記事・レポート

「世の中に必要なもの」、それが付加価値づくりの原点になる

巨大な生保業界に風穴をあけられるか
~ライフネット生命保険・岩瀬大輔氏が語る「志」~

更新日 : 2009年07月14日 (火)

第5章 あの手この手でパブリシティにチャレンジ

米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター長・教授)
日本元気塾 会場の様子

岩瀬大輔: 2008年5月インターネット専門の保険会社としてスタートして、自分たちが想像していたよりもメディアに取り上げられました。最初の半月で400件の申し込みが来ました。ほとんど初日にワーッと来て、あとはゆるやかになりました。

ネットビジネスといえども、地道に足で稼ぐのが大事だと思い、保険セミナーを開催したり、勉強会で講演をしたり、週末にお客さまを招いて保険相談会をやりました。毎日あちこち行きました。でも今振り返ると、結構悶々としていました。いろいろなことをやっているけれど、なかなか形が見えないという時期でした。

9月にJRを広告ジャックしたときは、かなりの反響がありました。10月からは『保険市場』という保険比較サイトや代理店のサイトでの取り扱いを始め、これである程度安定して、一定の割合が流入してくるようになりました。再度JRの広告をやったのですが、今度は思ったほどの効果がなくて、「あれっ?」と拍子抜けしてしまいました。

そこで「保険の原価開示」というのをやったのです。「我々の保険料はこうです。そのうち保険金に回る純保険料はこれぐらいで、うちの手数料はいくらです」と開示したんです。それがネットでニュースになり、ホームページへのアクセスが殺到。それがまた記事になりました。

『R25』とタイアップもしました。今までのような義理人情のコマーシャルではなくて、もっと楽しく、軽くやってもいいじゃないかということで、吉本興業の芸人さんを起用しました。あとは、オバマの支持率とからめてプレスリリースを出したり、いろいろやりました。

『週刊ダイヤモンド』(2009年3月14日号)の特集記事「プロが選んだ 自分が入りたい保険」で、めでたく死亡保障の部1位、競合にも差をつけて選ばれました。

まだまだ全体として数字は小さいのですが、スタートした時点からするとどんどん上がってきている状況です。しかし、我々の一般の認知度は5%ぐらいです。やはり「新しい会社で大丈夫なの?」みたいなことは課題です。

(左)米倉誠一郎氏 (右)岩瀬大輔氏
私はここに至るまで仕事を転々としてきました。今、ようやく自分の居場所を見つけた感じがしています。大学のときは「早く就職したい」と思っていました。就職をしたら「早くマネジャーになりたい」「早くMBAに行きたい」とか、いつも自分が通過点にいるような気がしていました。

A地点からB地点に旅行していると、「とにかく早く目的地に着きたい」と思っていたのがこれまでの自分。今はそうではなく、AからBに移動する旅を楽しんでいます。電車の中から見えてくる風景であったり、同乗している人と話をしたり、聞こえてくる音など、その過程自体を楽しまなければいけないということに気がついたのです。

会社の目標からはまだまだ遠いのですが、その過程を毎日毎日踏みしめながら、そのこと自体にすごく喜びを感じるようになりました。

振り返ってみると、「何をやるか」というのは、それほど重要ではないんです。それよりも「誰とやるか」というのが自分にとってはすごく大切なんです。今回、ゼロからベンチャーを立ち上げて一番喜びを感じているのは、予想していたよりもいい人がたくさん集まってくれたこと。自分で誰と働くかを選べる、あるいは自分がどういう会社にしたいかという企業風土をつくっていける、その喜びは大きいです。

何か自分にしかできないことをやっているような感覚、ユニークな個性を活かした仕事をしているという感覚、それを持ちたいと思っています。投資ファンドで株を売買してお金を儲けるということにはあまり興味がなくて、せっかくやるのだったら何か社会に自分が確かに生きた足跡を残せるような仕事をしたい、そんなふうに考えてやっています。