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『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年03月06日 (木)

第11章 人口衰弱を回避する方策とは

講演風景(2)

 
会場からの質問: 人口衰弱に関して、オーストラリアやドイツやフランスのように、移民を受け入れるという対応も考えられます。もちろん、メリットもデメリットもあると思いますが。

船橋洋一: 移民については、私は全面的に賛成です。ただし、そのためには教育、税制、雇用、コミュニケーションなど、日本の社会のあり方を大きく変えていく必要があります。円も強くなければダメです。円安では、優秀なスキルを持つ移民は来てくれません。国のあり方を作り直すという覚悟で新しい体制作りを行っていく必要があります。大変な作業ですが、そうした方向も真剣に議論していく時期に来ていると思います。

会場からの質問: 若い世代がリーダーシップを発揮したとしても、結局は“シルバー民主主義”の圧力に負けてしまうという現状があります。これを解決する方法としては、どのようなものが考えられますか?

竹内幹: たとえば、選挙制度を変えることです。現在の選挙制度は、地方ごとに代表者を選出しています。この仕組みは、高度経済成長の時代には意味がありました。「国土の均衡ある発展」というスローガンのもと、経済成長の恩恵を全国に行き渡らせるため、地方の代表者が選出されていました。バブル崩壊以降は、いわゆるハコモノ偏重の弊害が目立つようになりましたが。現在はどの地方でも、選出されるのは「地方の高齢者代表」です。若者代表を送り込む余地がないのです。私が提唱しているのは、世代別選挙区制・余命別選挙制度です。

世代別選挙区制は、井堀利宏・東京大学教授が提唱したものです。たとえば、仮想的に20~30代の「青年区」、40~50代の「中年区」、60代以上の「老年区」といった選挙区を全国に配置し、各世代の支持を集めた代表者を選出します。各世代の人口比に応じて議席数を振り分けるため、投票率に左右されない形で各世代の代表を国会に送り込めるようになります。

余命別選挙制度は私のオリジナルですが、余命に応じて1票の重さを変え、若い世代ほど多くの議員を選ぶことができる、というものです。各世代選挙区に、その世代の平均余命に応じて議席(議員数)を配分し、投票権と余命をリンクさせるわけです。たとえば、平均寿命を80年とした場合、現在25歳の人の平均余命は55年、55歳の人は25年。若い世代は約2倍です。そこで、若い世代の選挙区は、獲得できる議席を中高年世代の選挙区の2倍にする。移行期を除けば、生まれた年にかかわらず、どの人も生涯を通じて同じだけの投票力を持つため、生涯を通じてみれば、一票の格差は生じません。現在の社会では、世代ごとに利害が複雑に絡まり合っています。余命別選挙制度は、世代ごとの利害を“見える化”するという意味でも、一度試してみる価値はあると思います。

会場からの質問: 情報バイアスのチェック機能についてガイドラインをまとめるのは、知識と経験、実際の状況を想像する能力が必要になるため、非常に難しいと感じています。ガイドラインをつくる際は、どのような点に着目すればよいのでしょうか?

塩崎彰久: 最も避けなければならないのは、誰かが直接リーダーにだけ重要情報を耳打ちしてしまうこと。そうなれば、バイアスのチェック機能が働かなくなります。情報は、AとBを別々に見ていては分からなくても、それらを一緒に並べて見ると危機だと分かることもあります。したがって、情報を受け取る人をリーダーとせず、集められた情報は必ず一度、クロスファンクショナルなフェーズを設けて共有する。そして、複数の情報を統合した上で、リーダーを交えてバイアスの分析を行うようにしてください。

情報バイアスについては、情報伝達の低層化も重要です。これについては、福島原発事故が参考になります。事故発生当初、福島からの情報は、東電本店、政府の統合対策本部の保安員を経て官邸に入り、菅総理のもとに届いていました。4~5層のチェック(バイアス)が入り、情報伝達が遅れ、あるいは情報が正確に伝えられず、結果として情報共有が遅れていました。これが解消されたのは、3月15日でした。菅総理が東電本店に乗り込み、そこに対策本部を作りました。こうすることで、福島から1層で情報が伝わるようになり、情報共有のスピードが上がりました。


関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長 慶應義塾大学特別招聘教授)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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