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自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~

アカデミーヒルズセミナー経営戦略
更新日 : 2008年11月07日 (金)

第16章 知識集約的なものづくりをしない限り、今の所得は維持できない

竹中平蔵さん(左)、冨山和彦さん(右)

冨山和彦:  明るい話も多分した方がいいので、成長の話をします。先ほど「交易条件の悪化で、競争力はクエスチョンマークだよ」と言いましたが、一方でメーカーさんの仕事をしていると、現状で、アメリカ、ヨーロッパが少し落ちてきたところで、実はもうかっているところがちゃんとあるのです。それは圧倒的にBRICs向けです。BRICsの28億人が、中産階級になってくるということは、これはものすごいことであります。この前、竹中さんがおっしゃったように、先進国って意外と人口が少ないんですよね。

竹中平蔵: そうですね。成長でいいますと、去年4.4%成長していますけれども、そのうち半分がBRICsで2.2%、先進国の貢献は1%だけですね。

冨山和彦: 確か十数億しかなかったはずで、その倍以上の人口が大成長します。ということは、そこに当然、日本の経済も成長機会があるのは当たり前であります。じゃあ、そこでどうやって成長していくかというと、日本は結構世界的に所得が高いので、当たり前ですが、付加価値競争力ということに必然的になります。

付加価値競争力を高めるということは、突き詰めていえば、私たちの知識武装力や知識競争力があるか、ないかということに尽きます。ものづくりだって同じです。知識集約的なものづくりをしない限りは、今の所得は維持できません。

そうすると、結局、さっきの竹中さんと同じところに話がいってしまうのですが、どうやったらいいのかといったら、答えは自明で、「競争のレベルをもっと上げて、ガンガン競争して、必死こいて頑張って」ということしか、多分答えはありません。

裏返していうと、それを一番邪魔する人たちが、既得権益の中で楽をしている人たちです。その点でいけば役人あるいは、守られた業界でやっている人です。申しわけないけれど、これじゃあ、食っていけなくなるので、既得権をぶっ壊して、もう1回、しゃばに出て頑張ってもらうしかないんですね。

こんなものは時間をかけてやるしかないです。5年10年20年我慢してやるしかないんです。そこは腹をくくらなければいけないので、「それは腹をくくってね」と、だれか政治家がちゃんと言ってくださいというのが、私のお願いです。

もう1つは、さっき竹中さんに言われてしまいましたけれど、やはり教育にしろ、何にせよ、すべてグローバルにしてオープンにすることです。そうすると、私たちは気がつかなかったが、世界的に大変厳しい競争をやっていて、実は日本が貧しくなっているという現実に気がつくのです。

前に言ったかもしれないのですが、12月ごろになると、私の会社がある秋葉原には、世界中の外国人が集まってきます。アジアの人もいっぱい来ます。例えば、私たちが昔、バブルのころに物価が安いと思って買い物に行っていたシンガポールの人たちが、秋葉原と銀座にいっぱい来ています。

理由は簡単です。電気製品などを買おうと思ったら、日本が世界で一番安い国になっているからです。もうすでに私たちの経済社会は、ある意味では開発途上国型になっているのです。ちゃんとグローバルになれば、みんなそういうことに気がつき、頑張らなければいけないということに気がつくのは当たり前です。

格差の議論でいうと、ぶち壊すべき格差もあります。これははっきりいえば、既得権益の中にいる人と外にいる人の格差です。こんなのはむしろ規制緩和でぶち壊せるのです。だから、こんなものはもうぶち壊せばいい。これこそ不公正な格差です。

でも、一方で、競争力から生じる格差というのは、生活上のセーフティネットの問題を除いて考えたら、これはしょうがない、受け入れるしかないと、私は思います。少なくとも、政治家のだれかが、それをちゃんと言わないとアンフェアです。要するに、うそをつくことになります。

先ほど、加藤先生が言われたように、頭の中で、経済成長というテーマ、財政再建というテーマ、競争から生まれる格差そのものを是正しようというテーマ、この3つ分の連立方程式は、だれがやったって解けません。これを解こうとしたら政権放り出すしかないです。どれかを捨てなければだめなんです。

くどいようですが、その昔に私の祖父母が移民したときのように、等しく貧しくなりたいというのだったら、それは、そういうふうに言えばいいのです。「皆さん、貧しくなりたいですか?」と言えばいいんでしょうね。与謝野さんの路線はそれに近くなると思うのです。実名でいってしまいましたが、それは言うべきであり、そこはポイントだと思うのです。

いくらでも日本には成長のチャンスはあるんですよ。極めて安全で、気候風土が温暖で、いろいろないい条件が、実は世界で最も揃っている国の1つであることは間違いないですし、幸い、日本国民はほぼ全員が読み書きそろばんは、少なくともまだできます。ということは、付加価値競争力を高めていく社会的基盤があるということなので、そこは十分可能性があると思っています。

そういう意味では、要は、少なくとも政府がまともになってくれれば、私はいくらだって成長機会があるし、いくらだって比較的等しく豊かになれるチャンスはあると思っていますので、何とかしてくださいということです。

加藤寛: 今、お話を伺っていまして、全くそのとおりなのですが、私、悲観論者に見られてしまったので、何かおかしくなってしまったんだけれど(笑)。だんだん皆さんの意見を聞いていると、やはり後期高齢者はどんどん排除しようという動きがあるんじゃないかと思って、だんだん私が悲観論者に回されてしまうのが残念でしょうがないんですけれどね(笑)。

私が言っているのは、「政治、経済、社会規律は、それぞれ10年間隔でだんだん直っていくんですよ、だから、2020年には回復するでしょう」ということなんです。つまり、大体1990年にバブルが崩壊して、経済がだめになって、それからいろいろ出ますね。それと同じように、それが大体30年プラスして2020年には明るさが見えてきますよということなのです。

そうすると、もう今2008年ですから、もう少しですよね。もう少し頑張ればいい(笑)、と私は思っていますから、決して悲観論ではありません。

※この原稿は、2008年9月15日にアカデミーヒルズで開催した緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~」を元にアカデミーヒルズが作成したものです。

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