記事・レポート
新書本—軽装な冊子が森羅万象を映す
ブームの理由から“おすすめの新書本”をすすめる新書本まで
更新日 : 2010年03月29日
(月)
第5章 新書本による読書のすすめ
澁川雅俊: 新書本読書という言い方が確立しているかどうか知りませんが、新書を素材として教養的読書を展開するという人たちがいます。そういう経験に基づいて書かれた新書本による読書のすすめが何点かあります。次にそれらを紹介します。『新書百冊』(坪内祐三、03年新潮新書)、『いまどきの新書』(永江朗、04年原書房)、『新書365冊』(宮崎哲弥、06年朝日新書)などがそうです。
坪内は少年だった頃の読書環境(家にあった新書本の存在)の影響で、新書読書が習慣となったようです。ここで挙げられている100冊(岩波新書、中公新書、講談社現代新書の中の)は評論家として脳裡にいまも強烈に残っているものであると彼は言っています。したがって何らかの規準で選ばれた“スタンダード”(標準もの)とは違い、どちらかといえば新書読書の履歴の一つと言っていいでしょう。
それに対して永江のは典型的なガイドブックで、いろいろなシリーズの中から「いまを読み解く」ツールとなる本(115点)を選び、書評を加え、さらに各新書本の類書3点を他の新書シリーズの中から選んで示しています。ですから全体で345点が紹介されていることになります。
坪内も永江も出版関係者ですが、宮崎は政治、経済、社会、文化と何でもこなす評論家で、仕事柄さまざまなメディアを通じて今日的情報を仕込む必要があり、毎月60~100点(一日2~3点)の新書本を読み切るといわれている人です。『新書365冊』では、標題通り365冊の新書本が挙げられているわけですが、永江のそれとは違うスタンスでまとめられています。
それは彼にとって必要な情報が得られた最良のものと適正なものの判断をそれぞれ“best”と“better”で示し、さらに余裕があれば読んでみればという関連書を“more”と表記して推薦しています。またこれはこの種のガイドブックでは滅多にないことですが、「問題な新書」という見出しの下で、“worst”本を特定しています。
以上は、それぞれのスタンスでまとめられた三者三様の〈新書読書のすすめ〉本なのですが、独自の観点からまとめた坪内のものは別にしても、“いまを読み解く”という観点でまとめられた永江と宮崎のものの賞味期間はせいぜい5年ぐらいで、7~10年も経つと内容的に古くなってしまうという難点があります。
しかしこの手のガイドブックはまた新しく出されるので、それはそのときのことです。
記事をシェアする
ブログに書く
この記事のURLはこちら。
http://www.academyhills.com/note/opinion/10022405NewBook.html
新書本—軽装な冊子が森羅万象を映す インデックス
-
第1章 新書ブーム
2010年02月24日 (水)
-
第2章 なぜ〈新書本〉なのか
2010年03月04日 (木)
-
第3章 手軽な啓蒙書としての新書本
2010年03月12日 (金)
-
第4章 新書シリーズのランキング
2010年03月19日 (金)
-
第5章 新書本による読書のすすめ
2010年03月29日 (月)
-
第6章 森羅万象を掌握する図書目録
2010年04月05日 (月)
-
第7章「書物の世界を掌握する装置」としての目録
2010年04月13日 (火)
-
第8章 全新書本の書誌データベース
2010年04月19日 (月)
注目の記事
-
04月18日 (木) 更新
【重要】「アカデミーヒルズ」閉館のお知らせ
「アカデミーヒルズ」は、2024年6月30日をもって閉館させていただくこととなりました。これまでのご利用ありがとうございました。閉館までの間....
-
03月26日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一による、六本木ヒルズライブラリーのための選書書棚「動的書房」。2024年3月に新たに21冊が並びまし....
-
03月26日 (火) 更新
本には、人生を変え、時代を創るパワーがある!
2023年4月から2024年2月まで全6回で開催したシリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」。モデレーターの干場弓子さんと何度も企画会....
シリーズ編集者の視点〜時代を共に創る〜 <編集後記>
現在募集中のイベント
-
開催日 : 06月02日 (日) 15:00~17:00
メンバーズ・コミュニティ「天空のマップ・カフェ」コラボ企画
「天空のマップ・カフェ」最終回は、日本地図学会 地図史・地図アーカイブ専門部会の協力のもと、ゲストスピーカーに沖縄県立芸術大学名誉教授の安里....
「古地図で読み解く首里と那覇」
-
開催日 : 06月07日 (金) 19:00~20:30
日本に「DE&I」を広げるための私のアクション
日本において多様性の重要性は広く認識され、組織におけるダイバーシティ・エクイティ・アンド・インクルージョン(DE&I)という言葉も普....
-
開催日 : 06月06日 (木) 19:00~20:30
【最終回】カーティス先生と語り合いましょう!
カーティス教授の政治シリーズ最終回。1964年に初めて来日したカーティス先生は、米国そして日本国内という2つの視点で日本の政治を見続けてきま....