記事・レポート

安藤忠雄「チャンスを逃すな」

日本はもう絶望的な状態……か?

日本元気塾建築・デザイン
更新日 : 2010年12月08日 (水)

第7章 遊び心が新世界を切り開く

安藤忠雄氏

「オリンピック招致」も「海の森プロジェクト」も、安藤が語るといかにも楽しげで、未来が明るく思えてくる。「何事かを達成するには、責任感という意志と遊び心がいる」と安藤。「遊び心」というスパイスを振りかけると同じものも違って見えてくる。

安藤の遊び心が存分に発揮された作品に、コンクリートブロックの茶室、木造(ベニア)の茶室、テントの茶室がある。制作費はひとつ150万円。千玄室(当時は千宗室)に話すと「ぜひ、そこで茶会を開きたい」と言って、三宅一生らと茶会を開いた。光が入るとベニアの壁や天井が黄金色に輝き、「いいな、黄金の茶室だね」と千玄室が喜んだそうだ。ただし、これはもう壊してしまったという。遊びが遊びたる所以だ。

安藤はあちこちに木を植えている。頼まれたわけではない。ときには「ウチの前に勝手に植えるな」と怒られることもあるが、「じゃあ、抜いてもいいですよ」と言うと誰も抜かない。こうした遊びのなかから、新しい時代を切り開いていく健全な自分が育つのだという。

「心が病んでいてはチャンスをつかむことはできません。今、日本人は病んでいる。ダメだ、ダメだといわれて下ばかり向いている。そろそろ顔を上げ、前を向いて楽しく生きようじゃないか」。安藤は聴衆にまっすぐに語りかける。

後藤新平は「金を残して死ぬものは下、仕事を残して死ぬものは中、人を残して死ぬものは上」と言った。安藤は後世に残る仕事をしつつ、建築の領域を超えた活動を通じて、人の心に火をつけてまわっている。口では「日本はもう絶望的な状態」といいながら、一番あきらめていないのが安藤だ。未来へ向けて、「絶望は希望に変えることができる」という信念とチャンスをつかむ術(すべ)を示してくれた。(終)
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安藤忠雄:チャンスをつくる  
安藤忠雄 (建築家)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

関東大震災後、現在の東京の都市骨格を形作ったと言われ、医師であり都市計画家でもある後藤新平氏の生誕150周年を記念して一昨年創設された『後藤新平賞』。本年、その国内外における多様な建築と、『瀬戸内オリーブ基金』『海の森募金』など環境に対するビジョン・実践力が後藤氏と通ずるということで、建築家・安藤忠....


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