記事・レポート
芥川賞作家、楊逸氏が語る
眉間にシワのよらない「異文化の中の常識」という話
ライブラリートーク
更新日 : 2011年03月17日
(木)
第7章 日本の常識は、ほかの国の非常識
楊逸: 一方、日本は、ある意味ちょっと地味な感じがします。いくらお金を持っていても、金のブレスレットとか金の太いネックレスとか、あまりしないですよね。でも使うときはポンと出して、紳士的に何も言わない。たとえば、中国だとレストランで会計するとき、「私が払う」「いや、私が払う」「私が」「私が」って、両方とも払いたい振りはするけど、財布をなかなか出さないんです(笑)。
日本の文化には、「和」という漢字がぴったりだと思います。日本の王朝はずっと天皇家で、日本人にとっては神様的な存在ですよね。内部での権力闘争はあったかもしれませんが、天皇が変わるたびに、一般庶民まで前の時代のものを壊さなければならないという考え方は一切ないじゃないですか。天皇家と庶民の間にいる武士や将軍の戦いで時代が変わってきているわけです。だから文化は破壊されていないんですね。「私は正当な存在だ」ということを表すことは、ある程度は必要かもしれないけれど、前の時代の文化をすべて否定する必要はない。そこが日本人のすごく賢いところなんですね。
「和」という文化こそ、我々中国人が学ばなければならないものだと、私は今すごく思っています。いくら素晴らしいものを持っていても、時代が変わるとすべて否定され、またマイナスから始めなければならない——なんてことにならないよう、「和」という文化をしっかり勉強する。そして「いかにすばらしい文化をつくり出すか」ではなく、「いかに文化をいい形で伝えていくか」、それが何より大事ではないかと私は思います。
そういう文化的な違いがあって、常識も違ってくるんです。日本の方は、最近よく中国のことを「非常識だ」と言うんですけれど、私はそうは思いません。この世の中、日本人にとっての常識が、ほかの国の人にとっては非常識だったりすることもあるのです。だから文化に対して好きだとか嫌だとか思う前に、「この世の中には自分が持っている常識と異なる常識もあるんだ」「そういう異なる常識は実際に存在しているんだ」ということを認識する必要があるのではないかと私は思います。
最後になりますが、『おいしい中国』というタイトルのエッセイを書きました。読んだら、「なに? 全然おいしくないじゃん」という苦情が来ちゃいそうですが、これはあくまでも、今ここに立っている私がどういう食べ物を食べてきたのかという話です。時代も時代なので、皆さん理解できない生活かもしれませんが、出来たてホヤホヤなので、その温かさだけはおいしいかと思います(笑)。もしよければご覧ください。きょうはどうもありがとうございました。(終)
日本の文化には、「和」という漢字がぴったりだと思います。日本の王朝はずっと天皇家で、日本人にとっては神様的な存在ですよね。内部での権力闘争はあったかもしれませんが、天皇が変わるたびに、一般庶民まで前の時代のものを壊さなければならないという考え方は一切ないじゃないですか。天皇家と庶民の間にいる武士や将軍の戦いで時代が変わってきているわけです。だから文化は破壊されていないんですね。「私は正当な存在だ」ということを表すことは、ある程度は必要かもしれないけれど、前の時代の文化をすべて否定する必要はない。そこが日本人のすごく賢いところなんですね。
「和」という文化こそ、我々中国人が学ばなければならないものだと、私は今すごく思っています。いくら素晴らしいものを持っていても、時代が変わるとすべて否定され、またマイナスから始めなければならない——なんてことにならないよう、「和」という文化をしっかり勉強する。そして「いかにすばらしい文化をつくり出すか」ではなく、「いかに文化をいい形で伝えていくか」、それが何より大事ではないかと私は思います。
そういう文化的な違いがあって、常識も違ってくるんです。日本の方は、最近よく中国のことを「非常識だ」と言うんですけれど、私はそうは思いません。この世の中、日本人にとっての常識が、ほかの国の人にとっては非常識だったりすることもあるのです。だから文化に対して好きだとか嫌だとか思う前に、「この世の中には自分が持っている常識と異なる常識もあるんだ」「そういう異なる常識は実際に存在しているんだ」ということを認識する必要があるのではないかと私は思います。
最後になりますが、『おいしい中国』というタイトルのエッセイを書きました。読んだら、「なに? 全然おいしくないじゃん」という苦情が来ちゃいそうですが、これはあくまでも、今ここに立っている私がどういう食べ物を食べてきたのかという話です。時代も時代なので、皆さん理解できない生活かもしれませんが、出来たてホヤホヤなので、その温かさだけはおいしいかと思います(笑)。もしよければご覧ください。きょうはどうもありがとうございました。(終)
関連書籍
おいしい中国—「酸甜苦辣」の大陸
楊逸文藝春秋
芥川賞作家、楊逸氏が語る インデックス
-
第1章 中国は非常識? それとも日本が変なのか?
2011年03月09日 (水)
-
第2章 毎晩15時間働いて9,800円もらえるなんて夢のよう!
2011年03月10日 (木)
-
第3章 日本女性の話し方は、中国だと企みか誘惑と思われる
2011年03月11日 (金)
-
第4章 「勉強する」は、中国語では「無理する」という意味
2011年03月14日 (月)
-
第5章 「同じ漢字の国」とは言うけれど……漢字から文化がわかる
2011年03月15日 (火)
-
第6章 中国文化は派手な「華」の世界
2011年03月16日 (水)
-
第7章 日本の常識は、ほかの国の非常識
2011年03月17日 (木)
注目の記事
-
04月18日 (木) 更新
【重要】「アカデミーヒルズ」閉館のお知らせ
「アカデミーヒルズ」は、2024年6月30日をもって閉館させていただくこととなりました。これまでのご利用ありがとうございました。閉館までの間....
-
03月26日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一による、六本木ヒルズライブラリーのための選書書棚「動的書房」。2024年3月に新たに21冊が並びまし....
-
03月26日 (火) 更新
本には、人生を変え、時代を創るパワーがある!
2023年4月から2024年2月まで全6回で開催したシリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」。モデレーターの干場弓子さんと何度も企画会....
シリーズ編集者の視点〜時代を共に創る〜 <編集後記>
現在募集中のイベント
-
開催日 : 05月28日 (火) 19:00~20:30
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?
いま注目されているメタバースでの学び。メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは何でしょうか? バーチャル技術を活用した学びを牽引するN高....
~学びの本質を見つめ、未来を展望する~
-
開催日 : 05月08日 (水) 19:00~20:30
多様な個性が育むナラティブパワー
「⾃分の物語(ナラティブ)」を語り、社会との関係性や「私たち」の目指す世界につなげていくことで、何か問題があっても、人々の共感を得て社会を変....
~人を巻き込み協働するための本質とは?~
-
開催日 : 05月21日 (火) 12:00~12:45 / 05月21日 (火) 19:00~19:45
ゆる~くつながろう!メンバー雑談
テーマなし!年齢制限なし!ライブラリーメンバーなら誰でも参加できる雑談イベントです。肩の力を抜いて楽しく、そしてリラックスした45分を過ごし....