記事・レポート
折れない心をつくる
メガストレス時代のメンタルタフネス術:渡部卓
〜ケロッグ経営大学院 モーニング・セッションより
BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年01月21日
(水)
第1章 日本で初めて「ストレス」を語ったのは誰?
ビジネスを取り巻く環境が絶え間なく変化する現代。ビジネスパーソンはさまざまなストレスにさらされ、心が折れてしまう人が増えています。一方、ストレスをポジティブなモチベーションに転換し、成果を出す人もいます。この違いはどこにあるのでしょうか? ケロッグ経営大学院の卒業生であり、現在は帝京平成大学現代ライフ学部教授とライフバランスマネジメント研究所代表を務める渡部卓氏に、折れない心をつくるためのメンタルタフネス術を解説いただきました。
スピーカー:渡部 卓(帝京平成大学 現代ライフ学部 教授 株式会社ライフ バランス マネジメント研究所 代表取締役)
メンタルヘルスは企業の最重要課題
渡部卓: 昨今はストレスフルな時代と言われ、過剰なストレスにより、心身のバランスを崩してしまう人が増えています。そうしたことから、ストレスマネジメント、最近ではメンタル・レジリエンスといった言葉が注目を集めています。
ITの登場以降、世の中の利便性が向上した一方、合理性や効率性を重視する働き方が主流となりました。しかし、いまも昔も、ビジネスの現場を支えているのは機械ではなく、人間です。強いプレッシャーにさらされ続け、心身のバランスが崩れてしまえば、モチベーションや生産性は低下し、やがては経済的損失にもつながってしまいます。その意味でもメンタルヘルスは、現代の企業が目を向けるべき最重要課題と言えるのではないでしょうか。
私は十数年にわたり、メンタルヘルスやストレスマネジメントを中心に、企業や官庁などの職場環境改善に向けた研修やコンサルティングを行ってきました。本日は、数多くの現場から見えてきたビジネスパーソンの現状、折れない心をつくる方法についてご紹介します。
文豪とストレス
渡部卓: ストレスはもともと、工学の世界で使われていた言葉ですが、1936年にカナダ人の生理学者ハンス・セリエが提唱した学説のなかで、初めて医学・生理学用語として登場しました。
さて、日本で最初に「ストレス」を使った人物は誰でしょう?
ヒントは明治時代に活躍した有名人です。
正解は夏目漱石です。漱石は生涯にわたり、極度の神経衰弱に悩まされていました。1910年9月26日に書かれた日記には、「stressなき生涯」という一文が登場します。セリエが学説を発表する以前、なぜ漱石がこの言葉を知っていたのか、いまとなっては定かではありません。ちなみに、日記が書かれたのは、「修善寺の大患」と呼ばれる大喀血から1カ月後のことです。
漱石のストレスの原因についてはさまざまな説があるものの、研究者の間では主に4つあったと言われています。1つ目は、親子関係のストレスです。漱石は、生みの親と育ての親が異なりました。育ての親にいじめられたわけではなかったものの、幼児期の経験が長く漱石を悩ませていたようで、親子関係を扱った自伝的な作品も残しています。
2つ目は、妻に対するストレスです。短気で気むずかしい性格だった漱石は、裏表なく、思ったことを口にする妻とたびたび喧嘩をしていたそうです。1907年6月21日付、門下の作家・鈴木三重吉に宛てた書簡には「僕の妻は何だか人間のような心持ちがしない」と書かれています。
3つ目は、職場のストレスです。漱石は40歳のとき、東京帝国大学英文科講師という安定した職を辞して朝日新聞に入り、本格的に職業作家の道を歩み始めます。しかし、企業組織のなかで起こるさまざまな摩擦にストレスを感じていたようで、「寛大なる雇用主を欲す」という言葉を残しています。
4つ目は、グローバル・ストレスです。漱石は英語の大秀才であり、33歳のとき、2年ほど英国に官費留学しています。しかし、慣れない環境での生活から、次第に孤独感に苛まれるようになり、英国でもうつ病に倒れます。
ただし、漱石は英国でストレスを軽減する方法とも出会っています。お酒やタバコ、ギャンブルではありません。日本のストレスの元祖、漱石が得たものについては後ほど紹介します。
折れない心をつくる
インデックス
-
第1章 日本で初めて「ストレス」を語ったのは誰?
2015年01月21日 (水)
-
第2章 ストレスを取り巻く世界の現状
2015年01月26日 (月)
-
第3章 折れやすい心 3つの傾向 (1)
2015年01月29日 (木)
-
第4章 折れやすい心 3つの傾向 (2)
2015年02月02日 (月)
-
第5章 ストレスが起こるメカニズム
2015年02月04日 (水)
-
第6章 ストレスの状態を知るためのチェックリスト
2015年02月06日 (金)
-
第7章 事実の受け止め方・捉え方を変えるABC理論
2015年02月09日 (月)
-
第8章 コミュニケーションに役立つ傾聴
2015年02月12日 (木)
-
第9章 これからのメンタルタフネス経営
2015年02月16日 (月)
-
第10章 部下には弱さを見せても良い?
2015年02月18日 (水)
注目の記事
-
03月26日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一による、六本木ヒルズライブラリーのための選書書棚「動的書房」。2024年3月に新たに21冊が並びまし....
-
03月26日 (火) 更新
本には、人生を変え、時代を創るパワーがある!
2023年4月から2024年2月まで全6回で開催したシリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」。モデレーターの干場弓子さんと何度も企画会....
シリーズ編集者の視点〜時代を共に創る〜 <編集後記>
-
03月26日 (火) 更新
【重要】「アカデミーヒルズ」閉館のお知らせ
「アカデミーヒルズ」は、2024年6月30日をもって閉館させていただくこととなりました。これまでのご利用ありがとうございました。閉館までの間....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 04月09日 (火) 12:00~12:45 / 04月09日 (火) 19:00~19:45
ゆる~くつながろう!メンバー雑談
テーマなし!年齢制限なし!ライブラリーメンバーなら誰でも参加できる雑談イベントです。肩の力を抜いて楽しく、そしてリラックスした45分を過ごし....
-
開催日 : 04月19日 (金) 19:00~20:30
地図・絵画・日記が語る
江戸時代は厳格な身分制社会の一方で、身分や職業を超えた文化交流の場が形成され、技術と文化の発展を促しました。その中で「浮世絵」は情報メディア....
江戸の「街づくり」「モノづくり」の遺伝子
-
開催日 : 05月02日 (木) 見学ツアー11:00〜12:00/オルガン・プレコンサート13:40~/コンサート14:00〜16:00頃
【メンバー対象イベント】日本フィル&サントリーホール
平日2時のクラシックコンサート「にじクラ~トークと笑顔と、音楽と」のリハーサルを体験しませんか?俳優・高橋克典さんがナビゲーターとなり、上質....
「にじクラ」リハーサル見学・ロビーツアー&昼公演鑑賞