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アイデアを形にする一点突破のプロフェッショナル in 日本元気塾

Toksy、prayforjapan.jpを生み出した次世代クリエイターに迫る

日本元気塾オンラインビジネスキャリア・人
更新日 : 2012年02月23日 (木)

第3章 物を送って「はい終わり」では、人と人をつなぐ意味がない

山下博巨氏

山下博巨: なぜToksyをつくろうと思ったのかというと——僕は大阪出身で、中学生のときに阪神・淡路大震災を経験しました。でも自分の周りは少し物が倒れたくらいで何か困るということはなく、「テレビのニュースでいつもやっているな」程度の意識で、中学生の自分には何もできませんでした。

3.11のときは横浜に住んでいました。今回も揺れたけれど、直接的な被害はなかったというのが状況的に阪神・淡路大震災のときと似ていて、「中学生のときは何もできなかった。大人になっても何もやらないのか?」と思ったんです。それで自分でできることを考えたら、僕はエンジニアなので技術を使って何かできるんじゃないかと。

僕は以前勤めていた会社で、個人間で物をシェアするwebサービスのエンジニアをやっていました。そのサービスは既に終了していたのですが、支援物資を送るのに役立つと思い、代表者に連絡して「サービスを復活させましょう」と話を持ちかけました。すると「会社で判断して終了したサービスなので簡単には復活できない」ということでした。でも「サービスのモデルは流用していい。応援する」と言ってもらえたので、僕個人でつくることにしたんです。

システムをつくりつつ、自分の会社で「こんなサービスをつくっているんですけど、会社でやってみますか? 僕個人でやってもいいですけど」と話しました。そのとき「マネタイズは難しい」とはっきり言いました。前の会社のサービスで経験していましたから。

それでも「会社でやってみよう」ということになりました。でもコストはかけられないのでいろいろ工夫しました。例えば、ランニング・コストで一番かかるのが問い合わせに答える人件費になるので、Q&Aは支援物資と同じように、ユーザー同士で助け合えるようにしました。使い方がわからない人が掲示板で質問すれば、ほかの人が教えてあげられるようにしたんです。

これはコスト面だけでなく、こだわりでもありました。物だけじゃなくて感謝で人をつなぎたいということに思い入れがあったので、単に物を送って「はい、さようなら」では人と人をつなぐ意味がないと思ったんです。だから物を送る人は被災者に「何が必要ですか?」と声を掛けることができ、物資を送られた人は「ありがとう」とメッセージを送れるようにしました。

ほかにもいろいろこだわりました。その1つが携帯電話でも使えるということです。被災地はインフラがめちゃくちゃになってPCが使えない状況でしたので、携帯電話は絶対に外せないと思い、開発の初めからシステムに入れ込みました。

非機能要件については、プロのエンジニアとしてこだわりました。性能や冗長化はもちろん、ローンチ後にマスメディアで紹介されて一気にアクセスがきてもダウンしないように、最初から対策を講じました。セキュリティも完璧です。類似サイトは掲示板形式が多く、中には「こういう物が必要です。家族構成はこうで、住所と電話番号は~」と全部書かれているものもありました。これだと地震直後にみんなが善意で動いている間はいいけど、長くは続かないと感じたので、Toksyでは、第三者が個人情報を見られないようにし、暗号化もちゃんと施しました。

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関連書籍

『PRAY FOR JAPAN ‐3.11世界中が祈りはじめた日』(講談社/prayforjapan.jp編集)

prayforjapan.jp
講談社


該当講座

未来をつくるイノベーションシリーズ  
第2回 アイデアを形にする一点突破のプロフェッショナル
山下博巨 (株式会社オンザボード最高情報責任者)
鶴田浩之 (株式会社Labit代表取締役 / 慶應義塾大学環境情報学部在籍中)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

山下博巨(株式会社オンザボード最高情報責任者)、鶴田浩之(株式会社Labit代表取締役)
米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター長・教授) 
『Toksy』『prayforjapan.jp』、3.11東日本大震災後に立ち上がった2つの「日本を元気にする」WEBサービスの、生みの親である二人をゲストにお招きします。「技術力」という強い武器をもつお二人の、プロデューサー的視点、周りを巻き込むリーダーシップ、プロジェクトの進め方や、人の役に立つモノづくりへのこだわりを通じて、自分自身の強みをどう生かしたら「アイデアを形にする」ことができるのか考えていきます。


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