身近な国の食文化
中国・香港・台湾の「食」を味わう5冊
ある国の食を知ることは、風土や歴史、そして生活するひとたちのことを知ることと同義でしょう。なぜその食べものが生まれたのか、どのように人々に影響を与え、食べ続けられているのか。その地で日常的に作られ、口にするものだからこそ、ひとを知るには切っても切り離せない、食文化。
今回は世界中の食文化から、中国・香港・台湾で生まれ、作られ、食べられる、身近だけれど意外と知らない、読んで「美味しい」ものたちをご紹介します。
中国料理の世界史
美食のナショナリズムをこえて 日々、口にするラーメンや餃子。その源流は中国にあり──ということは言わずもがなでございます。が、どのように日本へ入り変遷をしてきたのか。あるいは、どのような社会背景があり、中国料理が利用される政治状況は一体何なのかということまでご存知の方は意外といないのではないでしょうか?
本書では、その疑問に答えるように、今や世界中の国──日本・韓国・ベトナム・アメリカなどの「国民食」となった中国料理が伝播した歴史と、各国の食に対するナショナリズムを、膨大な知識と広範な比較をもって丹念に追究してゆきます。600頁を越える濃密な一冊。
ハーブ中華・発酵中華・スパイス中華
中国少数民族料理 広大な国土を有するため、風土や気候がエリアによって大きく異なる国、中国。食文化も例外ではなく「八大菜系」──山東・江蘇・安徽・浙江・福建・広東・湖南・四川料理と大別されています。ただし、ここには少数民族の料理は含まれておりません。中国料理を深く知るには、大別外エリアの食も知らなければならないという想いで編まれたのが本書です。
タイ族・チワン族・イ族・ペー族・トン族・ミャオ/モン族・ウイグル族によって生まれた食べものたちをハーブ、発酵、スパイス編と分け、鮮やかな写真と明瞭な文で紹介したレシピ集。文化の違いも知ることのできる一冊です。
香港 地元で愛される名物食堂
「香港の人々は食に対する気合いがハンパでない。本当においしいものを見極める目と追い求める貪欲さで、お気に入りのなじみの店をもっている。」──2頁より。
冒頭に書かれたその言葉が示すように、本書で紹介される香港の食堂たちは、あくまで地元にあり、想いを込めて丁寧に食べものをつくるお店たち。有名シェフが立つレストランではなく、安価でも本当においしく、何よりやさしい味を作る香港の「街路」のひとの顔が見える一冊です。また、食堂と食べもの、働くひとはもとより、市場で買える調味料や雑貨、食器も写真と文でお知らせしてくれます。
味の台湾
かつて「何が台湾の味なのか」という問いを受け、どう答えてよいか分からなかったことに端を発し、食文化研究やフィールドワークに勤しんだ著者。
本書は、台湾を代表する現代詩人でもある氏が、そのときどきの人びとによる生活や経済状況、歴史──中国や日本由来の流れとも深く絡み合い、独自に辿ってきた台湾食を自身の体験や記憶と絡ませながら紡ぐ60篇のエッセイ集です。
もちろん食の歴史や背景などを書いた箇所もありますが、大きな特徴は読み手にも「ああ、人生のあの場面で食べたものがあるなあ」という「味覚の郷愁」と言いうる想いを起こさせることでしょう。本書そのものが「小吃(シャオチー/中華の一品料理)」のような美味しい一冊。
台湾の美味しい調味料─台湾醤
ひとさじ加えることで「その国の味」が現れる魔法のようなタレ、醤(ジャン)。色々な調味料や素材を混ぜ合わせることで誕生する醤は、いわば「万能タレ」に似ています。 日本のスーパーなどでよく見るのは中華の豆板醤や韓国のコチュジャン。一方、本書で追及するのは台湾醤。台湾を代表する30種類の食材を使用したレシピでこちらへ味覚を与えてくれる一冊です。
漬物類、乾物類、穀類、香味野菜と果物、調味料、と使用する材料を5編に分けた構成で、全頁フルカラー。洒落たポップなイラストと思わず喉を鳴らしてしまう写真で彩ります。
また、今回ご紹介した本たちはもう一つ大切なことを教えてくれます。当たり前のようでいて、忘れかけてしまっていたことです。それは食というものの真髄はひとが込めた想いであり、人生は日々の「味」によって紡がれているということを。
中国料理の世界史—美食のナショナリズムをこえて
岩間一弘慶應義塾大学出版会
ハーブ中華・発酵中華・スパイス中華—中国少数民族料理
小山内耕也:中村秀行:水岡孝和柴田書店
香港地元で愛される名物食堂
鈴木由美子ダイヤモンド・ビッグ社
味の台湾
焦桐、川浩二みすず書房
台湾の美味しい調味料台湾醤
種シ設計 、光瀬憲子翔泳社
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