六本木ヒルズライブラリー
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【ライブラリーイベント】開催レポート
SXSW<サウス・バイ・サウスウェスト>から見える「10年後の働き方・暮らし・思想」

更新日 : 2018年02月08日 (木)


ITビジネスの未来を語るために音楽と映画と人生を愛する人々が米国テキサスのオースティンに集う世界最大マルチメディアの祭典、SXSW<サウス・バイ・サウスウェスト>をご存知でしょうか?この日のライブラリーイベントは、2012年よりSXSWに参加し、日本でのエバンジェリストとして活動する、SXSW本部より日本で唯一SXSW公式コンサルタントに任命されている未来予報株式会社の曽我さんと宮川氏さんにお越しいただき、SXSWの魅力、未来予報株式会社による世界の動向予報などについてお話いただきました。






 宮川 麻衣子(みやがわ まいこ)
 未来予報株式会社 代表取締役 / コンテンツストラテジスト 
   SXSW公式コンサルタント



 曽我 浩太郎(そが こうたろう)
 未来予報株式会社 代表取締役 / プロジェクトデザイナー
   SXSW公式コンサルタント

 


ご登壇いただいたお二人が立ち上げた未来予報株式会社は、「まだ世の中にないモノやサービスを一緒に育てる」をコンセプトに掲げ、スタートアップや中小企業の新製品の開発段階からチームに加入し、リサーチ、コンセプト設計、ブランディングの戦略設計・企画・制作を専門に行うデザイン会社。
 
世界各国から新たなビジネスの種が集まるSXSW<サウス・バイ・サウスウエスト>に6年間渡航し、海外起業家やアーティストの「ビジョン」を毎年分析。まだ世の中が気づいていない潜在ニーズや期待感を予見し「未来を作る種」としてレポートするプライベート勉強会を開催。
2016年にはSXSW本部から、日本で唯一のSXSW Consultantsに任命。日本での普及・ブランディング・プロモーション活動を担っています。



すべては世の中にまだない新たな価値を育てるために

曽我さんと宮川さんは、CMや映画などの映像制作会社の同僚で、その頃から本業の傍らに行っていた放課後活動的な未来予報研究会から未来予報株式会社をお二人で立ち上げたのだそうです。未来「予想」ではなく、未来「予報」という社名にこだわった会社の事業内容は、「この世の中に出ていない概念やプロダクトを具現化すること」。リサーチ、コンセプトデザイン、デザインコンサルティング、クリエイティブをプロジェクトベースで提供する他、SXSWへの参加も続け、SXSWを通じてスタートアップコミュニティのエッセンスを凝縮した本として、発行したのが、『10年後の働き方「こんな仕事、聞いたことない! 」からイノベーションの予兆をつかむ』です。

世界のタンパク源不足を救う人工食品「培養肉」を高品質の肉を開発してブランド化し、世界に発信する培養肉マイスターや、ゲームを使ってうつ病などの病気を治すゲーム療法士、従来にない強靭さを持つ人工のクモの糸など新素材で一生着られる服をデザインするバイオ衣装デザイナーなど、テクノロジー起点で、今はないまだない「仕事」の予報をまとめた1冊です。予報とはいえ、ただの空想ではなく、今兆しが見えているテクノロジーからどのような新しいビジネスが生まれ、どのような新しい職業の可能性があるのかを説明しています。農業と食、ファッションとウェアラブルなどのテーマごとにSF仕立ての未来予報を具体的に描くことで、読んだ人が未来を自分事化できるというのがコンセプトとなっています。


▼ 10年後に予想されるニュータイプは「揺らぐ人」
 
では、10年後の人々はどのような感性・感覚で今を生きているのでしょうか?実際に10年後の社会を「未来予報」していただきました。
 
SXSWに集まる6000人以上イノベーターの人がこういう世の中にしたいというビジョンを毎年定点観測している曽我さんと宮川さんは、そこから浮かび上がったニュータイプの人を「揺らぐ人たち」と名付け、10年後の2027年には増殖しているのではないかと予想します。10年後に暮らす人々は、新しいサービスに囲まれ、選択肢が沢山ある中で生活していています。揺らぐ人は、たとえば、1人でいたいが、SNSなどで誰かと共有したい、健康な生活にこだわりたいが今を楽しみたい、一定の場所にとらわれたくないが、安心できる場所はほしいといったそんな裏腹な感情や感覚の持ち主だと言います。
 
