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これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~

アカデミーヒルズセミナー経営戦略
更新日 : 2008年03月14日 (金)

第16章 日本を、東京を変えるには根元的な議論が必要

米倉誠一郎
米倉誠一郎: 先程の格差論に戻りますが、以前、竹中研究会で「消費税はイギリスは19%だから、日本も消費税は10%ぐらいいくんだろうな」という話が出ました。

消費税はお金持ちも貧しい人も一律にかかるから、貧しい人には不利になる。そうしたら「例えば、年収200万円以下の人には、年末に消費税分の20万円を還付してしまえばいい」という意見が出ました。これは素晴らしくシンプルで、いいアイディアだと僕は思います。

低所得者は消費税がゼロになる。その代わり(消費税は)補足率が高いから、税金を払わない人は減る。なぜ、こうした非常にシンプルでリーズナブルな考え方にならないんでしょうね。

竹中平蔵: これは技術の話でね、さまざまな議論が可能です。例えば、「非累進的な食料品は消費税の対象から除くべき」という議論は実際にあるわけです。「じゃあ、食料品の定義はなにか、キャビアもそうなのか」という議論になる。「では、定額で固定したほうがいい」と。これはもう技術論ですから、いくらでも知恵が出せる話だと思うんですね。

むしろ、「私たちは将来どのぐらい税金を払う必要があるのか」という大枠の議論をしなければなりません。高い公共サービスを求めれば高い負担をしなければいけないし、自助自立型で低い公共サービスでいいのであれば税負担も低くなる。我々はどちらを選択するのか、大枠の議論を先にして、そのうえで技術論をしないといけないです。

米倉誠一郎: なるほどね。どういう国をつくるのか。小さな政府なのか、大きな政府なのかを国民が議論する。こうした根源的な議論をしなければいけない。東京をどうするかも同じでしょうね。しかし、それを待っていたら永久に解決しないような気もします。

六本木ヒルズや東京ミッドタウンができ、お互いに関係性を探りながら、また新しい創発が生まれていく。そして、こういうムーヴメントに皆が乗っかってくることで東京の街が変わっていく……。実際はそんな形がいいんじゃないでしょうか。

ただ、郊外のようにそうしたムーブメントが起こりにくいところ、駄目なところはやはりしばらく放っておくことでしょうか。

竹中平蔵: そういうこともあるでしょうね。

私は素人なので、逆に教えて欲しいんですけれども。ここ数年で東京の開発はすごく進みましたが、六本木ヒルズを除けば、ほとんどがJRなどの跡地開発です。そうした開発しやすいリソースが今後どのぐらい出てくるんでしょうか。

ひとつは郵政がありますよね。ものすごい資産を持っていますから。ところが、郵政はこれまで法律で定められたこと以外はできなかった。東京駅前の一等地にありながら東京中央郵便局の有効利用できないのは、郵便と貯金と簡保しかやっちゃいけないからです。不動産事業はできなかった。

しかし、民営化すればそれができるようになる。日本全国にもっと有効活用できる施設がたくさんある。ちなみに、私の地元、和歌山の中央郵便局はお城の天守閣が一番きれいに見えるところにあるんですよ。これらの再生や活用も日本の都市を良くする1つのきっかけになるんじゃないかと期待しているんですが、どうでしょう。

隈研吾: 郵便局はね、実は世界中で狙われている施設なんです。郵便制度が確立したのは20世紀初頭ですが、この頃の建物はグレードがいい。これは世界共通です。だから、その頃の郵便局の建物をホテルにした例ってすごく多いですよ。高級ホテルにぴったりなんですよね。日本でもそれができるとしたら、すごくおもしろいことになりますね。

米倉誠一郎: 東京中央郵便局が高級ホテル? 制服もそのまま使えますね(笑)。議員宿舎だって本当はもっとおもしろくできたはず。大学の建物や大蔵省の施設もありますね。日銀の建物もホテルにぴったりじゃないですか? 東京を変えるリソースはまだまだいろいろなところにあるはずです。

さて、話は広範囲に及びましたが、東京は今、大きなチャンスを迎えている。課題も多いけれど、リソースもたくさんあることがわかりました。それをどう活かすかが、今、私たち一人ひとりに問われています。

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