六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2015年8月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?

道を究めるとはどういうことなのか

『火花』又吉直樹【著】

文学賞の受賞が話題なのはもちろんですが、本書は著者の、「笑い」に対しての厳しい姿勢を宣言すると共に、漫才の掛け合いという形式を通して、文学自体の開拓をも試みる野心に溢れています。

文学の開拓? というと何だか難しそうですが、著者の選ぶ言葉は、ありきたりの言い回しによる生温さを飛び越えて、言語化しづらい人間のありかたを問います。それはまるで、言葉の刃を突き付けてくるようです。

華やかな舞台というものは、華やかであるからこその陰の部分を多大にはらんでいます。「笑い」という、実は底抜けに化け物めいた世界に魅入られた芸人は、時に狂気をも自身に包含せねばならないときもあるでしょう。

それは笑いに限らず、ひとつの道を究めていくにおいては共通することかもしれません。道を追求する純粋さがゆえの、物語において展開されるどうしようもない愚かさが、痛々しいほど人間臭く、共感できるのです。

芸はあらゆる場面に通じる力となる

芸の道で得た力は、世界の見方を変えてくれます。もちろんその道に入らずとも、沢山の書籍が道標となってくれます。自分の日々と照らし合わせて読む、自分ごとに応用して読むだけでも、日々の彩りは豊かになるはずです。

『風姿花伝』
芸事を極める上ではもちろんのこと、日々のビジネスの心得にも溢れる本書。
「初心忘れるべからず」「秘すれば花」「離見の見」などなど、
その言葉のなんたるかを知っているだけで、自身の振る舞いも変わってきます。

『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』
プロの落語家が説く「面白い話」ではない、「話を面白く」するための心得。
同じ話なのに面白いのは、ひとえに話術の賜物。
話すことをひとつの芸事ととらえ、意識的に「修行」を積み重ねることで、
ビジネスでもプライベートでも通用する「話芸」を身につけることができます。

(ライブラリアン:結縄 久俊)


火花

又吉直樹
文藝春秋

風姿花伝

世阿弥
致知出版社

いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか

立川談慶
大和書房