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時代を撮り続ける写真家・篠山紀信の表現を探る

写真力とは何か?

キャリア・人文化
更新日 : 2013年01月22日 (火)

第1章 写真力vs空間力〜篠山紀信の挑戦〜

 写真家・篠山紀信が50年にわたり、さまざまな手法・テーマで撮影した作品を厳選した<篠山紀信展 写真力—THE PEOPLE by KISHIN—>が、大きな話題を呼びました。写真の持つ力とは、力のある写真はどのようにして生まれるのでしょうか? 篠山さんご本人と、被写体になった経験もある画家の松井冬子さん、ジャーナリストの生駒芳子さんの3人による会話を通じて、明らかにしていきます。

スピーカー:篠山紀信(写真家)、松井冬子(画家)
モデレーター:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)

写真左:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)写真中央:篠山紀信(写真家)写真右:松井冬子(画家)
写真左:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)写真中央:篠山紀信(写真家)写真右:松井冬子(画家)
 
写真は芸術よりも偉い!

生駒芳子: 篠山先生はいま、東京オペラシティで<篠山紀信展 写真力>(※編注:2012年10月3日〜12月24日まで開催した展覧会。トークセッションはオープニング直後となる10月8日に行なわれた)を開催されています。私も拝見しましたが、迫力に満ちた写真展ですね。

篠山紀信: 僕はね、いままで大きな美術館で展覧会をやったことがないのです。だいたい美術館は少し敷居が高いところがあるじゃないですか。写真が額の中に入れてあり、「芸術だから鑑賞しなさい」と、そんな感じがする。写真の中に芸術的な表現もあるけど、写真にはもっと強い力、もっと人に訴える力があるから、芸術よりも写真の方が偉いものだと思っています。だから僕はいつも言っているの、美術館は作品の死体置き場だって。

松井冬子: 名言ですね。

篠山紀信: 死んだものがたくさん並んでいて、みんなでありがたがっている。墓場ですよ。本当は森美術館でやればよかったのかもしれない。(笑)

生駒芳子: 先生、ここは墓場ではないですよ。(笑)

篠山紀信: そう。ここは新しいことに挑戦する勇気があって、全然墓場なんかじゃない。(笑)

写真力vs空間力という試み

篠山紀信: オペラシティはタッパ(天井高)があります。6mくらいの大きなハコ(展示室)が4つある。ああいう空間の中で、写真力あふれる作品をドーンと並べたとしたら、どんな感じになるのかな?と思ったのです。いわば、“写真力vs空間力”というのを試したかった。やってみたら、驚くほど良かったです。だって大きいのは幅9mあるんですよ。3m×9mくらいの写真が。

生駒芳子: 巨大な一枚ですよね。

篠山紀信: 山口百恵さんが寝そべっている作品なんて、3m×5mですか。あんな風に自分の写真を大きく見ることはないですね。写真展には4つの部屋がありますが、一番はじめは亡くなった方だけの部屋(「GOD:鬼籍に入られた人々」と名付けられたセクション)。そこに入ると大原麗子さんの写真があるの。それを見たら、手を合わせて拝みたくなる。そういう神々しさがあってね。

篠山紀信: 3m×9mっていうのは森の中にいる後藤久美子さんの写真です。これも自分が引き込まれるような感覚になる。ほかの写真の展覧会では全く体験したことがない。それがとても面白いと思って。写真を鑑賞するのではなく、ぶつかり合って体感すること。だから、雑誌や何かで見てもダメです。行かないとダメ。現場で体感するとすごいんです。

生駒芳子: 私は、時空を超えた曼荼羅(まんだら)宇宙のようなところに放り込まれたような、そんな印象でした。

松井冬子: 手元において写真集として見るのも面白いですけど、美術館に行ってインスタレーションを含めて作品を鑑賞する、体験することはすごく大切ですし、面白いイベントでもありますよね。

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