記事・レポート

「キュレーター」がメディアとビジネスとイノベーションを変える

田中洋×津田大介×勝見明に学ぶ、キュレーション術

BIZセミナーマーケティング・PR教養
更新日 : 2012年06月01日 (金)

第8章 キュレーションのポイントは哲学と意図


田中洋氏(左)津田大介氏(中央)勝見明氏(右)

田中洋: お二人には、どういうキュレーターに学んだらいいかについて伺いたいと思います。勝見さんはセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文さんにインタビューして本を出されているので、流通業にも詳しいと思うのですが、どんなところを見るのがいいのでしょうか。

勝見明: 例えばコンビニのセブン-イレブンの品揃え改革は、キュレーションの成功例だと思います。

今、マーケットでは単身世帯が増えて、一世帯当たりの人数がどんどん減っています。それに女性の就業率も高まっています。そこでセブン-イレブンは、自分たちのあり方を定義し直して「スーパーまで行かなくても、コンビニでお惣菜が買えれば近くて便利だろう」と考えて、「近くて便利」という新しいコンセプトを打ち出したのです。そしてお惣菜系の商品や、小分け商品、店舗で調理する商品など、新しいコンセプトの商品を集めて、選んで、結びつけて「コンビニで食事の問題を解決する」という新しい価値を生み出したわけです。

自分たちのあり方を問い直し、新しいコンセプトで定義し直すと、何と何を結びつければいいのかが見えてくるのではないでしょうか。

田中洋: なるほど。津田さんはどうですか。

津田大介: 僕は「ナタリー」でやったみたいに、単に選別するだけじゃなくて、選別+編集、もしくは付加情報の追加が、今後、キュレーションの一番のカギになっていくんじゃないかと思います。そこにキュレーターの意図って見えますよね。矛盾するようなことを言いますが、すごくカラーがしっかりしたキュレーターのほうが、実は信頼できるようになってくるんじゃないかという気がします。例えば、スティーブ・ジョブズをキュレーターとするなら、あんなにカラーがはっきりしている人はいないわけですから。

勝見明: そうですね。キュレーションにまつわる反論に「ただの宣伝じゃないか。一般の書き込みになりすまして宣伝するステルスマーケティングと何が違うんだ」というものがあります。では、例えばZOZOTOWNという有名なファッション通販サイトは宣伝なのでしょうか、それともキュレーションなのでしょうか?

ZOZOTOWNの運営会社、スタートトゥデイの代表取締役の前澤友作さんは「世界中をカッコよく、世界に笑顔を。」という哲学を持っています。それをファッションを通じて実現するために、自分たちのプラットフォームや役割を定義して、自分たちが好きなものを、みんなにも好きになってほしいと思って、ブランドやアパレルショップを、やっぱりキュレーションしているわけです。そして誰もが手軽にネットで好きな服を選んで買えるという価値を提供しています。

前澤さんの「世界中をカッコよく、世界に笑顔を。」というのは、スティーブ・ジョブズの「Think different.」と同じです。出発点となる自分たちのあり方を明確にすると、何をやればいいかが見えてくるという感じがします。

津田大介: それ、よくわかります。3.11の当日、僕はたまたまTwitterを見ていて、東京都の猪瀬直樹副知事が帰宅困難者のための情報をTwitterで流し始めたのに気づきました。僕はこういう情報をツイートやリツイートしました。当時僕には11万人ぐらいフォロワーがいたので、自分が情報の起点になって、こうした情報を流すことはTwitterを見ている帰宅困難者にとって役立つし、混乱している中で情報を整理することにも意味があると思ったので。実際、困っていた人から感謝の声が寄せられました。

その後3カ月間ぐらいは、ローカルな生活者情報を拾って流すようにしました。マスメディアから抜け落ちてしまうような細かな情報を整理して伝えていこうという目的意識があったからです。

勝見さんのお話でいうと、「何かを実現したい」という世界観を持って選別することが日常化すると、一番鍛えられる感じがします。

田中洋: やっぱり世界観や価値なんですね。

きょうはキュレーションについて、いろいろ語ってきました。まとめというわけではありませんが、やはり新しいパースペクティブや新しいフレームワークで情報をどう捉え直して、それをいかに新しいコンテキストの中で提示できるか、ということが重要なんじゃないかと感じました。ありがとうございました。(終)

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田中洋 (中央大学大学院ビジネススクール 教授 )
勝見明 (ジャーナリスト)
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田中 洋(中央大学ビジネススクール教授)
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