オピニオン・記事

日本元気塾セミナー正義とは何か、真実とは何か?

『おクジラさま~ふたつの正義の物語~』の映画監督と考える

更新日 : 2017年11月14日 (火)

第1章 日本の小さな漁村に押し寄せたグローバリズム

トランプ政権の誕生、イギリスのEU離脱など、世界各地で「グローバリズム/ローカリズム」の対立が鮮明になりつつあります。そうした中、『おクジラさま~ふたつの正義の物語~』(2017年9月公開)という、日本の小さな漁師町で起きた「捕鯨」を巡る対立をとらえたドキュメンタリー映画が注目を集めています。監督を務めた佐々木芽生氏は、この出来事の中に「正義」「真実」「多様性」を考えるための重要なヒントがあると語ります。このトークでは佐々木監督と日本元気塾の米倉誠一郎塾長が、世界が直面している「ダイバーシティの危機」に迫ります。

開催日:2017年8月30日(水)19:00~20:30

ゲストスピーカー:監督・プロデューサー 佐々木 芽生 
モデレーター:日本元気塾塾長 米倉誠一郎

気づきポイント

●映画『おクジラさま』は、数多くの「正義」「真実」が対立する現代社会の“縮図”。
●たとえ受け入れられなくとも、多様な考え方や価値観を“知る”ことが最初の一歩になる。
●排除・拒絶をやめ、「違い」を認め合い、「共通項」に目を向ければ、共存の道は必ず見つかるはず。


監督・プロデューサー 佐々木 芽生


古式捕鯨発祥の地・太地町

米倉誠一郎: 歴史を振り返れば、天動説・地動説をはじめ、科学における「真実」は何度もパラダイム・チェンジが起きており、科学には「真実」がないということが広く認知されています。そして、「正義」や「幸福」といったものも、これが真実だと1つに定義できないものです。それがために、世界では今もなお数多くの争いが起こっています。今回の日本元気塾セミナーは、この難解なテーマに「映画」というユニークな視点から切り込んだ佐々木芽生監督がゲストです。

「答えのない世界」を生きる私達は、今後、誰かに与えられた答えではなく、自分達の力で何らかの答えを見いだし、前に進んでいかなければなりません。より良い未来のために、佐々木監督、そして皆さんと一緒に議論を深めていきたいと思います。

佐々木芽生: 私がアメリカに渡って30年近く経ちますが、海外で生きる日本人にとって「クジラ」は必ず直面する問題です。アメリカでは日常会話の中にしばしば登場し、ニュース番組でも「捕鯨はダメだ」とアナウンスされていました。ちなみに、生物分類上はイルカもクジラと同じ仲間で、2つを分ける明確な基準はなく、一般的に成体として4m以下のものはイルカ、それ以上はクジラと呼ばれています。

なぜ、彼らはここまで強硬に反対するのだろう? そのような疑問を長く抱えていた中、2009年に『ザ・コーヴ』という映画が公開されました。舞台は紀伊半島の南端にある和歌山県太地町(たいじちょう)という、人口約3,000人の小さな漁師町。「古式捕鯨発祥の地」と言われる太地町で400年以上も続けられてきた、捕鯨やイルカ漁を糾弾する映画でした。

古くから日本では貴重なタンパク源としてクジラが食べられていましたが、簡単には捕れないため、最初は座礁した“寄りクジラ”を捕らえたり、沖合で見つけた小さなクジラを捕ったりといった偶発的な漁でした。そうした中、船団を組んでの組織的な捕鯨を初めて行ったのが、太地町の漁師達だったと言われています。

元々、太地町を含む熊野灘沿岸は、複雑なリアス式海岸が続き、背後には急峻な山々が迫っているため、水が得にくく、農作地もほとんどありません。一方、黒潮が流れる熊野灘はクジラやイルカの通り道でした。これらは海の恵みとして崇められ、肉はもちろん、骨や皮、油まで余すところなく利用され、漁の周辺には船大工や鍛冶屋、物流などのビジネスも生まれました。つまり、太地町の人々は生きるためにクジラを捕る道を選んだわけです。ところが、現代の「グローバルスタンダード」に照らせば、それは「非常に残酷で野蛮な行為だ」と言われるようになってしまったのです。

声なき人の声を届けたい


佐々木芽生: 漁では、十数隻の船が鉄缶などを叩いてイルカやクジラが嫌う“音の壁”をつくり、群れを入り江に追い込み、捕獲します。このような漁は日本だけでなく、世界各地でも古くから行われてきましたが、今も伝統的な方式で漁を行うのは太地町を含め、ごくわずか。『ザ・コーヴ』では、追い込んだイルカやクジラを銛で突き刺し、入り江が真っ赤に染まる様子が映し出され、世界中に衝撃を与えました。

私も2009年夏、ニューヨークの映画館でこの映像を観た時、ショックを受けました。それ以上に驚いたのは、隅々まで計算し尽くされた映画だったことです。『オーシャンズ11』のように撮影禁止区域に潜入し、特殊技術を使って撮影するさまがセンセーショナルに描かれており、ストーリーテリングとしても勧善懲悪の流れが完璧にできあがっていました。

ご存じのとおり、ドキュメンタリー映画は社会的影響力が非常に強いもので、巨大な権力による不正や欺まんを追及するといった構図が一般的です。また、低予算で制作されるケースが多いのも特徴です。ところが『ザ・コーヴ』は数億円もの制作費がかけられたそうで、ハリウッドの錚々たるエンジニアや、世界記録を持つダイバーなどが多数参加しています。

そして、彼らのカメラが映し出したのは、日本の片隅で慎ましく暮らす漁師達。映画の中で彼らの声はほとんど聞こえず、完全に一方からの視点だけで描かれており、数々のミスリーディングもあり、ドキュメンタリー映画として何かおかしいと感じました。さらに、この映画がアカデミー賞を受賞した時ですら、日本側から反論が聞こえてこなかった。こうした状況に疑問や違和感、フラストレーションを覚え、映画を撮ろうと思い立ちました。

数多くのリスクを内包したテーマであるため、何度も気持ちが揺らぎました。それでも私自身、長く気になっていたテーマであり、声なき人達の声を伝えたいという思いもあり、最後は「撮らなければ絶対に後悔する」と覚悟を決め、制作を始めました。



該当講座


正義とは何か、真実とは何か?
「おクジラさま- ふたつの正義の物語-」の映画監督と考える
正義とは何か、真実とは何か? 「おクジラさま- ふたつの正義の物語-」の映画監督と考える

佐々木芽生(映画監督)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
紀伊半島の小さな町(太地町)に押し寄せた、クジラを巡る大きな衝突を、単純な捕鯨問題の是非ではなく、「グローバリズム vs ローカリズム」「正義とは、真実とは何か?」など奥深いそして根源的な問題として捉えたドキュメンタリー映画「おクジラさま-ふたつの正義の物語-」の監督と日本元気塾の米倉塾長との対談セミナー。



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