術をしました。その後も副作用に苦しむ彼に対して、医師は「5年生存率は50%」と告げたそうです。それでも、彼は車いすバスケに挑戦したり、起業したりと、常に前向きでした。

2005年、僕がMITに留学した時の目標は「5年以内に後輩の『足』をつくること」。しかし、あれから10年経った今も、彼は海外メーカーの義足を使っています。僕の技術がまだまだ未熟だから、です。僕には、東京パラリンピックでの金メダル獲得、あるいは、途上国の人達に貢献するといった大きなビジョンがあります。しかし、常に根っこの部分にあるのは、僕のつくった義足を彼につけてもらい、笑顔になってもらうという夢です。

MITのヒュー・ハー教授は「この世に障がい者は存在しない。障がいはテクノロジーのほうにあるのだ」と語っています。初めてこの言葉を聞いた時に覚えたワクワク感を忘れずに、さらに技術を高めていくことで、後輩やその先にいる多くの人々に役立つモノを創り出したいと思っています。(了)


気づきポイント

●障がいは人間の側ではなく、技術の側にある。技術が高まれば、障がいはなくなる。
●障がいとは「技術の入り込む余地のある余白」であり、人間の持つ機能を拡張させるもの。
●モノづくりの原点は、誰かの役に立つこと。その喜びが、次のイノベーションを生む力になる。

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