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折れない心をつくる

メガストレス時代のメンタルタフネス術:渡部卓
〜ケロッグ経営大学院 モーニング・セッションより

BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年02月18日 (水)

第10章 部下には弱さを見せても良い?

渡部卓 (帝京平成大学 現代ライフ学部 教授 株式会社ライフ バランス マネジメント研究所 代表取締役 )

 
会場からの質問(1): 傾聴のポイントに「聴く側の心を開く」がありました。しかし、部下に対して自分の弱い部分をさらけ出すと、「情けない上司だ」と思われてしまうのでは、と心配しています。弱さはどの程度まで見せてもいいのでしょうか?

渡部卓: 程度など気にせず、どんどん見せてください。管理職の方々は、部下に対して体面を保ちたいという気持ちが働くため、失敗談を隠そうとしがちです。特に、優秀で実績のある管理職ほど、その傾向があります。しかし、成功体験を語られても、部下にはさらなるプレッシャーがかかるだけです。ご自身の失敗談はどんどん話してください。本音の対話を生み出すきっかけになります。

以前、新入社員の離職率が高い企業から相談を受けたことがあります。その企業は「社長や上司は絶対的に正しい」という雰囲気が漂い、新人研修も強いプレッシャーのなか、短期間で集中的に行われていました。そこで、私は「プレッシャーをかけるのではなく、社長や上司の方々は新人時代の失敗談を積極的に話してください」とアドバイスし、研修内容を根底から見直してもらいました。その後、新人研修は半年ほどかけてじっくり行うようになり、1週間の合宿も取り入れられました。合宿には社長や上司がラフな格好で参加し、社員と寝食を共にしながら失敗談を話した。その結果、新入社員の離職率は年々低下したそうです。

会場からの質問(2): 「傾聴」に関して、ほかにもポイントがあれば教えていただけますか。

渡部卓: 普段から傾聴ができていない人が急に始めても、なかなかうまくいかないでしょう。傾聴は日々の繰り返しによって身につけていくしかありません。成功体験が多い人ほど、部下の話に耳を傾けず、途中で話を遮り、断定的な解決策を示したがります。「絶対に途中で口を挟まない」ほどの覚悟を決めて臨んでほしいと思います。


会場からの質問(3): 社内のメンタルヘルスを担当しています。面談を行う際に困っていることがあります。1つは、どれほど説明しても、自分の理想とする姿から逃れられず、「こんなはずでは」と自らを追い込んでしまう人。もう1つは、うつ病などで休みをとる際、「周囲に迷惑をかけている」という罪悪感に苛まれ、ひたすら謝り続ける人です。

渡部卓: どちらも、真面目で頑張りすぎる人だからこそ、そうなってしまうのでしょう。自分への期待値が高い人は、失敗経験の少ないケースが多い。私がよく使うのが「幸せのはひふへほ」です。半分・人並み・普通・平凡・ほどほど。これらを心がけていると、必要以上に自分を追い詰めることもなくなります。しかし、失敗体験が少ない人は、なかなか理解できません。上司や先輩が失敗談を語ることで、その思い込みを解きほぐすようにしてみましょう。また、真面目すぎる人は、ストレス予防に役立つ「4つのR」を苦手としているケースが多い。会話のなかでそれとなく4つのRの効果を説明し、実行してもらうようにするといいでしょう。

心が折れかかっている人に接する際は、自分を含め、その人を取り巻く状況を俯瞰してみることも重要です。気づかないうちに、上司や同僚の発言・行動がプレッシャーをかけていることもあるからです。「あの人はああいう性格だから」と言わず、自分たちの普段の振る舞いを見つめ直すことも大切なのです。(了)


気づきポイント

●真面目すぎる人、元気すぎる人、頑張りすぎる人ほど、メンタル疾患への注意が必要。
●自分の受け止め方・捉え方を見つめ直すことが、うつや不安の予防につながる。
●心の折れない職場をつくるには、「傾聴」を軸としたコミュニケーションが効果的。

該当講座

折れない心を作る

~経営戦略としてのメンタルタフネス経営~

折れない心を作る
渡部卓 (帝京平成大学 現代ライフ学部 教授 株式会社ライフ バランス マネジメント研究所 代表取締役  )

渡部 卓(㈱ライフバランスマネジメント研究所代表)
急激な変化、不確実性の拡大、グローバル化の進展など、厳しい経営環境において結果を出すことが期待されている現代のビジネスパーソンは、これまでにないプレッシャーの中で成果を出すことが求められています。ストレスに負けず、メンタルタフに生きるにはどうしたらいいのか?渡部氏がお話します。


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