記事・レポート

ハコモノ行政は、デザインで変えられる

建築家・谷尻誠と「ONOMICHI U2」の出会い

更新日 : 2015年09月30日 (水)

第9章 当たり前の中にこそ、新しい価値がある


 
まちの魅力を再発見する

高橋俊宏: ディスカバーリンクせとうちでは今後、どのような展開をお考えでしょうか?

出原昌直: 1つは、「建築」という切り口を広げていきたいと考えています。最近は、香川県の直島や豊島(てしま)などがアートで盛り上がりを見せていますが、瀬戸内一帯で「アート」「建築」という形で手を携え合いながら、国内外の方々に喜んでいただけるような活動を進めていきたいと思っています。

例えば、谷尻誠さんに設計していただいた「ONOMICHI U2」は、いまや尾道の新たなシンボルとなっています。また、冒頭でご紹介した和洋の古民家をリノベーションした「せとうち 湊のやど」のほか、尾道や鞆の浦に残るレトロなまち並みも根強い人気があります。

さらに、尾道と鞆の浦の間に常石(つねいし)という町があり、そこに明治から造船業を営む常石造船という会社があります。この会社の「せとの森」「せとテラス」という2つのユニークな社宅も、様々なメディアで取り上げられています。尾道や鞆の浦、常石は、歴史ある寺社仏閣が多く、新旧の建築という意味でも見どころがたくさんあります。

アートと同様に、建築好きの人は本当にたくさんいます。多少の時間はかかると思いますが、まちの魅力を再発見し続けることで、将来的には大きなうねりを生み出していきたいと考えています。

様々な方と出会い、プロジェクトを進めていく中で、我々も少しずつ成長していますし、まちの方々も新たに生まれた魅力に触れることで、少しずつ意識が変わっています。さらに、まち全体のレベルが上がれば、外から訪れる人達にもいま以上に喜んでいただけるようになると思います。こうした流れの中で、新しい事業と雇用を生み出し、まちを元気にしていければいいですね。

何より、我々をサポートしてくれた谷尻さんはじめ専門家の方、地元の方、さらに行政の方など、人のつながりが新しい何かを生み出すきっかけ、原動力になる。それが、会社を立ち上げてから3年が経ったいま、私が感じていることです。

高橋俊宏: 日本の「地方」には、まだまだ古い“ハコモノ”がたくさんありますが、建築家である谷尻さんとしては今後、デザインの力を通じてどのように変えていきたいとお考えですか?

谷尻誠: 地元の方にとって、まちに残る古い建物は当たり前の日常になっているため、いまはその価値に気づくことができないだけだと思います。誰かが少し視点を変えてあげれば、再び輝き始める建物は、日本中のそこかしこにあります。

当たり前の中にこそ、新しい価値がある。それを目に見える形で提示していきたいと思いますし、成功事例が増えていけば、まちの人も喜びますし、まちを訪れる人も楽しくなる。そのような豊かさの輪を広げていければいいなと考えています。

高橋俊宏: ありがとうございます。やはり、新しいものを生み出す時は、ソフトとハードを一緒に考え、多くの人を巻き込みながら、プロジェクトを進めていくことが大切だと思います。また、「単純に観光客が増えればいい」だけでは、将来性はありません。地元の人が欲しかったり、楽しめたり、満足するものをつくらなければ、次代まで受け継がれる価値はつくり出せないでしょう。

その意味でも、訪れる人のみならず、地元の人にも喜ばれている「ONOMICHI U2」は、非常に示唆に富んだ事例だと思います。皆さんもぜひ尾道に足を運んでいただき、その素晴らしさを体感してほしいと思います。(了)


気づきポイント

●まちに眠る魅力を“再発見”し、次の世代に“つなぐ”。それがまち再生への出発点。
●常識や既成概念が破られた瞬間、驚きや感動といった違和感が生まれ、視点がガラッと変わる。
●見慣れた場所にこそ、まちの魅力・価値が隠れている。それを引き出せるのが、デザインの力。

該当講座


六本木アートカレッジ ハコモノ行政はデザインで変えられる
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