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Seminar Report
ガラパゴスこそブルーオーシャン

福岡伸一「生命海流」論

更新日 : 2021年08月24日 (火)



生物学者福岡伸一氏をお招きした本セミナーは、「生命海流GALAPAGOS」出版を記念して開かれました。ガラパゴスの豊かな自然が生まれる背景から、現代社会で人間が向き合うべき自然との関係、ビジネスのヒントに至るまで、話題は多岐にわたりました。

開催日時:2021年7月8日(木)19:00~20:30
スピーカー:福岡伸一 (生物学者)
文:八角休
ガラパゴスという「循環」の楽園
ガラパゴス諸島は陸から1000キロも離れた絶海の孤島。180年ほど前に生物学者チャールズ・ダーウィンが訪れて、「進化論」の着想を得たことで知られています。福岡氏は長年、ダーウィンが見たであろうガラパゴスの様々な風景を自分の目で見ることで、生物学の、そして自分自身の「原点」に立ち返りたいと願い続けてきたそうです。
ガラパゴス諸島には生物の楽園のような豊かな海がある一方、陸もガラパゴスゾウガメやガラパゴスリクイグアナのような多様な動植物に満ちています。海底火山の爆発で生まれ、水も資源もない荒涼たる島だったガラパゴスがなぜこのような環境へと変わったのか、その鍵を握るのは「循環」だと福岡氏は語りました。

ガラパゴス諸島の近海には、海底を流れる寒流が持ち上げられて暖流になる湧昇という現象があります。それに伴い海の底に溜まった有機物の死骸が運ばれると、そこに含まれた炭素や窒素から豊かな植物性プランクトンが繁茂し、それを食べる動物性プランクトンが増えます。今度は海の中のエビやカニ、小さな魚が動物性プランクトンを食べ、小魚は大きな魚に食べられ、それが死骸となって海底に降り積もり、こうして大きな循環が生まれるのです。陸では、土壌に微生物が少しずつ増えて空気中の窒素を栄養に変えると、風などで運ばれてきた植物が根付き、有機物を生み出します。そして、その植物を食べる生物がやってきて糞をすると、さらに土壌が豊かになるのです。これもまた大きな循環です。

ブルーオーシャンは見つけるのではなく、作るもの
その後、カメやトカゲが台風や大嵐で漂流物に乗ってガラパゴスに辿り着きます。すると、そこには植物がいくらでもあり、天敵も競争相手もいません。非常に長く生きることも、大型化することも出来るのです。つまり、ある種生物の余裕が他の生物との協調や共生を生み出し、現在の多様なガラパゴスの自然を生み出したのではないか、と福岡氏は言います。「ガラパゴスは進化の袋小路でも取り残された場所でもありません。むしろ、その場所に辿り着いた者にとってはブルーオーシャンだったわけですね。」

ビジネスにおいても、しばしばブルーオーシャンを探そう、と言いますが、実はガラパゴスを見てみると、最初から青くは見えないとわかる。「ブルーオーシャンは誰もいない荒涼とした場所で、たまたまそういう場所を与えられた者が、限られた資源を利用して、その場所でニッチをつくる事によって、居場所をブルーオーシャンに変えることが出来たわけです。ですからブルーオーシャンは見つけるものではなく、作るものだと、ガラパゴスは教えてくれています。」

利他性が自然とのつながりを取り戻す
また、福岡氏は、人間が種の保存を優先するピュシス=「ありのまま自然」から抜け出し、個の生命を尊重するロゴス=「言葉」という価値観を手に入れたために、一人ひとりの自由と生命を維持する上で自然の「循環」を止め、地球環境に負担を掛けている現状に警鐘を鳴らします。

「個を大事にした人間がどのように自然と共生していけばいいか」
福岡氏は、ガラパゴスについて考えることを通して、この大きな問題と向き合い続けて行きたいと語りました。

参加者からの「ロゴスを切り離すことのできない人間がどのようにピュシスへ近づけばいいのか」という質問に対して、福岡氏は利他性が重要「ピュシスである生命、自然は絶えず相互に繋がっているが、人間は部分を切り取って、それを利己的に使おうとしてしまう。そこを反省して、人間という生命が他の生物に迷惑を掛けつつも、他の生物の為になる事も行えると意識すること。利他的な共存を目指し、視野を広げ、ロゴスとピュシスという二つを往復しながら考え続けることが必要ではないでしょうか」と応じました。

質疑応答では、次々と参加者からの質問があがり、オンラインながらも直接画面で対峙し、福岡氏に自分の言葉で感想・質問がなされました。福岡氏も参加者の意見に対して、一つ一つご自身の考えを述べ、説明下さるたいへん貴重な機会となりました。





『生命海流 GALAPAGOS』福岡伸一(著) 朝日出版社(2021/06)

福岡伸一さんの「note」
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