私たちをつなげるコミュニケーション
改めて考え、実践する5冊

コミュニケーション。それは、人と人、あるいは人と他の生きものやモノ、それら同士をつなげる営み──と一口に言ってしまえば簡単ですが、その実体を気になったことはございませんか。
頻出する「コミュニケーション能力」という言葉が示すような、相互の関係を円滑にさせる力やスキルがあれば、人は果たして本当につながることが出来るのか。あるいは、その術とは何なのか。何かを伝える以外に、実はもっと本質的なものがこの言葉には潜んでいるのではないか。そして、そこから「つながり」を知ることは出来るのではないか。
ここ数年でさらに流動的に生きるようになった現在。あらためてコミュニケーションを考え、実践するきっかけになる5冊の本をご紹介いたします。

会話を哲学する
コミュニケーションとマニピュレーション 従来イメージされる「コミュニケーション」。それはきっと「情報伝達」と換言しうる営みでしょう。話し手が聞き手に伝えたいこと・ものを渡し受け取る。今や当然のような構図です。しかし本書では、その図式で人々の会話を説明するには不足である、ということを起点として、会話の持つ複雑性や面白さを解き明かしてゆきます。
発言を通じて会話中の約束事を形成してゆくこと=コミュニケーション、一方、コミュニケーションを通じて相手に影響を与えようとすること=マニピュレーション。この二つの考えを用いながら、様々なフィクション作品(『うる星やつら』や『ONE PIECE』等)における会話場面を媒介とすることを特徴としながら、分かりやすさと鋭さを両立させて切り込み「哲学する」点も、他に類を見ない一冊たらしめていると言えるでしょう。

聞く技術 聞いてもらう技術
「なぜ話を聞けなくなり、どうすれば話を聞けるようになるのか。あるいはどういうときに話を聞いてもらえなくなり、どうしたら話を聞いてもらえるのか。」(16頁)を主題に据えて始まる本書。
ただ単に、実践的な「聞く」技術を羅列するのではなく、人が抱く孤独や救いとなるつながりを思索することから「聞く」ということを再考する点。それも、著者自身の臨床での経験や、専門家ではない多くの方のよくある日常生活での話と絡ませ深掘りし、ときにユーモアを交えて、まるでそこで語ってくれているような文体に、思わず「聞」き続けてしまう魅力に満ちた一冊です。
「誰かが話を聞いてくれる。それがちぢこまってしまっていた心をゆるませ、心を再起動するためのスペースを作ってくれる。」──234頁より

上司に信頼される話し方 部下を傷つけない話し方
「伝えること話すことだけではなく、聴くこと、観ること、時には無言でいることも、『話し方』だという視点で書」かれたという本書。(「」部、206頁より引用)
その時々で相手の状況や相互の関係など大なり小なり異なっていても、コミュニケーションをより豊かにすることは、相手への心配り──。
この本では、上司・部下・同僚といった関係を主に、仕事上や職場でのやり取りを例に取り、仮定されたシチュエーションでの発話NG例をGOOD例に置き換え、同時に場面ごとの解説が付されているつくりが採用されています。
言い換えひとつで、印象がぐんと前向きになる言葉の数々や分かりやすい解説に舌を巻きますが、英単語のように暗記して咄嗟に使えるものではなく、心配りがあってこそ。
スキルや技術を知ると同時に、コミュニケーションにおける心得も伝えてくれる一冊です。

1日1トレで「声」も「話し方」も感動的に良くなる
「声が通らない」、「暗い声だと言われる」、「声に説得力を持たせたい」など、声に関する悩みを持つ方はきっと少なくないはず。また、「回りくどいと思われていそう」「会話が続かない」など話し方に自問してしまう方も。あるいは、その両方とも該当するという方も。
日々生きるなかで不可欠なコミュニケーション。非言語かつ発話しないケースもございますが、本書では声を用いること──中でも、もっと上手く・良く伝えたいという方へ向けた具体的な改善案を、ポップなイラストと平易な文で提示してくれています。
アナウンサー業をしていた時でもつまずいていた著者自身の失敗やクセを踏まえた説明も、より良く届く声が出せるよう、きっと背中を押してくれることでしょう。

元公安捜査官が教える
「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術
最後にご紹介するのは、少々異なるアプローチからの本です。
タイトル通り、公安で数々の情報を引き出してきた著者による、相手の胸の内にある情報を得るための技術を書いた本書。ただし、技術と言っても単純に真似をすれば出来るようになるわけではなく、前提として相手との「信頼関係」を築かねばならないと説きます。 翻って考えれば、「本音」「嘘」「秘密」を得ることそのものよりも、それら秘匿したいことを引き出すまでの関係構築の重要さを教えてくれている、とも言えるでしょう。
人はどのように接したら、目の前の相手との信頼関係が強固なものになるのか。言語のみならず仕草や振る舞いといった身体コミュニケーションが及ぼす作用にご興味がある方へおすすめの一冊です。
しかし、それほど私たちにとって肉薄したことであるという証拠とも言えそうです。そのはず、こうして書いた文も一つの伝え方、あるいは読んで下さるあなたの耳目、ひいては心をお借りしてのやりとりの一つで……と、何かしらのつながりを感じるやりとりが生じると、キリがなくなってしまうコミュニケーションという営みの範疇。
目に見えず、曖昧としているからこそ困難で、掴みどころがなく、でも、やはり大切なこの営み。普段何気なく接する人や立場が大きく隔たる人とのあいだなど、あらゆる場面での交感が、ご紹介したタイトルによってより朗らかで温かいものになりますように──。
会話を哲学する
三木那由他光文社
聞く技術聞いてもらう技術
東畑開人筑摩書房
上司に信頼される話し方 部下を傷つけない話し方
比嘉華奈江ダイヤモンド社
1日1トレで「声」も「話し方」も感動的に良くなる
阿部恵日本実業出版社
元公安捜査官が教える「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術
稲村悠WAVE出版
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