記事・レポート

SFアポカリプス

アポカリプスは黙示録

更新日 : 2009年03月09日 (月)

第5章:わが国最初のSFアポカリプスは『日本沈没』

『日本沈没』
『日本沈没』第二部

澁川雅俊: SFアポカリプスとは、端的にいえば、人類の終末、滅亡か再生かを描いた物語ということになりますが、わが国でそういう小説の嚆矢をなすのが『日本沈没』(小松左京著、2005年小学館文庫刊)です。

これはもともと73年に出版され、たちまちのうちにベストセラー(約400万部販売)になりました。そして2006年にリーメークされて映画化されると同時に『日本沈没第二部』(小松左京・谷甲州著、2006年小学館刊)が出されました。

その内容はこうです。プレートテクトニクスの活発な地域にある日本列島、それゆえに地震や火山が頻繁に発生する。物語はその列島に未曾有の大地震や大火山が続発して壊滅状態に陥り、やがて沈没してしまう運命にあることが懸念される。プレートテクトニクスは大きな地震が起こるたびに新聞で解説されますが、地球の表面が何枚かの固い岩板で構成されており、このプレートが下層にある対流するマントルに乗って互いに動いている現象のことです。

その状況の下で政府は極秘裏に全国民を海外に移住させる計画を実行にしようとする。それが成功するのかどうかきわどいところで、第一部が終わる。相当数の犠牲者を出しながらも生き残った日本人たちは世界各地に移住することができたが、第二部の物語はその25年後の話。

これから読まれる方もお出でになると思いますので、ここではこれ以上その話の展開を述べませんが、世界に散らばった国民の統一性を求めるべく別の計画が考えられ、そしてその進行の話が書かれています。

『死都日本』
『昼は雲の柱』

●サイエンスとフィクション

わが国のこの手のSFは久しく小松左京の『日本沈没』であったわけですが、最近もう1人の作家が名乗りを上げました。それは石黒耀で、彼は02年に『死都日本』(石黒耀著、2002年講談社刊、2007年講談社ノベルズ刊)でSFやミステリーなどエンタメ作家としての登竜門であるメフィスト賞(講談社)を受賞し、その後『震災列島』(2004年講談社刊)、『昼は雲の柱』(2006年講談社刊)を出しています。

『死都日本』では九州霧島での火山活動が、『震災列島』では東海および東南海の複合地震が、『昼は雲の柱』では富士山の大噴火を、それぞれ科学的根拠を正確かつ精密に積み重ねながら現実に起こりうるクライシスを描いています。

石森の書いたクライシス小説に対して日本地質学会が地質学上の科学的データを駆使して物語を論理的に組み立てていることに注目し、作者を特別に表彰しています。そのことはSFと科学技術の関係を考えるうえで興味深い事例です。

SFに限らず小説が空想の産物であることは言うまでもないことです。フィクション(虚構)について辞書には「事実でないことをさも事実のように創り上げること」と説明されています。一方科学は、事実を突き止めようとすることと、その結果突き止められた事実についての私たちの理解です。したがって科学とフィクションは、一見相対立する関係にあるように思われます。

『サイエンス・イマジネーション—科学とSFの最前線、そして未来へ』
昨年(2007年)SF作家と科学者たちがNIPPON2007(世界SF大会・日本SF大会)というシンポジウムを開催しました。そこでは、小説を書いたり、読んだりする空想の世界と、科学が新しい事実を発見したり、技術が新しい機械やシステムを生み出そうとするしたりする想像の世界の先々にあること(人間社会の未来)について論じたのです。『サイエンス・イマジネーション—科学とSFの最前線、そして未来へ』(小松左京監修、瀬名秀明他著、2008 年NTT出版刊)がそのシンポジウムのまとめです。
(その6に続く、全7回)

※このレポートは、2008年10月9日に六本木ライブラリーで開催したカフェブレイク・ブックトーク「SFアポカリプス」を元に作成したものです。

※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。

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