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カフェブレイク・ブックトーク『にじみ出る素養~「品格」を問う~』

更新日 : 2008年08月27日 (水)

第6章 何でも好きな本を読むことが教養を深める

澁川雅俊さん

澁川雅俊: しかしそれは短絡です。なぜならば教養の中身はいつも同じではないからです。そのことに関してライブラリーにはまず『「教養」とは何か』(阿部謹也著、1997年講談社現代新書)がありますが、それは中世西洋で「世間」というものがどのように形成されるかに着目し、教養の内容は、時代時代の個人の生き方と同時代的世間とのかかわりで決まってくるとしています。平たくいえば、常識とか、コモンセンスということになります。

最近刊行された『移りゆく「教養」』(苅部直著、07年NTT出版刊)は、それを敷衍させ、現代日本(昭和以降)の人の生き方と世間の形成のかかわりからその内容を捉えようとしています。そして『国家の品格』と同様に、日本的な思考についての再検討の必要性を説いています。

『移りゆく「教養」』
なお『移りゆく「教養」』の著者は、巻末に『世界教養全集〔全34巻・別巻4巻〕』(1960-63年平凡社刊)と『日本教養全集〔全18巻〕』(1974-75年角川書店刊)の書目を掲載しています。ただし彼はそれらを必読書としてではなく、教養と読書について考える資料として掲載しています。しかしこの著者は教養のために何を読むかについてこう書いています。

「……本の読解が、大きな役割を果たすのは、時代が移っても変わることはない。読書はやはり<教養>へとむかう踏み台となり、生涯つづく<教養>の営みと伴走しながら、続けるのにふさわしい営みなのである。しかし……〔その営みは〕書物や、あるいは音楽や映画や漫画〔などいろいろなもの〕にも接しているのが一番なのである」

ところでこのテーマでのブックトークの準備をしている最中、「21世紀の英国紳士とは〔太郎の国際通信〕」(08.5.24東京新聞)というコラムエッセイに出くわしました。それは、かつて紳士とされた品格を示すような人が少なくなった。そこでタイムズ紙は新しい紳士の条件を設定してみたというものです。そのことから品格などが問われているのは日本だけではないということを知ると同時に、私の故郷での訓戒標語「ならぬことはならぬものです」を思い浮かべました。その標語は会津松平藩の祖保科正之が同家に残した遺訓「什の掟」を引くものです。『国家の品格』もこの掟のことに触れていますが、具体的にはこのようなものです。
1. 年長者の言うことに背いてはなりませぬ
2. 年長者には御辞儀をしなければなりませぬ
3. 虚言をいふ事はなりませぬ
4. 卑怯な振舞をしてはなりませぬ
5. 弱い者をいぢめてはなりませぬ
6. 戸外で物を食べてはなりませぬ
7. 戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ。
ならぬことはならぬものです

以上の7カ条のうち第7カ条は合点がいきませんが、他はそういうものだろうと私は思います。しかし、じつはそれら7カ条が大事なのではなく、「ならぬこと」が何かを一人ひとりが身につけることなのです。いまそれが問われているのです。

※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。

「教養」とは何か

阿部 謹也
講談社

移りゆく「教養」

苅部 直
NTT出版