オピニオン・記事

「安藤忠雄:挑戦」

~自らの人生を生きる~

更新日 : 2017年10月17日 (火)

【後編】社会と関わり、面白い人と付き合え


面白い人との仕事は面白い


安藤忠雄氏
安藤は、仕事をするうえで大切なこととして、「夢や想いを共有するチームをつくること」、「味方をつくること」を上げたが、それに加えて、「大きな夢や強い信念を持っている人と長く真摯に付き合うこと」を挙げている。

安藤にとって、森ビルの森稔(故人)もそうした人だ。表参道ヒルズの再開発で、安藤は、超高層派の森にケヤキ並木より低い建物を提案した。森は快諾したが、工事がかなり進んでから、突然、電話があった。「参道だから疎水を流そう」という。「今からではとても無理です」と言ったら、「安藤さん、あなたがそんなことを言っていてはダメだ!」とえらく怒られたという。結局、建物の脇に水路をつくり、水を流した。

表参道ヒルズの再開発自体も不可能と言われていたが、「ありえないことをやりぬいてしまう人だった。その分、まわりは大変だったと思うけれど、私は森さんと話すのが楽しかった」と、回想する。

瀬戸内海の直島をアートの島に変えた、ベネッセ・コーポレーションの福武總一郎氏もそのひとりだ。最初に直島に行ったとき、安藤は「こんなところまで人は来ませんよ」と言ったが、福武氏は「いや、来る」ときっぱり。そして、実現させた。「何かをやり遂げる人は、夢と同時に強い信念をもっている」。安藤自身もそうだから、互いに共鳴し合うのだろう。


ひとりひとり、自分のできることから


米倉誠一郎氏

安藤はずっと社会と深く関わってきた。東日本大震災の遺児を長期に支援する「桃・柿育英会」、瀬戸内海の環境を守る「瀬戸内オリーブ基金」や東京湾の「海の森プロジェクト」等々、多くの社会活動に膨大な時間を割いている。安藤の提案は大胆だが、具体的な数字に裏付けられた現実的な戦略と、自身の広い人脈と行動力で結果を出してきた。だから、そうそうたる人々も協力するのだ。

エピソードをひとつ。2002年、安藤は河合隼雄氏や中坊公平氏らと一緒に、豊島の産業廃棄物を1つのきっかけとして、美しい瀬戸内海を甦らせる活動を始めた。2003年、安藤は総理大臣だった小泉純一郎氏を訪ねる。活動の趣旨を説明し、「一度、豊島に来てください」と頼んだ。

小泉氏は「わかった。2004年の1月8日に行く」と即決した。「自分が現地に出向くことで、環境を守ることの大切さを広く訴えられる」と直感したのだろう。まわりが「正月明けで忙しい1月8日になぜ?」と反対したら、小泉氏はすかさず言った。「私の誕生日だ」(笑)

安藤は、聴衆に「社会と積極的につながっていってほしい」と熱く呼びかける。「ひとりひとりが社会に対して、何ができるかを考え、できることからやっていくことが大切だ」。そうやって皆が助け合いながら、美しい環境を守る。あるいは震災復興を支援する。「これは日本人だからできること。日本が世界に誇るべきことだ」と。

誰も観たことがない展覧会

2017年9月27日〜12月18日、国立新美術館で「安藤忠雄展〜挑戦〜」が開催される。安藤にとっても過去最大規模の個展だ。「これまで誰も観たことがない展覧会にしよう」と、展示のストーリー構成から空間デザインまで自身で手掛けた。

国立新美術館の屋外には、原寸大の「光の教会」(1989年竣工、大阪府茨木市)を再現する。実は1989年に光の教会をつくったとき、安藤は十字架の部分を素通しにしようと思っていた。しかし、「素通しじゃ寒い」と信者も牧師も反対した。「寒いからこそ、心を寄せ合える」と抗弁したが、「それは屁理屈だ」と却下され、渋々ガラスを入れた。

今度の展覧会でやっと夢が叶う。再現した「光の教会」の十字架にガラスは入っていない。「人間、諦めさえしなければ、新しい世界が広がるのだな」と笑う。

展覧会の分厚いカタログは1980円。「誰がみても納得するものにしたい、これなら安いと思うものにしたい」と思ってつくった。「価格以上に価値のある仕事をすれば、皆が納得する。どんな仕事においても同じだ」と語る。

時代の変化も実感している。「展覧会を開く」とネットで世界に発信した途端、世界中から続々と団体で申し込みが入ってきた。フランスから100人、中国から500人、びっくりしていたら、台湾から1500人……。「私たちは今、そういう時代を生きています」。

社会と関わり、面倒くさいことをせよ

最後に、若い世代へのメッセージを求められた安藤は、次のように語った。

「社会と積極的につながっていってほしい。文学や彫刻や絵画や建築など、いろいろなものに興味をもって、そこから学んでほしい。面倒でも自分で足を運び、観て、体験して、自分で考え、行動することが大切だ」。

「新しい世界を拓くのは、元来とても面倒くさいこと。面倒くさいことを回避したら新しい世界には入れない」とも語る。

安藤は、「面倒くさいことや邪魔くさいことを嫌がる人が増えているように感じられる」と言い、「それはとても危ない。私は臓器が5つもない75歳だけれども、これからもいろいろなことに挑戦したり、感動したり、社会の役にたつことをしていきたい。強い想いと諦めない心があれば、何歳でも夢に挑戦できるのだと思います」と、気迫に満ちた口調で語り終えた。(了)


該当講座


「安藤忠雄:挑戦」—自らの人生を生きる
「安藤忠雄:挑戦」—自らの人生を生きる

自由な発想で、難題に対峙してきた挑戦者、安藤忠雄。「建築には生命力がある」「失敗したら次に生かす」「自由と勇気でやり遂げる」と語る安藤氏が、次につくる「建築」はどのようなものなのでしょうか。米倉誠一郎教授をモデレータに、社会に対して建築を通して何ができるかを問い続ける安藤氏の軌跡と、未来に向かう覚悟に迫ります。


関連リンク


「安藤忠雄展—挑戦—」国立新美術館開館10周年
「安藤忠雄展—挑戦—」国立新美術館開館10周年

会期:2017年9月27日(水)~ 12月18日(月)
会場:国立新美術館


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