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本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2025年8月~

更新日 : 2025年08月25日 (月)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論 』、『つながりのことば学』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











なぜ社会は変わるのか
はじめての社会運動論
富永 京子 / 講談社


「社会運動」と聞いたとき、どんなことが思い浮かぶでしょうか。一般的には、デモや署名活動、SNSでのハッシュタグ・キャンペーンなどを連想する人が多いかもしれません。それらを身近に感じる人もいれば、少し距離を置きたいと思う人もいるでしょう。

本書は、社会運動への参加を促したり、成功の方法を指南したりする本ではなく、社会運動そのものを研究対象とする「社会運動論」の入門書です。1960年代に学問分野として確立してから2000年代までの約40年間に生まれた理論を、各時代の社会運動とあわせて紹介していきます。

環境保護運動、ジェンダー平等運動、政策への反対運動などの多様な社会運動が存在しますが、社会運動論を通して見ると、問題提起に賛成か/反対か、参加するか/しないかという軸ではなく、「誰が、なぜ、どのように運動を起こすのか」という別の視点から捉えることができるようになります。

黎明期には、社会への怒りや不満を背景とした運動や、政治的な運動のみを社会運動とみなしていた社会運動論も、現在では、家庭や職場や地域などでの日常的な小さな実践までを社会運動とみなす考え方が主流になっているそう。身近な出来事を社会運動論のレンズで眺めてみると、社会の中に潜む小さな声や変化をとらえるきっかけになるかもしれません。

 

目標という幻想 
未知なる成果をもたらす、<オープンエンド>なアプローチ
ケネス・スタンリー、ジョエル・リーマン / ビー・エヌ・エヌ新社 
「最高の目標を達成するためには、その目標そのものを手放すことも必要であるーーそんな禅問答のような洞察について、真正面から分析を試みた本書。書かれたきっかけは、AI開発のリサーチにおいて得られた、明確な目標がなくても素晴らしい成果をあげることができる、という実験結果でした。著者はこの発見を出発点に、研究やビジネスなど、より幅広い分野にも応用できるのではないかと論じています。「大きな成果を上げるには、大きな目標を持つことが重要だ」という考え方は、一見とても自然に見えますが、果たして本当にそうなのか。そもそも、いつから当たり前のように信じられるようになったのか。前提を問い直し、従来の常識を揺さぶる興味深い一冊です。
 

ミュージックシティで暮らそう
音楽エコシステムと新たな都市政策
シェイン・シャピロ/ 黒鳥社
 音楽をテーマにした都市政策について書かれた、とても珍しい本。都市や地域の生活を、文化的にも経済的にも豊かにするトリガーとして音楽を政策的に活用してみよう、という提案の書です。著者は、音楽都市政策のコンサルティング会社「Sound Diplomacy」を立ち上げたシェイン・シャピロ。世界各地で、音楽を手がかりに都市の課題を解決する活動をしてきた人物です。本書では、彼が提案する「ミュージックシティ」がどのように実現できるのか、その考え方と具体的な実践が紹介されています。音楽好きの方はもちろん、まちづくりや都市計画に関心のある方にもおすすめです。
 

NHK出版 学びのきほん つながりのことば学
齋藤 陽道 / NHK出版 
耳が聞こえない写真家・齋藤陽道が「ことば」について書いた本。本書の中で、著者は「言葉」と「ことば」を使い分けます。「言葉」は手話も含めたコミュニケーションツールとして、「ことば」は、その奥にある個々の表現したい、伝えたい心の声のようなものとして。読んでいるうちに、自分が言葉を「言葉」としてしか用いておらず、「ことば」を聴き、伝えることが疎かになっている可能性に気づかされます。音声言語が使われない世界で生きる著者の「ことば」を通じて、人と人のコミュニケーションの豊かな多様性が見えてきます。 
 

相談するってむずかしい
青山 ゆみこ、細川 貂々 / 集英社 
人一倍周囲に気を遣い立ち振る舞いすぎてしまう編集者・ライターの青山ゆみこと、子供の頃から周りの空気が読めず、48歳で発達障害を抱えていたことを知った漫画家の細川貂々。正反対の二人ですが、ひつと共通点がありました。それは「ひとに相談できないこと」。青山さんは文章で、細川さんは漫画で、それぞれの個人的な体験をつづります。また、幕間のコラムではオープンダイアローグや当事者研究など、二人が実践してきた話す/聞く手法も紹介されています。メンタルヘルスの問題は当事者だけにとどまらないもの。自分は困ってないけどな、と感じる方にも手に取ってほしい一冊です。
 

