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「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」

更新日 : 2009年07月22日 (水)

第20章 地球は気候変動に対してロバスト。問題は、人間がロバストじゃないこと

北野宏明さん

北野宏明: ところが、CO2がなければいいかというと、そうでもないのです。CO2がすごく少なかった時期というのが、大体7億年前ぐらいのときに何回かあります。そのとき何が起きたかというと、「スノーボールアース仮説」というのですが、全球凍結、地球上が完璧に凍ったというのです。このとき、地球の生物の 90%以上が絶滅しています。

竹内薫: つまり、二酸化炭素が増えてもいけないけれど、減りすぎるとまずい。

北野宏明: 温暖化ガスによって地球上の気温は平均10何度かになっているわけですが、それが0度とかになるわけです。

竹内薫: 平均気温が0度。

北野宏明: だって熱が全部(宇宙空間に)出ちゃいますからね。CO2や若干のメタン、あと大きいのは水蒸気などが、温暖化してくれている。要するに、熱を(宇宙空間に)出さないようにしているわけです。

竹内薫: 二酸化炭素だけではなく、水蒸気も。

北野宏明: 水蒸気も温暖化効果があります。

竹内薫: 大きいんですよね。

北野宏明: 非常に大きいです。多分、水蒸気の方が大きいです。

竹内薫: ということは何らかの原因で水蒸気もなくなるようなところまでいってしまうと、急激に冷えてしまうと。

北野宏明: 冷えてしまう。そうすると、「スノーボールアース」、全球凍結です。これは何回かあったんです。O2レベルは上がっているんだけれど、二酸化炭素はほとんどないレベルのときがあって、そのときは全球凍結したと言われています。実際に見てきた人はいませんので仮設にすぎないのですが、多分そうだろうと言われています。

竹内薫: そうすると、我々が今現状で心配すべきなのは、二酸化炭素が上がる方ですか。

北野宏明: そちらの方が今は心配ですね。二酸化炭素がなくなればいいかというと、そんなことはないけれど、今は上がるのが問題。

竹内薫: 地球全体はそういう気候変動に対してはロバストなシステムなんですか?

北野宏明: 多分。

竹内薫: 地球全体、地球は壊れないわけですね?

北野宏明: 40数億年経った今も地球はまだあって、いろいろな生物がいる。何回も生物大絶滅しているけれど、今これだけ生物種がある。だから、いわゆるガイアですよね。ラブロックのガイアは極めてロバストだと思いますよ。

竹内薫: ガイアというのは地球のシステムに生命圏も含めて。

北野宏明: 含めて、かなりロバスト。だから生命圏が100%なくなってしまえば、それは難しいけれども、多分、生命もロバストだから、そういう環境でも生き残る生命はおそらくいるでしょう。さきほどのがんの話と同じで、何億年かかかると、それがまた増えてくるわけですよ。

そういう意味ではガイアは非常にロバストです。人間があまりロバストじゃないというか、人間がこの環境にアダプトしているので、かなりヤバイ。地球環境問題は、「地球が滅びてしまう」とか言うけれど、それはない。そういうレベルの問題ではなくて、人間が滅びるかとか、人間が今の文明レベルを維持できるかどうかというのが、環境問題の本質です。
(その21に続く、全23回)

※この原稿は、2008年7月3日に開催したRoppongi BIZセミナー「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」を元に作成したものです。

※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。

関連書籍

北野 宏明, 竹内 薫
オーム社

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該当講座

したたかな生命
進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か
北野宏明 (ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長  )
竹内薫 (作家・サイエンスライター・理学博士)

大腸菌、癌細胞、ジャンボジェット機、吉野家、ルイ・ヴィトン、一見するとばらばらなこれらのものには共通点があります。それが「ロバストネス」。「頑健性」と訳されることの多い言葉ですが、その意味するところはもっとしなやかでダイナミックなものです。システム生物学から生まれたこの基本原理は取り巻く環境の幅広い....


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