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人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~

その他
更新日 : 2009年03月23日 (月)

第8章 パフォーマンス評価で残業代と賞与のバランスを図る

会場からの質問: 会社に支払い能力がないなかで規制されると、最終的には全員が失業するわけで、従業員も困ります。そこで1つのアイデアとして、「自分たちは自主的に勤務外でやります、ボランタリー、ボランティアとして」という念書を社員から一筆もらえば、企業を守れるのでしょうか。

もう1つは、管理職になった人は、いわゆる業務手当を出すなりして、契約形態を変えることによって回避できるのでしょうか。

高谷知佐子: 最初の念書ですが、過去分についてなら念書はとれないことはないと思います。一番いいのは過去分を調査し、真摯な同意に基づいてこれを放棄していただく。これは法律的にも有効になります。もちろん、あとから撤回されるかも知れませんが、直ちに無効になるものではないです。監督署にとっても、従業員が異議を唱えない、納得していることが重要です。

もしも従業員の反対を押し切ってやる場合は、「過去について制度はなかったのだから、過去分を払え」という主張に対して、有効な反論はしにくいと思います。

将来分に関しては、なかなか難しい。ボランタリーでも「会社の業務のための活動」と認められると労働時間になるので、支払い義務が発生してしまうのです。

もう1つのアイデアですが、ある程度上の立場になったら契約社員、業務委託社員になるというご趣旨だと思います。ただし、日本では「業務処理請負」とする基準が厳しく決まっています。これをクリアできるのであればオプションになり得るのかも知れません。

ただ、人事とか企画に関わる場合、会社の指揮命令から離脱した業務委託、業務処理請負ということはあり得ないので難しいと思います。

一方、営業職について営業活動を業務委託して、全部歩合にして委託する。これならあり得るかもしれません。

会場からの質問: 私どもの会社は、管理職には役職手当、営業職には営業手当、内勤職も業務手当をつけて、「手当をもって残業代に当てる」という考え方でやっていました。社員もそれなりに納得してやっているわけで、労使紛争が起きているわけではないですが、これに残業代を純粋につけると手当を超えてしまうわけですから、バランスとして給与がぐっと上がってしまいます。

残業代をたくさんかけてパフォーマンスを上げてもらう人と、残業代をかけないでパフォーマンスを上げている人が同じ賞与ではおかしいと思うのです。1つの考え方として、賞与の中から残業代を引いてお支払いするような考え方というのはあり得ますでしょうか。

高谷知佐子: 労働基準法が気にしているのは、「時間外労働に対してきちんと手当が支払われること」です。今のお話だと、これから時間外労働の時間も賞与決定時に加味すると制度変更するわけですが、恐らく、変更が不利に働く人もいるので、「この変更が合理的な範囲内に収まっているかどうか」の話だと思います。

時間外労働で支払った手当を単純に賞与から引く場合、ちょっとあからさま過ぎて、「賞与の決定方法の変更の合理性」について疑いがあります。要するに、「会社はトータルの出費を今までと同じにしたいだけじゃないか」という疑いです。

それより、パフォーマンス評価をうまく組み込んで、それをボーナスに反映する形がいいと思います。「時間外の時間を評価して、その評価に基づき賞与を決定する」というのあれば、納得性も高いと思います。
(その9に続く、全10回)

※この原稿は、2008年9月3日にアカデミーヒルズで開催した『ヒューマンリソースマネジメントの舞台裏:人事労務の法的課題~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応~』を元に作成したものです。

該当講座

人事労務の法的課題

~マクドナルド判決に学ぶ企業の対応

人事労務の法的課題
高谷知佐子 (森・濱田松本法律事務所 弁護士)
山本紳也 (プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー)

人事・労務専門弁護士の人気ランキングで常に上位に入る高谷知佐子弁護士をお迎えし、昨今の人事・労務問題をどう解決するか、企業の対応策を考えます。今回は、マクドナルド判決を取り上げます。東京地裁の判決を解説するとともに労働基準監督署の指導基準にも触れながら、これら問題の背景および本質を探ります。 ま....


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