忙しい人のための美術館の歩き方
ちいさな美術館の学芸員 / 筑摩書房 
東京都内の美術館で学芸員として勤務しながら大学で教鞭をとっている著者が、「note」で自主的に書いているコラムを元にした一冊。本書は、美術作品の鑑賞方法や作品そのものの解説を行うのではなく、「美術館とは何か」「美術館に行くとはどういうことか」という問いを投げかける内容になっています。現代は「コスパ」や「タイパ」が重視され、アートにも効率性や実用性が求められる時代。美術館と人々の関わりを時代を追って振り返りながら、今という時代に美術館に行く意味やその役割を、鑑賞者と運営者の両方の目線から考えていきます。
 

都市と路上の再編集
LIVE NOW DEVELOPMENT
株式会社Huuuu/くいしん株式会社(編)/ 風旅出版 
長野を拠点に、ウェブメディアから紙媒体、さらには場づくりまで幅広く手がける編集チーム「Huuuu」。47都道府県のローカルな実践者たちへ取材し、プロジェクトでも協働を重ねてきた彼らは、近年では大手不動産デベロッパーや鉄道会社との取り組みも増えているといいます。そうした背景から生まれた本書は、「トップダウンの都市開発」と「ボトムアップのまちづくり」を掛け合わせ、再編集することが目指されたインタビュー集。これまで対立的に語られることが多かった二者が手を取り合ったとき、どんな新しい場が生まれるのか。これからの都市での実践に大きな期待を抱かせてくれる一冊です。
 

AIは私たちの学び方をどう変えるのか
サルマン・カーン / 東洋館出版社 
「世界中に質の高い教育を無償で提供する」ことをミッションに、無料オンライン学習プラットフォームを運営するカーン・アカデミー創業者が、AIが教育にもたらす変化と影響について語った一冊。作中では、ChatGPTを活用して開発されたAIチューター「カンミーゴ」の活用例が随所で紹介され、その機能や使われ方がわかりやすく説明されています。カンミーゴは万能の知性のようにではなく、学習者に的確な質問を投げかけて自分で考えることを促すパートナーのように振る舞います。AIにはまだ未知の側面が多く慎重な導入が求められますが、本書の実装事例は、教育分野に限らず有益な示唆となるでしょう。
 

「わかってもらう」ということ
他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方
川添 愛 / KADOKAWA 
自然原言語処理を専門とする言語学の研究者としてのキャリアを持ち、現在は言葉を題材にした文筆家・作家として活動する著者。本書では、言語学の知見を随所に取り入れながら、著者自身の日常の体験や研究発表の場、教壇での実践を通して考えてきた、自分の言葉を「わかってもらう」方法が語られています。「伝える」「理解させる」ではなく、「わかってもらう」という表現には、近年よく使われる「発信力」や「言語化力」といった言葉の力には含まれにくい、大切な視点が込められているのかもしれません。
 

私たちはなぜ法に従うのか
法と「正しさ」をめぐる3000年の世界史
白田 秀彰 / 亜紀書房 
「法」とは、私たちの生活に最も身近でありながら、同時に最も遠い存在かもしれません。本書が投げかける問いは、「そもそも法とは何か」というものです。現在主流の西洋起源の法の歴史をたどりつつ、世界や日本における「法」と「法律」(本書ではこの二つを区別して用いています)がどのように形づくられてきたのかを解説し、さらに今後の展望について考察します。難しそうに見えますが、大学での講義をもとに平易な文章で書かれているため、するすると読むことができます。社会の「そもそも」を学び直すことができる一冊です。
 
 

なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論

瀬谷薫子 
主婦と生活社

目標という幻想 未知なる成果をもたらす、<オープンエンド>なアプローチ

ケネス・スタンリー、ジョエル・リーマン 
ビー・エヌ・エヌ新社

ミュージックシティで暮らそう 音楽エコシステムと新たな都市政策

シェイン・シャピロ 
黒鳥社

NHK出版 学びのきほん つながりのことば学

齋藤陽道  
NHK出版

相談するってむずかしい

青山ゆみこ、細川貂々 
集英社

忙しい人のための美術館の歩き方

ちいさな美術館の学芸員 
筑摩書房
都市と路上の再編集 LIVE NOW DEVELOPMENT

都市と路上の再編集 LIVE NOW DEVELOPMENT

株式会社Huuuu/くいしん株式会社(編) 
風旅出版
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AIは私たちの学び方をどう変えるのか

サルマン・カーン 
東洋館出版社

「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方

川添愛  
KADOKAWA

私たちはなぜ法に従うのか 法と「正しさ」をめぐる3000年の世界史

白田秀彰 
亜紀書房