六本木ヒルズライブラリー

様々な困難を乗り越え、共に生きた夫妻の「愛が架ける橋」

平松 隆円さんの『メレル・ヴォーリズと一柳満喜子』

 ライブラリーメンバーの平松隆円さんは、「化粧研究」という世界でも類をみない研究分野を通して、日本人のよそおいのあり方を日々研究されています。そんな平松さんから、この度『メレル・ヴォーリズと一柳満喜子』という本が届きました。
 建築家・実業家として活躍し、のちに「天皇を守ったアメリカ人」と称されるヴォーリズ。そして現在の近江兄弟社学園の礎を築いた満喜子。これまで全く知られてこなかった二人の関係に、本書は迫っています。数々の社会貢献事業に携わり、世界との「愛の架け橋」となろうとした夫妻の生涯を描くノンフィクション。ぜひライブラリーの書棚でご覧ください。

メレル・ヴォーリズと一柳満喜子


 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(一柳米来留)は、キリスト教伝道のため1905年に来日しました。東京YMCA同盟から、外国人教師を求めていた滋賀県立商業学校(滋賀県立八幡商業高校)の英語教師として派遣されたメレルは、バイブルクラスを開き生徒たちにキリスト教を教えました。残念ながら、様々な問題により英語教師の職を解雇されますが、全国で教会や学校、ホテルなど1600件にものぼる建物を設計する建築家として日本に留まりました。代表的なものに、明治学院大学、同志社大学、関西学院大学、山の上ホテルなどがあります。その活動分野は建築にとどまらず、サナトリアムやメンソレータム(メンターム)などの社会事業までおよびます。また、太平洋戦争終戦後は、ダグラス・マッカーサーと近衛文麿との仲介工作に尽力したことから、「天皇を守ったアメリカ人」とも称されています。


満喜子とヴォーリズ
 一柳満喜子は、一柳末徳子爵の娘として生まれ、神戸女学院や米国ブリンマーカレッジで学びました。そして、津田梅子の後継として女子英学塾(津田塾大学)に請われるものの固辞し、1919年にメレルと結婚します。当時、外国人と子爵令嬢の結婚は難しく、兄恵三の義母である広岡浅子の助けのもと、なんとか結婚することができました。広岡浅子は、広岡財閥(加島銀行、大同生命、尼崎紡績会社:ユニチカ)の運営に大きく関わり、また成瀬仁蔵と共に日本女子大学の設立に尽力した人物です。結婚後、満喜子は「三つ子の魂百まで」の思いのもと、3歳児からの3年保育の清友園幼稚園を開きました。これは、現在の近江兄弟社学園の礎となります。また戦時中は、軽井沢幼稚園や啓明学園などの教育にも関係します。


義宮殿下(現・常陸宮)とヴォーリズ
 メレルについては、近年の「ヴォーリズ建築」の関心の高さから、いくつかの書物が刊行されています。ですが、親交のあった賀川豊彦ですら満喜子について「聡明」とだけ語るのみで、満喜子自身について、またメレルと満喜子の関係については、これまで全く知られてきませんでした。  なぜ一人のアメリカ人が、これほどまでに「成功」することができたのか。真の国際人とは、キリスト教に支えられた人間教育とはいったい何なのか。本書は、数々の逆境を乗り越え近江八幡でのミッションを通し世界との「愛の架け橋」となろうとしたキリスト者夫妻の生涯を描くノンフィクションです。

平松 隆円さん(国際日本文化研究センター講師/京都大学中核機関研究員)


 1980年、滋賀県生まれ。世界でも類をみない化粧研究で、博士(教育学)の学位を取得。専門は、化粧心理学や化粧文化論など、よそおいに関する研究で日本文化を解き明かしている。

平松隆円さんの関連書籍

メレル・ヴォーリズと一柳満喜子—愛が架ける橋

グレイス・フレッチャー【著】,平松隆円【監訳】
水曜社

化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか

平松 隆円
水曜社


性欲の文化史 2

井上章一【編】 梅川純代 申昌浩 劉建輝 原田信男 平松隆円 田中貴子 松田さおり【著】
講談社

幸田露伴の世界

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思文閣出版