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時代を撮り続ける写真家・篠山紀信の表現を探る

写真力とは何か?

キャリア・人文化
更新日 : 2013年02月01日 (金)

第6章 モノを作る人間、時代に対する正しい態度とは

写真左:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)写真中央:篠山紀信(写真家)写真右:松井冬子(画家)
 
次に撮るべきものは、時代が決める

生駒芳子: 「写真力」というテーマで、お話を伺っています。篠山先生が次にチャレンジしたいものを、教えていただけますか?

篠山紀信: 僕は50年間ずっと写真をやっています。50年ですよ。普通は途中で飽きたり、できなくなったりするものです。なぜこんなに続いているのかというと、時代が生んだ面白い人とかコトとかモノとかを、一番いい場所で一番いいタイミングで撮ることが僕の仕事だからです。つまり、僕は時代と並走していればいい。次に何を撮るかは時代が決めてくれるから、時代に聞いてくださいよ。

生駒芳子: 以前「写真展は、決してアーカイブではなく実験場なんだよ」と書かれていたのが、印象的でした。実際に展覧会へ行きそう思いましたし、次どうなるのかな? とすごく楽しみに思ったんです。なるほど、時代ですね。

一番怖い被写体は誰?

生駒芳子: 松井さんが、次に挑戦したいことは何ですか?

松井冬子: 私はこれまで女やメスしか描かないって決めてかかっていました。ですから、いつか男性を描けたらいいかなという希望が少しあります。以前はそのような気持ちはゼロに等しかったんですけれど、少しだけ出てきました。

生駒芳子: これまでに男性を描かなかった理由は何ですか?

松井冬子: シンクロニシティがないというか、共感できないからです。

生駒芳子: 篠山先生は、男性を撮るときと女性を撮るときとでは気持ちを変えますか?

篠山紀信: いえいえ。僕は老若男女、誰でも同じような気持ちで撮ります。でもね、子どもは結構怖いです。「王様は裸だ!」と平気で言ってしまうでしょう。子どもにそれをやられると困るので、真剣に撮ります。バカにされないように。一番カンがいいから、“このオジサンは結構できる”とか見抜いてしまうものなんですよ。

モノ作りにラクな時代はない

生駒芳子: そろそろ時間が迫ってまいりました。せっかくの機会なので、会場の皆さんから質問はありますか?

質問者:ずっと時代を切り取ってきた篠山先生は、“いま”をどのようにお考えですか?

篠山紀信: 僕は60年代からずっと写真を撮っています。70年代、80年代ってね、日本がイケイケドンドンの状態でした。特にバブル期は、雑誌メディアなども本当に景気が良かったです。

いまの時代、雑誌はどんどんつぶれていっているじゃないですか。しかし、果たして70年代、80年代に戻りたいかというと、そんなことはありません。当時は当時で、結構大変だったの。モノを作るってね、いつの時代も大変なんです。だからいい時代はないと思っていた方がいいです。

時代を乗り越えていく、もしくは、時代を作っていく。そういう気概を持てば、僕はいいと思うんですよ。いまは80年代などと比べれば、雑誌の制作者たちは、やれ予算がない、ページがない、いろんなことを言いますよ。だからこそ、例えばネットを使って何かやるだとか、デジカメでやるとか、色々な方法論があると思います。そういう形で時代と関わり、生きていくのが、モノを作る人間の態度だと思います。

<気づきポイント>

●写真鑑賞は、展覧会やギャラリーで観て体感するのが面白い
●自ら仕掛け、被写体の持っているパワーを引き出す
●暗黙のルールを破ると、新しい表現が生まれる
●いいモノに触れ、いい時間を過ごす。感度を上げれば、良い作品づくりにつながる
●モノ作りにラクな時代はない。時代に寄り添い生きていくことが、モノを作る人間の正しい姿勢


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