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《対談/Q&Aレポート》未来の話、過去の話、2020の話をしよう

《日本元気塾・共通講義第3回》講師:遠藤謙、為末大

活動レポートキャリア・人その他
更新日 : 2017年01月17日 (火)

元プロ陸上選手・為末大さんと、義足エンジニア・遠藤謙さんをお迎えした日本元気塾5期の共通講義。異なる領域のプロフェッショナルが手を組み、義足をつくる会社Xiborgを起業。リオパラリンピックでは、Xiborgのトップアスリート向け競技用義足を使用した陸上男子400mリレーの佐藤圭太選手が銅メダルを獲得したことで話題となりました。技術が進むことは人間にとって良いこと?今後のビジネスモデルは?など、大変もりあがった対談、塾生とのQ&Aを、一部抜粋してご紹介します! 

開催日:2016年11月10日(木) 
講師:遠藤謙(ソニーコンピューターサイエンス研究所研究員/㈱Xiborg代表取締役)、為末大(元プロ陸上選手)米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授)
文/佐野  写真/御厨慎一郎 

《対談》未来の話、過去の話、2020の話をしよう

(左から)遠藤謙氏、為末大氏
日本元気塾の4期では、コンビでゼミ講師をつとめていただいたお二人。セッション冒頭に米倉先生から「義足、スポーツ、ロボットなどの技術で、人間の力をいかにより良く快適にしていくかは、社会の大事な部分を占めるようになりました。最先端を走るお二人が、塾生の皆さんとディスカッションしたい、ということでお越しいただきました。遠藤さん、為末さん、略してエンタメです!」というご紹介があり、和やかな雰囲気でスタートしました。

◆為末「米倉先生にあとはよろしくと丸投げされたところで(笑)。まず未来の話として、サイエンティストの立場で、モノと人間の関係性はどうなると思ってますか?」

◆遠藤「科学的に人間は完全にコピーできるかと問われたら、かなり時間がかかるがYES、と答えると思います。但し、すべて合理的な社会を目指したいのであれば、という条件付きで。人間は、非合理性、ムダを楽しむ生き物ですよね。そこに人間の満足度、幸せ度の落とし所があると思います。」

◆為末「ロボットはあまり知的でないことが苦手ですよね。人間がすごいところは、新しい技術に適応できるところ。すごく高い能力だと思います。」

◆為末「次に、僕たちのプロジェクトの話を。はじめにこうしておけばよかった、ということを話したいと思います。違う人生を歩んできた人間が手を組み、プロジェクトを始めるというのは、これからみなさんもあると思うので何か参考になれば。」
「まず、最初に何が得意技で、何を出し合うのかを話しておかなければならなかったですね。同じタイプの人間が2人いたらうまくいかない。お互い、個人競技から共同作業になって、どうですか?」


◆遠藤「方向性は最初に話し合ったからうまくいったと思います。ただ、僕はエンジニアで、起業することになって、社長業は楽しめるかと思ったけど、あんまり好きじゃない(笑)」

◆為末「僕は自分を過剰評価するタイプで。人のマネジメントができないんです。じゃあ、誰がマネジメントするのか?という壁に、今まさにぶつかっていますが(笑)。お互いの癖がわかってきたので、このポジションの人が必要だとわかりました。」

◆遠藤「自分は交渉の場で相手を不快にさせるということがわかりました(笑)。でも、ものづくりでは世界と戦える。為末に、経営判断としては違うかもしれないけど、僕が心地よい方の判断でいい、と言われて楽になりました。」

◆為末「人間は不得手なタスクを与えると、特出した能力まで下がると思うんです。遠藤謙がいなければ義足はできない。彼の突出した能力を発揮してもらうことを最優先にしたいので、不得手なタスクは与えない(笑)ことが重要ですね。」


◆遠藤「今は為末大という名前を出すと、たいてい、いい人という印象を持たれている。でも、為末の現役時代は近寄り難かったと聞いたことがあります。本当ですか?」

◆為末「陸上界では良くいわれることない(笑)。引退の頃に毒気が抜けたというか。社会に出て大事なのは、共同作業だ、と気付いたんです。自分のいる世界でどの戦い方が最も適しているかを考えたら、チームをまとめる監督みたいな気持ちになりました。」

