六本木ヒルズライブラリー
ライブラリアンの書評 2021年10月
毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?
150人が語り、150人が聞いた「東京」の姿。できたらまずみなさまには、この本を目撃してほしい。そして手に取り、ずしりと手首に響く重さを体感してほしい。生の語りから立ち上がる、手触りを持った東京の風景がそこにはある。
写真集などで昔の東京を見ることはあるけれど、市井の人の語りは、それ以上に当時を甦らせる。以前は何もなく、ただの広場で子供の格好の遊び場だったところなど、私自身が見たわけではないが、かつて確実にそこにはあった。
それが語り手の口調も言い回しもそのまま、飾りのない言葉だからこそ、実感を持って立ち上がってくる。まるで東京が、ジグソーパズルのピースがひとつひとつはまるみたいに、姿を見せてくる。
語り手は、語りながら自分の人生を棚卸しする。振り返り、その時に思ったことを語りながら、語りに導かれて急に記憶が掘り起こされたりする。イメージとしての東京、実生活を通しての東京、現実の東京、幻想の東京、自分自身として生きていくことでしか知り得ない東京が、そこにはある。
もしかしたら今日すれ違った人の語りがこの本にはあるかもしれない。その語りを読み続けていたくなる。日々姿を変え続ける、完成を見ない東京の重さが、本書にはある。
(ライブラリアン:結縄 久俊)
東京の生活史
岸 政彦【編】筑摩書房
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