六本木ヒルズライブラリー

集中・没頭を楽しむ6冊

更新日 : 2025年05月27日 (火)





皆さんは、人間がマルチタスクに向いていない、と科学的に証明されていることをご存知でしょうか?複数のタスクを並行して作業しているようで、実際は頭を都度切り替えているだけだそうです。逆に言えば、私たちの身体は一つのことに集中するように出来ているということ。「無我夢中」の状態こそ、能力を最大限発揮するチャンスなのです。今月ご紹介するのは、そんな集中・没頭の素晴らしさについての6冊。ビジネスシーンに限らず、「シングルタスク」が私たちの人生にもたらす効能を様々な角度からご紹介します。
 

没頭力
「なんかつまらない」を解決する技術
 吉田 尚記 /太田出版 
何かに夢中になっていて時間が過ぎるのも忘れてしまった、という経験は誰しもあることでしょう。しかし、どうすればそれを再現できるのか。
アスリートの世界では「ゾーン」、心理学においては「フロー」と呼ばれるこの「忘我状態」。これを自分の意思で引き出し、コントロールすることが本書の目的です。
アナウンサーである著者は、様々な分野で「フロー」を使いこなす著名人たちにインタビューを行い、心理学の視点もあわせて平易な言葉で解説をしています。単なるスキルとしてではなく、人生を楽しむための「没頭できる体」を作るために、オススメの一冊です。

集中力がすべてを解決する
精神科医が教える「ゾーン」に入る方法
樺沢 紫苑/SBクリエイティブ
SNSの過剰な情報、慢性的な睡眠不足、日々増えていく仕事のタスク……
現代社会は、歴史上最も「気が散る」時代と言っても、過言ではありません。それゆえ、「ゾーン」に入り、集中力を最大限発揮することは大きなアドバンテージになるのです。本書もまた、その「ゾーン」を発揮するための方法をご紹介します。キーワードは「整理」です。インプットもアウトプットも、ただがむしゃらにすれば集中できるというものではありません。「ゾーン」に入るために必要なことは、環境を整え、感情も含めてパフォーマンスをコントロールすること。ゾーンのための準備を通して、あらゆる日々の行動を整理してみてはいかがでしょうか。

ハマりたがる脳
「好き」の科学
トム・ヴァンダービルト/早川書房
夢中になるほど好きなものがある、ということは望ましいことですが、ふと疑問に思うことはないでしょうか。なぜ、いつから、どのようにして、自分はそれを好きになったのか?本当にそれは好きになるべきものなのか?と。
人間が誰しも持っている「没頭力」は、時として落とし穴になります。なぜなら、我々は予想もつかないほど周囲の環境や誤解によって「好き」を決めてしまうからです。
本書は脳科学の知見や、Netflixなど人の嗜好をアルゴリズムとして操る情報技術の研究をもとに、「好き」をとことん解剖します。「没頭」する前に、ぜひ一度その向かう先にある「好き」を吟味してみませんか?

「推し」の科学
プロジェクション・サイエンスとは何か
久保(川合) 南海子/集英社
アイドルや二次元のキャラクターに元気をもらったり、漫画やアニメの美しい世界に感動したり、我々は日常的にフィクションと接し、それを「推し」ていますが、それもまた一つの「没頭」と言えるでしょう。この「推し」という概念、認知科学では「プロジェクション」と呼び、人間の知性の核をなすものとして、近年研究が盛んになっています。
「推し」のために発揮される行動力、好きなものを通じて形成されるコミュニティ、そして認識世界の変化……何かに夢中になることがもたらす様々な効能を、本書は「推し」というごく身近な例と共に紐解きます。「推し」がいる方はもちろん、いない方もきっと何かを「推し」たくなること間違いなしの一冊です。

脳マネジメント
脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術
秋間 早苗/クロスメディア・パブリッシング
VUCA——これは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり、予測不可能な現代を表した言葉ですが、コロナや世界各地の紛争を経て、ますます実感をともなったものになっていることは間違いありません。
本書はそんなVUCA時代で生き抜くための秘訣が満載の一冊。重要なのは、脳が一つの臓器として様々な偏りや暴走があると認識すること。そして、意識的に脳をマネジメントしなければならない、という視点を持つことです。人間が集中・没頭して、最大限のパフォーマンスを発揮するためには、日々の小さな行動の積み重ねを通して、「脳を変えていく」必要があると本書は語ります。
 

もこ もこもこ
谷川 俊太郎・作、元永 定正・絵/文研出版
「しーん もこ もこもこ にょき……」
昨年逝去された詩人・谷川俊太郎と画家・元永定正によってつくられたこの絵本は、小さな子供でも分かる擬音語と不可思議でユーモラスな色と形によって構成され、長年にわたり多くの読者に愛されてきました。
時に、子供は信じられないほどの集中力で、一つの絵本に入り込み、それを何度も繰り返し楽しみます。それは言葉や絵を通して世界に触れようとする純粋な「没頭力」と言えるのではないでしょうか。大人になった今絵本に触れることは、当時の感覚を取り戻し、誰もが持っていた「没頭力」を蘇らせるきっかけになるはずです。

「集中力がある」あるいは「何か一つのことに没頭できる」、そういった表現をするとき、私たちはつい「才能」や「適性」という言葉と結びつけてしまいます。しかし、実際のところ、「集中力」は訓練で身についたり、テクニックで再現性を高めることもできる技術でもあるのです。そしてこの技術は人生を豊かに、より実りのあるものに変える特別な力を持っています。今回ご紹介した6冊を通して、自分の「好き」や「推し」を見つめなおし、自らを「フロー」に導く技をぜひ自分のものにしてみてはいかがでしょうか。
 

没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術

吉田尚記
太田出版

集中力がすべてを解決する 精神科医が教える「ゾーン」に入る方法

樺沢紫苑
SBクリエイティブ

ハマりたがる脳 「好き」の科学

トム・ヴァンダービルト
早川書房

「推し」の科学—プロジェクション・サイエンスとは何か

久保(川合)南海子
集英社

脳マネジメント 脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術

秋間早苗
クロスメディア・パブリッシング

もこ もこもこ

谷川俊太郎/作, 元永定正/絵
文研出版