記事・レポート

Hack the Body~障がいを「可能性」に変える

遠藤謙がつくる、人間を進化させる義足

更新日 : 2015年04月22日 (水)

第7章 日本発の競技用義足で金メダルを獲る


 
一人ひとりに合わせた競技用義足を

遠藤謙: 現在、競技用義足として使われているのは、アイスランドのオズール社、ドイツのオットーボック社、日本の今仙技術研究所のものが中心です。例えば、オズール社の義足は体重別に9つのカテゴリーがあり、選手は体重に合わせて義足を選びます。あとは、板バネの硬さなどが微調整できる程度。選手達は、限られた義足の中から自分に合うものを選んでいる状況です。

一方で、足の長さや筋肉のつき方、走り方などは一人ひとりまったく違うため、本来、選手が求める板バネの厚さや硬さ、形状、長さなども様々に変わるはずです。陸上競技は0.01秒を争うシビアな競技であり、タイムを伸ばすには細かなディテールが大切になります。個々の選手の身体的特徴や走り方に合った義足があれば、タイムを飛躍的に伸ばせるかもしれないのです。

2014年5月、僕はオリンピックや世界選手権で活躍した元陸上選手の為末大さん、プロダクトデザイナーの杉原行里さんと一緒に、株式会社Xiborg(サイボーグ)を立ち上げ、競技用義足の開発を始めました。為末さんには、走り方やトレーニング方法など、元陸上選手ならではの視点から協力をいただいています。杉原さんは、ソチパラリンピックのチェアスキー開発などに携わった経験豊富なデザイナーであり、カーボンの成形・加工にも優れたノウハウを持つ方です。

さらに、日本のトップクラスの義足アスリート3名にも協力してもらい、彼らからフィードバックを得ながら、開発を進めています。例えば、開発段階の義足でトレーニングする様子をハイスピードカメラなどで撮影し、走り方はもちろん、筋肉一本ずつの動きまで調べます。その上で、彼らの走りが最も速くなるよう、カーボンの性質や形状を算出し、最適化していく。研究と実践を同時に進めることで、いち早く選手にとっての最適解を生み出そうとしています。

日本のモノづくり力を世界に発信

遠藤謙: 残念ながら、トップクラスのパラリンピック選手の大半は、海外メーカーの義足を使用しており、日本製の義足を使う選手はごく少数です。日本の企業が持つ技術は世界でもトップクラスと言われていますが、こと義足の世界においては、日本のモノづくり力が発揮されていない。一人のエンジニアとして、非常に寂しく感じています。

僕達が目指すのは、来たる東京パラリンピックで、メイド・イン・ジャパンの義足をつけた選手が金メダルを獲得すること。日本の優れたモノづくり力を結集すれば、十分に実現可能な夢であると思います。その実現を通じて、日本のモノづくりの底力を世界に発信していきたいと考えています。


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