◆為末「最後に、2020年に向けて一言。」

◆遠藤「まだまだ義足の技術は未熟ですが、短期的な目標として2020年には健常者と障害者の記録が交わり、パラリンピックとオリンピックのタイムをひっくり返すサプライズがあったらいいと思います。」

◆為末「僕は、健常者と障害者が混じったチームが無いとダメだと思っています。パラリンピックの走り高跳びでは、ひじの欠損とひざ下の欠損の人が同じカテゴリーなんですが、ひじの欠損の人の記録の方が総じて低い。元々選手が持っている身体能力の差もありますが、腕の振りが走り高跳びの重要なパートを締めているとも考えられます。パラリンピックの世界にふれることで、競技の理解度が高まる。混合チームは相乗効果がありそうです。」

塾生とのQ&Aを少しだけご紹介!


Q: 健常者が履く靴を作るという考えはありますか?
A 遠藤:あります。総務省の異能(Inno)vation というプログラムで、義足の技術を応用して、為末大を100m9秒で走らせる板ばねのついた靴の開発を目指す、ということをやっています。

Q: パラリンピックでアメリカとドイツが強いのはなぜですか?
A:為末 一つの理由は軍隊です。戦場でけがをした退役軍人がパラリンピアンに多いので、もともと身体能力が高い。また、彼らをリカバリーする予算がついているので、義足の技術が発展し、福祉の観点でもサポートが充実している、という面もあります。

Q:義足の技術の向上で、意図的な切断は起こり得ますか?
A:遠藤 義足でオリンピックに出場した南アフリカのオスカー・ピストリウスは、生まれつき変形性の足の障害があり、それを切断し義足にしています。誰もがそうなる、ということではないです。例えば、レーシックのように、自分がこうありたいから選べる、という選択肢が求められ、判断力も問われるようになると思います。


Q:人間とテクノロジーの発展の怖さについてお聞きしたい。
A:為末 今はかなりの人に良いことだと言ってもらえていますが、私たちは良いことをしてるのでしょうか。メダリストのDNAを持った子どもを作ることができれば優秀さを選べる時代になるのか?ドーピングをどこまでと定義するのか?科学が発展することで、倫理観との戦いも生まれると思います。

Q:Xiborgの今後の目指すところ、ビジネスモデルは?競技用義足だけではマーケットが狭いと思うのですが。
A:遠藤 人間の身体に対する価値観をあげたい。競技用義足がスーパーカーで、一般義足が自動車というイメージです。
A:為末 パラリンピックがF1ですね。ものづくりのプロトタイプを作る会社であって、量産は考えていない。今のところ2020年までは生きていけそうですが、、、今後のビジネスモデルを描いてくれるビジネスパーソンを我が社では求めています。最後に悩み相談みたいになったところで、終わりの時間ですね(笑)

終わりに


為末さんは「周りを巻き込んで迷惑をかけ、傷だらけになりながらも、結果を出すから、勘弁してくださいというのがベンチャー。今日は現実のどたばたを聞いていただいて、よし、自分もやってみようと思ってくれたらいいなと思って、本音で話しました」と、振り返りました。遠藤さんの「目標に辿り着くまでに地雷原がいっぱいある。辿り着く道を考えながら進むのが人生なのかな」というメッセージが、じんわりと心に残りました。

▼講師からのメッセージや塾生の感想レポートは日本元気塾の「活動記録」をご覧ください!

日本元気塾とは

2009年よりスタートした「日本元気塾(にっぽんげんきじゅく)」は、さまざまな環境で、失敗も成功も経験した講師の生き様や仕事の流儀など、言葉では表せない「暗黙知」を間近で学ぶ社会人向けのプログラムです。
これまで約400名が卒業した日本元気塾の5期は2016年9月~2017年3月に開講しています。遠藤さん、為末さんは、4期でゼミ講師を担当され、今期は全塾生が受講する「共通講義」に日本元気塾ファミリーとしてご登壇いただきました。