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創成のイノベーション「未来に継承するリベラル・アーツ」

VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar

BIZセミナー
更新日 : 2011年06月28日 (火)

第1章 学問と企業の最前線に必要な「リベラル・アーツ」

宇宙創生の理論を応用して「3倍速VTR」や「1/fゆらぎ扇風機」を開発した佐治晴夫氏は、学問と企業の最前線でリベラル・アーツの重要性を感じたと言います。単なる教養ではなく、世の中を変えるものづくりに欠かせないリベラル・アーツとは一体どんなものなのでしょうか。大人気の授業ふうにお話しいただきました。
講師:佐治晴夫/鈴鹿短期大学学長

佐治晴夫氏

佐治晴夫: クリスマスの季節ですので、きょうは「クリスマス講義」の一端としてお話をしたいと思います。クリスマス講義というのは、イギリスの王立研究所が毎年クリスマスの時期に開催している青少年向けの科学実験講座ですが、私は30年ほど前にたまたまこの講義を聞く機会があり、非常に感銘を受けました。そこで翌年から私も「クリスマス講義」と銘打って自主講義を始めたのです。1年に数回開催しており、今年はこのセミナーで4回目になります。

私はもともと数学と物理を勉強して、それから宇宙の研究、特に理論天文学の仕事をしてきました。「物事の始まりとは何か」ということの中で最も根源的なものが「宇宙の始まりとは一体何か」というものです。原因があっては本当の始まりにはなりません。「こうこう、しかじかで始まりました」ということであれば、「こうこう、しかじかというのはどうして起こったのか?」ということになるので、本当の始まりというのは原因もなく始まらなければいけないのです。この「原因もなく始まる」ということが可能かどうかということの数学的な論証を、私は数学科のときにやっていましたので、そんなことから何となく宇宙のほうにいったのです。

東京大学物性研究所にいた頃、松下電器さんから声を掛けられ、松下の研究所での仕事も同時にすることになりました。そのとき開発した世界初の「3倍速VTR」の磁気ヘッドには、宇宙創生の理論がそのまま使われています。また、宇宙の始まりと非常に深いかかわりのある「ゆらぎ」を応用してできたのが、「ゆらぎ扇風機」です。

こうして企業と学問を二本立てでやってきたのですが、そうした中で必要だと思ったのが「リベラル・アーツ」の考え方です。リベラル・アーツというのは一般的には教養と訳されますが、もっと深い意味があるのです。きょうは、その辺のことからお話をしたいと思います。

リベラル・アーツとは、中世ヨーロッパにおいて、通常の職業教育とは全く異なる人格形成を目的として生まれた教養基礎科目です。「文法」「論理」「修辞」という言語にかかわる3学科と、「代数」「幾何」「音楽」「天文」という数学にかかわる4学科、合計7学科があります。リベラル・アーツが目指すのは、既存の伝統や風習から大きく心をliberate(開放)して、新しい考え方の枠組みをつくることです。

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該当講座

第9回 創成のイノベーション 未来に継承するリベラルアーツ
佐治晴夫 (鈴鹿短期大学学長)

佐治 晴夫(鈴鹿短期大学学長)
「私たちはどこから来てどこに行くのか」という根本的な問題とともに、リベラルアーツ(教養や芸術)が我々にもたらす影響そして重要性についてお話いただきます。


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