六本木ヒルズライブラリー

「人が集まる」新しい都市生活の形とは? ~環境先進都市・米国ポートランドより

吹田 良平さんの『グリーンネイバーフッド』

「全米で最も環境に優しい都市」と謳われる、オレゴン州ポートランド。そこには私たちが今まで出合ったことのない、新しい都市生活像があります。経済の縮小・質の充実が求められる「環境共生時代」において、郊外庭付き一軒家よりも、都心に住むことを選ぶ居住者たち。身の丈主義ともいえる独特なライフスタイルと、自立しながら連携する風通しの良いコミュニティ感覚。「消費や所有を越えたところの何かを楽しむ暮らし、という価値観があるような気がしてならない。」というライブラリーメンバーの吹田良平さんの近著をご紹介します。

GREEN Neighborhood


GREEN Neighborhood
ポートランドは、都市成長境界線(Urban Growth Boundary)という土地利用計画法により、開発地域は都市に集中させ、郊外の緑地はそのまま保全するという、「コンパクトシティ」の形を実現しています。
「徒歩20分圏内の街」を目標に掲げ、その結果、市の人口は29%増、公共交通機関の利用は80%増、自動車利用時間は33%減(いずれも2005年:1990年比)を達成したという報告もあります。
それはつまり、「都市か自然か」ではなく、「都市も自然も」というライフスタイルです。
・職場と住居がすぐ近くにある(全米で最も自転車通勤に適した都市)
・都市部からの容易なアクセスで様々なアウトドア体験ができる
(「ナイキ」や「コロンビア」などのスポーツ&アウトドアブランド発祥の地)
・近隣で採れた旬の食材が、新鮮なままテーブルに並ぶ
 (全米で最も外食目的で出かける価値のある都市)

ポートランドとはいかなる場所なのか。
本書では以下の3つの切り口でそれを明らかにしています。
●アーバンネイバーフッド
郊外ベッドタウンに替わる都心居住者の近隣関係とは。職住近接、アイディアとハプニングの震源地としての都市の姿。
●クリエイティブシンカー
常識や慣習を疑う度量と、領域を越えてアイディアをつなぐ技能を併せもつ者たち。
●エコエピキュリアン
都市同様に自然を好み、都市をベースに全体性(グローバル)を想像できる、舌の肥えた悦楽者たち。

本文中の次の言葉にあるように、多様性が多様性を呼び、そこに情報と人が集まります。
 「都市の多様性は、それ自体さらに多様性を増すことを可能にし、それをさらに増進させる」(ジェーン・ジェイコブス)
 「情報は情報を誘導する」(松岡正剛)
 「人は人のいるところにあつまってくる」(浜野安宏)

『グリ-ンネイバ-フッド』は、環境先進都市・ポートランドの姿を通して、都市と人、人と都市について改めて深く考える機会を与えてくれる1冊です。

吹田 良平さん (株式会社 アーキネティクス取締役)


1963年生まれ。大学卒業後、浜野総合研究所を経て現職。商業開発、都市開発の構想策定を中心に、関連する内容の出版物編集•執筆も行なう。
主な実績に、渋谷Q FRONT開発、商業開発専門誌「ZEROHOUR」編集制作、「北仲 BRICK&WHIT experience」編集制作、「日本ショッピングセンターハンドブック」(商業界)共著等がある。2010年8月末、「グリーンネイバーフッド 〜米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた」(繊研新聞社)を上梓。

関連書籍

グリ−ンネイバ−フッド — 米国ポ−トランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた

グリ−ンネイバ−フッド — 米国ポ−トランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた

吹田良平
繊研新聞社