記事・レポート
福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から
ケロッグ大学大学院モーニング・セッション 講師:前田正子
更新日 : 2009年07月29日
(水)
第13章 唯一の正解も、唯一の正義もない。「今よりベター」を探す
前田正子: ケロッグで役に立ったというのは、友達との出会いももちろんありましたが、あるオーガニゼーション・ビヘイビアの先生に会えたことです。お名前は覚えていないのですが、その先生が、「ビジネススクールは組織運営のいろいろなツールを教えるよね。でもそれはただのツールなんだ。企業経営においてたった1つの正解を導く魔法のツールなんかないんだよ。世の中はケーススタディーとは違う。いろいろなツールの組み合わせによって、いろいろな答えも出る、同じツールを使っても答えはいくつも出る。たった唯一の正解なんてない」とおっしゃったのです。
「様々にでてくる選択肢の中から、正解を見極めるのは、自分の人間としての力だ。それはビジネススクールでは教えられない。自分がこれまでに生きてきた経験や、いろいろ読んできた本、友達との出会いなど、そういう様々な経験の中で力をつけてきた人間が最終的に何が正解かを見極められる」と教わって、それがずっと残っているのです。
行政は、まさにそういうところです。適切な例かどうかわかりませんが、保育園の話をしたいと思うのですが、保育者はニーズ判定して入れます。一応、基本的には利用者制度で、利用者は好きな保育園を選べます。しかし、横浜の場合は待機児童が多いので、私の在任期間中には新たに116カ所も増えたのに全然待機児童が減らなくて、財政局長から首を絞められそうになったんですけれども、結局ニーズ判定して優先順位をつけるわけです。
しかも応能負担で所得の高い人ほど保育料は高い。保育所を「女性の就労を支える投資だ」と考えれば、所得を高い人を入れた方がいいのです。納税してくれるのですから、その人を支えるのはリターンがあります。しかし保育所を「福祉施設」と考えれば、所得の低い人を入れるべきです。
今、保育所の利用者は二極分化しています。中途半端な労働条件の人はなかなか子育てしながら働けません。ですから、本当に雇用条件にも恵まれた大企業の高収入のお母さんたちと、今日はお話できなかったのですが、例えば、精神疾患のお母さんが増えていますので、育児ができなくて、子どもを保育園に通わせないと子どもの生活サイクルが守れないような人もいて、二極分化しているわけです。「福祉だ」と考えれば、所得の低い人や、そういう人を優先するべきです。
保育料の算定もそうです。「負担できる人には負担してもらうべきだ」となれば、所得の高い人には思いっきり100%負担してもらってもいいのです。今、親が払う保育料は保育費用の2割をカバーしているにすぎません。
ですけれども、高額所得者は納税もしてくれているのです。高額所得者は、利用できる福祉サービスが少ないことを考えれば、保育所を彼らの納税に対するリターンとして安くすることも考えられます。どちらが正解か、決められません。
行政は毎日がそういう作業です。ビジネススクールで言われたように、唯一の正解はない、唯一の正義はない。でも、ベストはないけれど限られたパイの中で「今よりベターは何か」ということを常に現場で模索する、そういう面白さはすごくありました。
「様々にでてくる選択肢の中から、正解を見極めるのは、自分の人間としての力だ。それはビジネススクールでは教えられない。自分がこれまでに生きてきた経験や、いろいろ読んできた本、友達との出会いなど、そういう様々な経験の中で力をつけてきた人間が最終的に何が正解かを見極められる」と教わって、それがずっと残っているのです。
行政は、まさにそういうところです。適切な例かどうかわかりませんが、保育園の話をしたいと思うのですが、保育者はニーズ判定して入れます。一応、基本的には利用者制度で、利用者は好きな保育園を選べます。しかし、横浜の場合は待機児童が多いので、私の在任期間中には新たに116カ所も増えたのに全然待機児童が減らなくて、財政局長から首を絞められそうになったんですけれども、結局ニーズ判定して優先順位をつけるわけです。
しかも応能負担で所得の高い人ほど保育料は高い。保育所を「女性の就労を支える投資だ」と考えれば、所得を高い人を入れた方がいいのです。納税してくれるのですから、その人を支えるのはリターンがあります。しかし保育所を「福祉施設」と考えれば、所得の低い人を入れるべきです。
今、保育所の利用者は二極分化しています。中途半端な労働条件の人はなかなか子育てしながら働けません。ですから、本当に雇用条件にも恵まれた大企業の高収入のお母さんたちと、今日はお話できなかったのですが、例えば、精神疾患のお母さんが増えていますので、育児ができなくて、子どもを保育園に通わせないと子どもの生活サイクルが守れないような人もいて、二極分化しているわけです。「福祉だ」と考えれば、所得の低い人や、そういう人を優先するべきです。
保育料の算定もそうです。「負担できる人には負担してもらうべきだ」となれば、所得の高い人には思いっきり100%負担してもらってもいいのです。今、親が払う保育料は保育費用の2割をカバーしているにすぎません。
ですけれども、高額所得者は納税もしてくれているのです。高額所得者は、利用できる福祉サービスが少ないことを考えれば、保育所を彼らの納税に対するリターンとして安くすることも考えられます。どちらが正解か、決められません。
行政は毎日がそういう作業です。ビジネススクールで言われたように、唯一の正解はない、唯一の正義はない。でも、ベストはないけれど限られたパイの中で「今よりベターは何か」ということを常に現場で模索する、そういう面白さはすごくありました。
福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から インデックス
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第1章 横浜市が取り組む財政再建
2009年02月18日 (水)
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第2章 どこかにお金を回すには、どこかを削らなければならない
2009年03月04日 (水)
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第3章 行政の仕事は、八方美人は無理
2009年03月11日 (水)
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第4章 議会と行政と市民の関係の変化 ~ハッピーな時代の終焉~
2009年03月18日 (水)
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第5章 マーケットを拡大する方法は、今後の日本市場では通用しない
2009年03月27日 (金)
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第6章 地方より都市部で生活保護率が高い理由
2009年04月07日 (火)
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第7章 国策による社会保障費減らしで地方は崩壊する
2009年04月24日 (金)
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第8章 例えば介護ヘルパーの不足を待遇で改善するとしたら
2009年05月15日 (金)
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第9章 本当に必要な公的サービスとは何か
2009年06月03日 (水)
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第10章 ニートやフリーターは「一部の人」の問題ではない
2009年06月23日 (火)
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第11章 クレームをつけるだけの消費者市民は、社会的コストを上げる
2009年07月09日 (木)
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第12章 与えられたチャンスでベストを尽くす
2009年07月28日 (火)
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第13章 唯一の正解も、唯一の正義もない。「今よりベター」を探す
2009年07月29日 (水)
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第14章 少子化と騒ぎながら、母国語も日本語も話せない子どもを放置
2009年07月30日 (木)
該当講座
前田正子 (財団法人横浜市国際交流協会 理事長)
世界最高峰のビジネススクール、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院日本同窓会とアカデミーヒルズが送る知の交流。同校教授を始め日本や世界で活躍する卒業生を招き、講演やディスカッションを通じてケロッグならではのカジュアルな雰囲気のなかで、マネジメントの最先端やリーダーシップの真髄に触れます。 大好評....
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