また、無駄な衝突を避けたいとか、自分にラベルがつけられることがきらいとか、変えられない決定、例えば家の購入とか結婚など人生の重大な決定ができないなども特徴のひとつで、さらに、好きなものを聞かれるのが嫌な時があるという特徴もあるのだとか。ちょっと不思議に感じますが、これは音楽に例えて考えるとわかりやすいそうです。例えば曽我さんの学生時代、音楽を聴きたいときはタワーレコードに行き、好きなジャンル、例えばヒップホップが好きであれば、ヒップホップというジャンルから好みのアーティストを選んで聴いていました。これが自分が「音楽を好き」というアイデンティティになっていました。しかし、最近は、SPOTIFYなどの音楽のストリーミングサービスを利用している人が多く、ロックとかヒップホップというようなジャンルで選ぶのではなく、リラックスとかワークアウト、集中したいなどといった気分によってすすめられる曲を聞く傾向にあるため、どんな音楽が好きかという質問に対してロックが好きといったようなはっきりした答えがく、好きな音楽を聞かれること自体が億劫だと感じるのだそうです。
 


 実際、曽我さんたちがオースティンで出会った人の中にも、揺らぐ人を見出すことができるそうです。例えば、サイレントディスコでは、みんなヘッドフォンをして、同じビートで違うジャンルの音楽を聴いているという状況が良い例です。1人で好きな音楽を聴きたいけど、誰かと音楽を共有したいという人です。ともすると矛盾と感じられるものを、苦もなく受容する。こうした揺らぐ気持ちに浸かれる人がいるいっぽうで、矛盾への柔軟性があるがゆえ無難なものを好まず、エッジがとがった「飛んでいるもの」を好むひとが増えるのではないかと言います。このような未来予報は、プロダクト/サービス企画やマーケティングに従事する人にとっては、今後を考える上での1つの指針になり、揺らぐ人の衣食住やその生活を想像した時に、何と何の間で揺らいでいそうかを考えるだけでも、何かしらのヒントを得ることができるのではないでしょうか。


未来を予測するには2つの方法がある
 
SXSWのカンファレンスでは、2050年の40年後から明日まで様々な時間軸での未来が語られるそうです。傾向として、10年先の未来まではプロトタイプがあるもののその先はSF作家がストーリーを語ることも多いと言います。こうした SXSWのセッションに触れてきたお二人が未来を考える上で大事にしていることは「10年くらい先の未来をテクノロジーだけでなく、人の気持ちや考え方をセットで描くこと」だと言います。

今はまだ存在しないユーザーを想定しながらその姿を描くことや世の中にまだない新しいサービスを創り広めるのはとても難しいですが、2つのアプローチがあるそうです。1つは、今いる潜在的なユーザーを調査して発見する方法。もう1つは、これから生まれるかもしれない「こんな生活をしてみたい」「こんな人になりたい」と思えるようなベターワールドの善良なユーザーの理想像を立てるのだそう。


 従来の手法はユーザーを観察して、ユーザーに合わせて修正するというアプローチが一般的でした。しかし、理想の善良なユーザーを提示することでユーザーを、そして結果的に社会を導いていくことができるというのが、曽我さんたちが提唱する未来と現実のギャップの埋め方です。ともすると、ユーザーの姿を追いながらその潜在的なニーズを見誤ることもありますが、未来を予測してサービスやプロダクトを開発する上では、あえて今のユーザーの声からフォーカスをずらし理想の姿を提示してユーザーを動かしていくことも有効なアプローチなのかもしれません。
 




創造の連鎖を起こすコンテンツで世の中をより新しくというコンセプトを未来予報株式会社は掲げています。「誰かの描いた未来像が、ほかの誰かによって本物になる」「実際のサービスを誰かが使ってみることで、もっとこうしたいという未来像が生まれる」こうした動きがでてくるには、創造の連鎖が必要です。ビジネスの場面では、どうしても問題解決型の思考をしがちですが、すべての問題がそのアプローチで解決できるわけではなく、創造の連鎖を通じてこそ作れるより良い世界があるのかもしれません。