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伝統と現代の融和を求める旅

日本元気塾セミナー in 根津美術館
館長・根津公一×建築家・隈研吾×日本元気塾塾長・米倉誠一郎

日本元気塾建築・デザイン文化
更新日 : 2010年11月15日 (月)

第9章 日本文化に触れる大切さと、語る難しさ

内田和成氏

会場からの質問: 世界に出れば出るほど、自分の国をどれだけ知っているかが大切になってくると思います。けれど文化を維持するにはお金がかかりますし、今のような経済状況では、特に若い方が日本文化に触れる機会が少なくなっているのではないかと心配です。こうした状況の中で、日本文化に触れる大切さをどう感じていらっしゃるか、それから、日本文化に触れていない若い方々にどのような言葉をおかけになるか、お聞かせいただけますか。

根津公一: 根津美術館では地域のコミュニティに開かれた美術館にしようと、中学生以下は無料にしたり、近くの小学校にはご案内を出して、来ていただければいつでも必ずオープンするようにしております。

しかしながら、やはり親御さんの責任というのもございます。私などは小さいころから美術品がそばにあったので興味もったのですが、親御さんがしょっちゅうお子さんを連れて日本文化のよさを見せたり、お茶などをかじってみたりすることが大事だと思います。

隈研吾: 僕は学生に対してなるべく手を使って物をつくらせるようにしています。というのは、今、建築の学生がコンピュータの中だけでいじくって、一切考えなくなっているんです。コンピュータでのシミュレーションが、実際、物になるとどうなるか、ベニヤを切ったりして工作させるのです。すると、いかに物をつくるというのが難しいかがわかります。その難しさを教えることですね。

米倉誠一郎: こういうことには本当にお金かかるので、やはり国家としての意志がないと多分だめになっていくのだろうと思います。ただ、国のせいにしていてもしょうがないんです。大事なのは我々が考えて、自分で考えて行動すること。

じゃあどうすればいいかというと、なかなか答えるのは難しいのですが、例えば自分の小遣いの7%は日本の文化に役立つことに使おうとか、一人ひとりが意志を持って自分の予算を振り分けていくということかもしれません。小さなことかもしれませんが、月に1回美術館に行こうとか。そういう意志で積み上げていくというのは素敵じゃないですか。

根津公一: 最後に1つ、大事な話をさせてください。根津美術館を外国人に説明すると、こう言われてしまうのです。「えっ? ここには中国や朝鮮のものが置いてあるんじゃないですか。日本独自のものって何ですか?」と。日本の美術館といっても収蔵品は中国のものが多いのです。だから「これは中国のものじゃないか」と言われてしまうのです。そこが一番の悩みどころでした。

ハッと気づいたのは、日本の文化というのは中国の文化を取り入れて昇華したものだということは認めなきゃいけないのです。アメリカやフランスの文化も、ローマ帝国のギリシア文化が基本です。だから皆さん、外国の方に説明するときには「我々には中国という先生がいたけれど、その美術をきちんと残して昇華した。そうして今の我々の文化ができた」と、自信を持ってお話ししていただきたいと思います。

米倉誠一郎: 皆さん、ぜひこうした活力と想いをより多くの方に伝えていってください。きょうはありがとうございました。(終)
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~館長・根津公一×建築家・隈研吾VS米倉誠一郎 新創事業の全貌を語る~

日本元気塾セミナー in 根津美術館
伝統と現代の融和を求める旅
根津公一 (根津美術館 理事長兼館長)
隈研吾 (建築家)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

3年半に及ぶ休館を経て2009年10月に新創オープンした根津美術館に、日本元気塾塾長・米倉誠一郎氏と実際に訪れるフィールドワークセッション。 昭和16年(1941)、初代根津嘉一郎氏の遺志によって南青山に開館し、国宝7件、重要文化財87件、重要美術品96件を含む、約7千件の日本・東洋の古美術品によ....


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