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宮本亜門: 違うから面白い、違わないから素晴らしい

更新日 : 2009年04月30日 (木)

第10章 沖縄が教えてくれたもの。瞬間、瞬間を大切に生き抜きたい

アカデミーヒルズのランチョンセミナー「違うから面白い、違わないから素晴らしい」の様子

宮本亜門: 12年ぐらい前、私は初めて沖縄に行きました。実は「違いがわかる男」で、1回沖縄に行きはしました。しかしそのとき、ただホテルの中にいて沖縄のことは一切わからずじまい、つまり沖縄にいて、沖縄を知らない状態でした。そんなこともあり、いつか沖縄に行ってみたいと思っていたのです。

琉球国、この前まで違う国だったんですね。違う国、違う文化、違う言葉がある島がそこにある。その違いの魅力に僕はすごく興味を持ったわけです。

いろいろな演出をしていたのですが、「自分はこのままでいいんだろうか、自分の足はちゃんと地についているのだろうか」と不安を持っていた39歳のとき、僕は沖縄を訪ねました。

沖縄に行ったら、沖縄の公設市場にいるおばさんたち——向こうでは親しみを込めて「おばあ」と呼んでいます。そんな彼女たちが、僕が昔、東京の銀座で感じたような温かさで、突然背中をたたいて、「はい、亜門、はい、とっても小さいね」とか言ってくれるのです。会ったことない人ですよ。それに平気で僕のことを「普段は汚いね」とか言う。

そんなこともあって、「何だろう、この楽しさ?」と思っていました。私がテレビに出る・出ない、何かをした・しない、一切関係ない。ただの近所のお兄ちゃんという扱いをしてくれる。僕にはそれがうれしかった。僕が「何でそんなこと言うの?」と言うと、「ああ、褒めてやったんだから、何か買って」って、よくわからない返事がかえってくるのです(笑)。

僕にはこれがとっても心地よかった。で、思ったのです、もしこのおばあが僕のおばあちゃんだったら、もし僕のおばさんだったら、この気さくさは心温まると。

つまり、何を言いたかったかというと、全員同じ人間だよということです。全部家族なんです。我々は同じように皆、オギャーとして生まれておむつをしているのに、年を重ねれば重ねるほど、偉いのか・偉くないのか、正しいのか・正しくないのか、勝ちか・負けかということで、社会で生きようとしている。

亡くなったお袋は、ずっと肝硬変を患っていたのですが、いつも言っていたことがあります。「生きていられるって、すごいのよ」。僕はその言葉ばかり聞いていました。だから今でも、「いつ死んでもいい、明日死んでもいい、今ここで地震で死んでもいい。この一瞬まで大切にしたい、せっかくこの肉体とこんなチャンスがあるんだもの」というふうに思いたいと思っています。

僕も人間なんで、つい「あー」とか「もう、疲れた」とか文句を言ったり、慣れてしまったりすることがあるけれど、これだけは何とか避けたいと努力しています。やっぱり生きるって面白いなと、つくづく思います。

舞台を通して僕ができることは、いろいろな感動を日本人、アメリカ人だけではなく、世界中の人に分けていきたい。そしていろいろな経験を僕もしていきたい。世界の家族と気さくに心を通わせてゆきたいのです。面白く、存分に、皆さんと共に生きていけたらと思っています。

今日はこのような機会をいただいて、本当にありがとうございました。(終)

該当講座

違うから面白い、違わないから素晴らしい
宮本亜門 (演出家)

2004年、東洋人初の演出家としてニューヨークのオンブロードウェイにて「太平洋序曲」を上演した宮本亜門氏。演劇・ミュージカル界で最高の栄誉とされるトニー賞4部門にノミネートされ、米国の演劇界でも高い評価を得ました。 その後も次々に国内外で作品を発表し、常に新しい表現を試みるとともに、テレビ番組出演....


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