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日本政治の行方

ジェラルド・カーティス教授による、日本の政治シリーズ 第3回

更新日 : 2009年08月26日 (水)

第4章 新政権に何を期待しますか? 会場から出た意見の数は、なんと…

ジェラルド・カーティス: 民主党が勝つとすれば、どういう勝ち方をするかが、ものすごく重要になります。単独で「絶対安定多数」つまり、およそ260以上の議席をとるのか、それとも単独で過半数をとれず、連立・連合で政権をつくるという不安定な状況になるのか。

選挙にはリズムがあって、流れが変わります。今、民主党に対する逆風が吹き始めています(編注:本講座開催日は7月28日)。どちらが与党で、どちらが野党かわからないような選挙戦になっていて、民主党が自民党から非常にアタックされています。「いろいろなことをやろうとするけど、財源はないじゃないか」と自民党から攻められているのですが、それに対する民主党の対応の仕方があまり上手だとは思えません。

民主党がまず言うべきは、「よく自民党は真面目な顔して財源のことを言えるもんだ」ということです。この国を対GNP180%の赤字国家にしたのはどの政党か、この国の財政をめちゃくちゃなものにしたのはどの政党か。財源のことを考えないでお金をばら撒いてきたのは自民党なのに、「財源がないのに民主党は無責任だ」なんてよく言えたものです。なのに、民主党は反撃しないばかりか防衛的になって言い訳をしています。

以前、ここ(アカデミーヒルズ)でオバマさんの話をしたときに、私は「オバマさんには国民を説得する力がある。『説得力』が政治家にとっては一番重要だ」とお話しましたが、鳩山さんにはそれが足りません。「官僚による官僚のための政治ではなく、国民による国民の政治をやる」といくら言っても、何をするかという政策の話がなくて、その話ばかり聞かされていると飽きるんですね。民主党にとっても、厳しい選挙になる可能性はますます強まっていると感じます。

さて、みなさんに質問です。民主党に対して何か期待できることはありますか? 期待している方は、何を期待していますか。(会場で手を挙げたのが)1、2人しかいないということは、誰も期待していないということですか? じゃあ、なぜ民主党が勝つと思うのでしょうか? おそらくここには「それでも民主党に入れる。自民党は嫌だ」という人もいるでしょう。しかし、何も期待がない、期待しないというのでは、圧勝するはずがないんです。期待することはないのですか?

会場の声: 民主党のマニフェスト通りだと無駄がなくなって、今まで官僚組織と批判されてきた日本の政治が、政治主導、政治家主導に変わる可能性があると思います。

ジェラルド・カーティス: その可能性はありますが、政治主導になって官僚の力が弱まっても、いい政策がなければ何もいいことはありません。政策への期待がなければ、やり方だけ変えても意味がないのです。

会場には女性もたくさんいらっしゃいますが、民主党の子ども手当て26,000円、出産一時金55万円、公立高校の授業料無償化などはどうですか。家庭を持つお母さんだったら、それでも期待しませんか?

会場の声: 箱物をやめて社会福祉にお金をシフトするのはいいことだと思います。モノをつくるのではなくて、ヒトに投資する方が将来性もあるし、社会も安定すると思います。

ジェラルド・カーティス: そんなに大きな期待はないという感じですね。私も、それほど大きな基本政策の変化は多分ないだろうと思っています。でも、それにはいい面もあるんです。

例えば日米関係を考えたら、インド洋での給油にずっと反対していた民主党が、基本的には延長しないけど当面継続すると言ったでしょう。とてもいいことです。自民党からは「ぶれている」と攻められていますが、ぶれたのではなくて、政策を変えたんです。変えた理由は、やっぱり現実的になっているからです。

先日、民主党の幹部と食事をしました。非常に印象的だったのは、今までにない緊張感と一種の興奮が、ものすごく伝わってきたことです。今までは政権交代というのは抽象論で「政権をとれば、官僚ではなくて政治主導でやる」と言っていたのですが、今回会ったときは、「1カ月後には自分たちが政権を本当に担当することになるだろう。どうしよう」という緊張感がありました。

私は以前にも「アメリカはモデルにならない。日本は議院内閣制であって大統領制ではないし、明治憲法はドイツとイギリス、フランスの影響があってつくられた憲法なので、ヨーロッパのやり方が参考になる」「イギリスに行って、内閣と官僚の関係、政治家と官僚の関係を学ぶべきだ」という話をしたことがあるのですが、その夜もそう言いました。その後、その幹部はイギリスに飛んで行き、戻ってきてからは「官僚と協力態勢をつくらなければいけない」と、これまでは使わなかった表現で話すようになりました。この例からも、非常に現実的になっていることがわかります。

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日本の政治シリーズ 第1回、第2回のレポートはこちらからご覧になれます。

プロフィール

Gerald L.Curtis
Gerald L.Curtis

コロンビア大学政治学名誉教授