六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2021年4月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?





先月は『音楽が未来を連れてくる』で、音楽がもたらされる歴史の変遷を読みました。
今月も音楽です。今回は「うた」。『うたのしくみ』と題された一冊です。

 
「うた」には「しくみ」があります。歌詞があり、音楽があり、歌い手がいて、演奏があります。歌は歌詞だけに宿っているわけではなく、楽曲に導かれて歌い手が歌う、その瞬間に生まれ出るものです。数多ある「うた」には、成り立ちの物語があり、作詞作曲者の意図や意思があります。その意図や意思を超えて、聞く人にとって「うた」は、個々人にとって特有のものになっていきます。
 
 
本書は楽曲の細やかな部分にまで目が向けられます。今までよく知っていた、あるいはよく知らなかった楽曲がジャンルを問わずに解剖され、新たな姿を現します。ジョアン・ジルベルトからユーミン、岡村靖幸にTwice、ローリング・ストーンズからダフト・パンクまで。紹介されているものがよく知る楽曲であれば、今まで知らなかった新たな一面を見せてくれることに喜びさえ感じます。


現代は音楽サブスクで、すぐに紹介されている楽曲に辿り着くことができます(もちろん、音源を探す旅に出るっていうのも、それはそれで良いものです。探している音源を発見した時の喜びとか、CDをデッキに入れて音が鳴り始めるまでの時間にわくわくしたりとか)。


本書に取り上げられた楽曲を聴きながら、その深みと物語が立ち上がり、身体のより深い部分まで届く。それぞれの「うた」が、実は持っていて、けれどもまだ開かれていなかった扉が開かれていく感覚。新しい響きとの出会いは素直に楽しいものです。

(ライブラリアン:結縄 久俊)

うたのしくみ 増補完全版

細馬宏通
ぴあ